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召喚部屋の老朽化、偽物の聖女

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「……召喚の部屋は、普段立ち入る事は許されません。更に限られた者しか入れない部屋だったので、術式に綻びがある事が気付くのが遅れました。しかし、無事に前代の聖女様の崩御と同時に一人の女性が召喚されたので、我々は皆、大丈夫だと勘違いしてしまったのです……」

管理者さんは、悲痛そうにそう言った。
続けて、グザヴィエさんが語る。

「前代の聖女様……いえ、結局彼女は聖女ではなかったのですが……彼女は、聖女の持つ権限を最大限に利用し、自分が王妃となる為、殿下とその母君である王妃陛下を極寒の地に追いやりました」

私と玉井さんは、顔を見合せた。殿下……王子様が聖女を敵視していた理由は、そこにあるらしい。

「結局、聖女様の預言通り……言いなりになってしまった陛下でしたが、聖女様が偽物である事が疑われる様な出来事が起きたのです。それが、長年懇意にしていたある国との国交断絶でした」
「あの……聖女様……その人をもっと早くにどうにか出来なかったのですか?」

玉井さんが口を挟む。
グザヴィエさんは首を横に振った。

「聖女様は、国民に支持されているのです。そんな聖女様を蔑ろにすれば、国そのものが傾きかねません」

成る程。物凄い影響力なのか。黒のものでも、聖女が白と言えば白になってしまう程の。

怖くなって、私は自分の両腕を擦る。

「とはいえ、歴代の聖女様と比べて全くと言っていいほど、彼女の預言は役に立ちませんでした。国民は今でも盲目的に聖女様を信じていますが、私達の間では当然……聖女様の資質を疑う者も出てきました」

聖女様を疑うと簡単に言うけれど、恐らくそれは……クーデターを起こしたり、非国民と呼ばれてもおかしくない程の話なのだろうな、と想像がつく。


「そこで私は、過去に初代聖女様が遺した文献……正確には、初代聖女様がおっしゃった話を側近達が纏めた手記なのですが、膨大な数のそれを読み漁り、ようやっと聖女様の預言の確証を得たい時の方法を探し出したのです。……初代聖女様は、こんな日が来る事まで預言されていたのかもしれません」
ぞくり、と鳥肌が立つ。……聖女と全く関係ない私がこの世界に来るのはわかっていたのだろうか?そうであれば、私が日本に戻る方法も……遺してくれていないだろうか?


「それは、どんな方法なんですか?」
玉井さんの質問に、グザヴィエさんは、すぅ、と表情を消した。
「とても簡単な事でした。……聖女様を、殺す事です」
玉井さんが、ビクリと震えて隣にいる私の腕にすがる。

怖がっているけど、それは当たり前だ。玉井さんは聖女らしいから……可哀想に。私は玉井さんが落ち着く様に、彼女の背中を擦った。

「聖女様は……自分の身の回りの預言が一番初めに出来る筈なのです。つまり、一番簡単な初期の能力ですね。なので、歴代の聖女様の死因は必ず病死か老衰です。事故や災害、ましてや殺される事なんてあり得ないのですよ」
確かに。玉井さんは、王子様に殺されるという預言を視て、それを回避していた。



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