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「まだ若いのに、セスがずっとこのまま独り身を貫くのかと思うと、親友として胸が痛い」
「ジークはまず、自分の心配をすべきじゃないか?」
初婚どころか誰とも付き合った経験がないであろう男に思わず反論してしまう。

「ああ、俺に結婚は無理だ。……男にしか反応しないからな」
「へえ、そうだったのか……は?はぁっ!?」
「話してなかったか?」
「……初耳だ」

長年付き合っていても、知らないこともあるものだと愕然とする。
「ああ、俺達同室だったから、言わないでおいたかも」
「その配慮に感謝する」
先に言われていたら、意識をしてしまってここまで仲良くはなれなかったかもしれない、と正直思う。

この国では、同性愛を禁止はしていないものの、結婚は出来ない。
だから、仮にジークに男の恋人が出来たとしても、結婚は出来ないのだ。




子種のない私が女になったからと言って、妊娠する機能が備わるかどうかはわからない。
そもそも、元男の女と、結婚やセックスをしてくれる男なんて、いるのだろうか?
その前に、私は男から抱かれることに、嫌悪感を抱かないだろうか?

……いや、考えるだけ無駄だ。
やってみればいいだけだ。

妻が妊娠したとして、その相手が必ず自分であるかどうかはわからない……と今回のことで気付いてしまったが、自分が妊娠するならば、血筋については疑いようもない。


「……これは、元に戻る為の薬もあるのか?」
「当たり前だ。いつだって、セットで作るもんだからな」

万が一、性別が戻らなくても、多少の不具合はあるだろうが自分としては何の問題もない

ジークは恐らく、私が治験体になれば助かるだろう。
募集を掛ければそれなりに治験体は集まるのかもしれないが、それだと内々で依頼した「お偉いさん」にも話が伝わり守秘義務違反に該当するかもしれないのだ。

「……わかった。飲んでみよう」
私は、ジークに薬を渡すよう、手を差し出す。
「ありがとう、助かる。女体化したら、きちんと隅々まで見せて欲しいんだが、いいか?」
ジークにそう頼まれ、私は頷いた。
ジークが男にしか勃たないなら、お互い気まずさはないだろう。

「薬を飲んで、女になるまでどれくらい時間がかかるんだ?」
「恐らく、一時間程度だ。今回はかなりの痛みを伴うだろうから、この痛み止めを先に飲んでくれ。途中で眠くなるだろうが、俺のベッドで横になってれば、そのうち終わる筈だ」
「わかった。今日の夕飯は奢れよ」
「今日と言わず、こっちに滞在中ずっと奢るさ。薬が完成したら、セスの家門の商会を取引先にするから」
「よし、契約成立だ」

私達は軽口を叩きながら、ジークの仕事部屋からプライベートルームへと移動した。

「服は全部脱いで、ベッドに横になれ」
「ああ」
私はジークに言われた通りにする。
……股間は見ないようにした。

「では、飲むぞ」
ジークはペンとノートを手にして、じっと私が鎮痛剤と試薬を飲むのを見つめた。

「うっ……味が、酷すぎるな。もう少し飲みやすくした方が良い」
「わかった」
「鎮痛剤を飲めば、さほど痛みは感じない。それより、熱は感じる……身体の中から燃えるみたいだ」

私の報告を、ジークは相槌を打ちながらサラサラと書き込んでいった。
その後もいくつか、朦朧としながらも必死で意識を繋ぎ止めつつ思ったことを伝えたが、そのまま気を失った。
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