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第二章 カップル(ABC)編

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「キララ、もしかして……とうとうエッチした?」
夏休み明け。繭ちゃんにそう聞かれ、私は危うくイチゴシェイクを吹き出しそうになった。
「な、な、な、なんで!?」
声が裏返る。
「あー、うん。女は経験すると変わるっていうけど、キララめっちゃそれだわ。今までただ天真爛漫で綺麗な良い子って感じだったけど、そこに色気がプラスされて最強な感じ」
「最強……?」
私は窓ガラスを見た。ガラスに反射して映る自分はいつも通りで、繭ちゃんの言葉は全く理解できない。
「あーあ、山田君今までもヤキモキすること多かっただろうに、こんな彼女いたら心配でしょうがないだろうなぁ」
口ではそう言いながら、繭ちゃんは楽しそうに笑ってずずーっとバニラシェイクを吸う。
「じゃあ、夏休み中はずっとエッチ三昧か」
「ま、繭ちゃん!」
私は真っ赤になって、首を振った。
「え?違うの?」
「違うよっ!……良ちゃんはインターンシップ漬けの日々で、私はバイト漬けの日々で、一週間に一回会えれば良かった感じだよ」
でも、夏休み期間中にお祭りデートと海水浴デートには行けたので凄く満足だ。密度の濃い一日という感じがした。
「……ヤバイ、すっかり夏のイベントに夢中でインターンシップとか存在すら忘れてたわ」
繭ちゃんがピキ、と固まる。相変わらず彼女の表現はコミカルで楽しい。リアルな漫画を見ているようだ。そして多分、私の考える夏のイベントと、彼女の言う夏のイベントは中身が違う。
「でも、キララは山田君と一緒にインターンシップに行こうと思わなかったんだ?」
「うん。私もインターンシップのことすっかり忘れて、新しい店長から……あ、もうその店長はまた違う店舗の配属になったから前の店長なんだけど、ともかく夏休みのシフトで相談された時についうっかり安請け合いしちゃってたんだ。でも、来年の二月のインターンシップにはどこか参加したいと思ってるよ」
「よし、私も二月にどっか行こっと」
二人でうんうん頷きながらフライドポテトをつまむ。
でも、繭ちゃんは要領がいいから、これから先の就職活動もソツなくこなすんだろうなぁ、なんて思う。
「良ちゃんがそろそろ自分のいきたい業界や企業、仕事の掘り下げだけはしておいた方がいいって言ってたんだけど、何の理想もなく無難に経済学部に来ちゃったからもうほんと、今からエントリーシートどうしようって悩むよ」
「いざとなったら、山田君に永久就職しちゃいなよ」
繭ちゃんに軽く言われ、私はむぅと膨れる。いつかは良ちゃんのお嫁さんになりたい……けど、一度はきちんと社会人として働きたい。
「そんな訳にいかないよ。それに、きちんと就職活動して働かないと……結婚した後、社会人としての辛さとかお金を稼ぐ大変さとかわからないで、旦那様の悩みを本当の意味では理解できない人になっちゃいそう」
勿論、自分に経験がなくても理解できる人はいるだろうけど。ただ、自分はそんなに器用じゃないだけで。
「キララは真面目だなぁ~。ま、今時デキちゃった婚じゃなければ普通は結婚しないか」
「うん、普通がいいよ、普通が」
普通は、私が一番安心できる合言葉だ。


良ちゃんとはそれから、エッチも普通にしたし、大学生らしい普通のデートも重ねた。ただ、大学三年生の私達にとって、夏休みを終えた後からは人生の大きな転機となる就職活動がいよいよ本格的にスタートする為、二人で会っても自然とそうした甘い雰囲気よりも、志望する会社の話や情報交換の方の比重が大きくなっていった。
「良ちゃん、インターンシップどうだった?」
私が聞くと、良ちゃんは「同じ職種でも、企業によって仕事内容の違いとか風土が全然違うから凄く面白かったよ」と答えてくれた。
「やっぱり、沢山参加した方がいいのかなぁ?」
「どうだろうね。沢山参加するよりも、自分の希望の企業の雰囲気を掴む為に参加した方がいい、とは思うけど」
「うーん……そうだよ、ねぇ……」
手当たり次第とまではいかないけど、私はまだ自分の興味関心がどっちの方向に向いているのか全くわかっていなかった。明確なビジョンのありそうな良ちゃんを見ていると、余計に焦る気持ちばかりが膨らんでいく。
「今度大学でOB・OG座談会を開催してくれるから、それに参加して先輩達の話を聞いて、色んな業種のことを教えて貰ってからでも遅くないと思うよ」
「うん。そうだね、そうしようかな」
OB・OG座談会は有名な企業に入社した先輩ばかりが集まるから気後れしてしまったけど、確かに企業という目線じゃなくて業種という目線で色々お話を聞くのは悪くないかもしれない。
「ところで良ちゃん、私の書いたエントリーシート、ちょっとチェックして貰ってもいいかなぁ……?」
「うん、勿論いいよ」
同級生にお願いするなんて情けないし申し訳ない……!けど、こういう時に良ちゃん以上に頼りになる人が私の周りにはいなくて、結局良ちゃんに頼りっぱなしになるのだった。
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