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第一章 「お江戸いけめん番付」の色男

玖 菊と刀

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 殷慶いんけいは五郎の背後に廻ると、石鹸水を肩から脚の先まで巡らせるように流しかけた。石鹸を直接、尻の谷間にすり込んで辷りをよくする。自慢の魔羅を谷間に挟み、胸から腹を五郎の背中にぴたりと合わせて抱きつくと、『ぼでぃあらい』を始めた。
「児玉の。オメエみてえな色男がこの町内をほっつき歩いてりゃあ、そりゃあ注目あびるわなあ。しかも『二本差し』で男も女もイケると『あぴぃる』しやがるなんざ、まったくとんでもねえ町方同心おまわりさんだ」
 殷慶は五郎の耳元でこう囁き、五郎の肉刀を三擦半した。
「ご、ご住職……。は、はあぁ……」
「ちょっと動くぞ。吊り輪にしっかりつかまってな」
「ひいいいいいっ!」
 殷慶は五郎の腰を両手でつかみ、縦横無尽に激しく腰を振った。素股である。尻の谷間できめ細かな泡がモコモコ立ち、そして溢れだし、五郎の内股をくすぐりながら垂れ落ちた。
「児玉の。これは悪い例だ。蔭間は、やさしくしてやんねえとダメだぜ」殷慶は、こんどは腰をゆるやかにくねらせた。「こんなふうにな」
「ふ、ふうぅ……」
 五郎は緊張を解いた。『素股ぷれい』の相手をする。しまいには自分から腰を使いはじめた。
「児玉の。つぎは『口吸い(=ディープキス)』を教えてやる」
「へ……ぇ?」
 五郎が素っ頓狂な声を出した。殷慶が突然、動きを止めたので、拍子抜けを喰らったのだ。殷慶はぽかんと口を開けた五郎の前に立つと、片手で首根っこをつかんだ。
「ほう、児玉の。オメエさん、衆道の素質があるみてえだぞ」口吸いの前に殷慶は、五郎の肉刀が振り上げられているのを見た。「一本、お手合わせを願おうじゃねえか」
 上では口吸い、下ではチャンバラと大忙しだ。五郎は満員電車の『さらりぃまん』のように吊り輪をつかんで揺れに耐えている。殷慶は思う存分、舌を絡ませ、腰を振った。

 殷慶が舌を抜いたのは、五郎がすっかり男同士の肌あわせに馴染んだ頃だった。
「児玉の。先にイカせてもらうぞ」
 これも作戦である。自分だけ先に果てて、五郎を寸止めの状態にするのだ。
 チャンチャンバラバラ!
 チャンバラチャン!
「果てる」
 殷慶は身を離して引きさがった。五郎の肉刀に狙いを定める。柿の実のような玉冠部の切れ目から、精を吐きだした。
「ご住職、御無体な……」
 おあずけを喰らった五郎の訴えを無視して、殷慶は五郎の股間の前にしゃがみ込んだ。
「おや、こんなところに糠袋が」
「そ、それは、それがしのふぐりにござる」
 殷慶は、胡桃の実のように硬いふぐりを、両手でゴロゴロ五郎と転がした。
「おい、児玉の。魔羅に比べてずいぶんと小っこいじゃねえか。これは股団子か?」
「はうっ!」
 ゴロゴロ五郎……。ゴロゴロ、ゴロゴロ。
「で、どこの団子屋だ。オメエの『ほの字』がいるのは」
「ひいぃぃぃ……」
 コロコロ小五郎……。コロコロ、コロコロ。
「云わねえと、転がすのやめるぜ?」
「ふぅ、ふ……ぅ。か、『かふぇ・ふぐり~ぬ』の……おっ……おなっつ、お夏どの……」
 ここまで聞き出せば十分だ。殷慶は玉転がしをやめた。壁に立てかけてある簀子寝台を洗い場に置き、湯を掛けて温めた。だらりと吊り輪にぶら下がっている五郎を自由にしてやり、抱きかかえ、簀子寝台まで運ぶ。それから仰向けに寝かせ、両手両脚を四隅にひろげた。
「児玉の。お夏とやらは別嬪か?」
 五郎の代わりに魔羅が頷く。
「女人じゃねえぞ。どこに挿れるか、わかってんのか?」
 五郎の魔羅が天井に向かってそそり勃つ。まるで元気よく手を挙げて、「はぁ~い!」と返事をする小学生のようだ。
「ご住職。これ以上焦らされては……」
「おうよ。今から極楽に案内してやる」
 殷慶が口笛を、ひゅう、と鳴らす。すると天井の一部がパカリと開いて縄が一本降りてきた。縄の先のフサフサが五郎の玉冠部をサワサワと撫でる。
町方同心おまわりさん! お縄をちょうだいされに参りました!」
 すっぽんぽんの芳恵ほうけいが縄を伝って降りてきた。曲芸師か女郎蜘蛛か。巧みにポーズを決めながら菊花を曝し、ゆるりゆるりと五郎の肉刀との距離を縮める。
 殷慶は芳恵が五郎に跨るのを確認すると、「ごゆっくり」と声をかけて浴室を出て、脱衣場で着替えた。
 屏風絵の裏では鎮光ちんこう丹清たんしょうが線香と香炉の準備をして待っていた。下帯争奪戦に負けた鎮光が、線香を一本取りだして、
「児玉さまは初顔ですので、一番短いので宜しいかと」
 そのとき、
 パンパン!
 パンパン!
 浴室から神社でもないのに柏手を打つ音がした。
「ほぉおおおおおっ!」
 五郎の声が響いた。獣が獲物を仕留めたときの雄叫びのようだ。鎮光は、手にした線香を落とした。
 パンパンパン!
 パンパンパン!
 パンパンパンパン、パンパンパン!
 こんどは三三七拍子だ。
「逮捕ぉおおおおおっ!」
 その後も柏手と咆哮は止む気配がない。
 鎮光と丹清は合掌した。
 殷慶は、一番長くて太い線香を、選んだ。
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