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生きていく

お祭り開催

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ポーンポポポポーン!

と。花火よりも少し気の抜けた音がして、イベントは無事に開催された。
聞いたら、花火でなく調教された動物の鳴き声らしい。広大な土地で生活し、仲間と連絡を取り合う為にやたら響く様に鳴き声が進化したという。
「今の鳴き声聞いて、仲間が来たりしないんですか?」
とか余計な質問してみたり。
その動物、本に載っていて鳴き声がやたらデカイと確かに書いてあった気はするけど、まさかこうしたイベントにも役に立ってくれるとは。やはり本に書いてある事だけでこの国やこの世界について知った気になるのは間違いなんだなぁ、としみじみ感じた。


屋敷の前庭(小学校の敷地面積位の大きさ)で、植林されてないスペースを使って開かれたお祭りは、武具や防具以外にも食べ物やオモチャ、服や装飾品を売る様な普通の出店が並び、屋敷の入り口は大々的に開門されていて国民?領民?やらがぞろぞろと出入りする様子は、日本のフリーマーケットに何ら変わりはなかった。
ちょっと違うところは、人形劇みたいな子供向けのブースがあったり、動物と触れ合う様な移動動物園みたいなものまで準備されているという事位かな?

おぉおお……!!蛮属の国の人達ってこんなにいたんだ……!!
最近は屋敷の使用人や兵士の方々と触れ合う機会がぐっと増えたけど、流石に子供達を見かける事はまずない。
カップルと思わしき男女や、家族連れと思われる集団、様々な年代の友達同士がおしゃべりしながら和気藹々とイベントを楽しむ様子は、この屋敷から出た事のない私にとっては非日常で、見ているだけで楽しめた。

このイベントの前半は見張りや警備をしつつ、一般人や家族も参加出来るお祭り型で、ついでに修練場では普段見る事のない近衛隊の鍛練の様子も公開している。元々戦闘民族である蛮族の国のお祭りらしく、一部の熱狂的な人達がずっと食い入る様に歓声をあげながら見入っていた。後半は一般人や家族にはお帰り頂き、高級な武具をこの屋敷に改めて運びいれて前半に働いていた兵士達は仕事から解放され、自由に見てまわれる事になっているらしい。
……ジュードさんの提案が大分大きな話になってしまったが、準備期間も含めて屋敷の方々が「忙しい忙しい」と言いながらワクワクしている様子だったのにはホッとした。

人の出入りを興味深くテラスから眺めていると、「サアヤも見に行くか?」とマティオスさんに聞かれて「はい、是非!!」とテンション高く答える。
マティオスさんは近衛隊の鍛練の最後の方の余興にだけ出る予定だけど、それまでは私と一緒に回ってくれるらしい。
屋敷の出入り口では門兵による持ち物検査が行われているが、私は危険回避の為にエイヴァさんだと一般人にはバレない様、カタログで購入したこの国の民族衣装を着ている。

「見事な埋もれっぷりですよ、サーヤ様」なんてジュードさんに言われながらも、町娘にしか見えない格好でお祭りを楽しむ気満々だった。
レネ君は、一ヶ所ブースを借りて、自作の工芸品を売りに出していた。
マティオスさんがいない時だけ、ライリーが私に着いてくれる様だから、話すのはその時がチャンスだ。


「マティオスさん、あれ!あれ見てみたいです!!」
「サアヤ、走ると危ないぞ」
マティオスさんの腕をぐいぐい引っ張りながら、文化祭にはしゃぐ女子高生の気分を味わう。
目にする物がみんな新鮮で、楽しすぎた。
屋台で食べ物を購入しながら、子供達のオモチャを見る。殆んどが木で作られていて、昔懐かしい感じのオモチャが多かった。竹トンボに、コマに、ヨーヨーに、けん玉、積み木。みんなモドキ・・・で勿論形は違うんだけど、発想が日本と似ていて嬉しくなる。
積み木は、日本だと丸、三角、四角、長方形を好きな形に積み上げていくのが一般的だけど、この国では細く短いストローみたいな木を繋げていくものだったり、大中小の石の形をした木を積み上げていくものが一般的らしい。

実際にこの国の動物を目にするのも、マティオスさんの馬 (モドキ)以外は初めてだったので子供達に混じってまじまじ眺めたり撫でて触れ合ったりしてしまう。多分、日本でヒヨコやモルモット、ウサギや牛、羊、亀、アヒルなんかを見せるレベルの、ライオンやパンダはいないっぽい感覚なんだけど。いやもう楽しすぎる。異世界の動物万歳。

「サアヤ、そろそろ時間良いか?」
私が女子高生……否、小学生の様に走り回っているのを目を細めて見守ってくれていたマティオスさんだったが、申し訳なさそうにそう聞いてきた。パッと庭にある時計(がわりの外窓枠)を見れば、既に15時に差し掛かる時間で非常に焦る。マティオスさんには、修練場で剣舞を観客達に見せる予定が入っていたので、直ぐに移動しなければ間に合わない。
「すみません!すっかり時間を忘れて楽しんでしまって……!!」
「問題ない。サアヤが喜んでいるのを見られて、私も嬉しかった」
うん、流石マティオスさん、優しい。……好きっ!!

二人で駆け足で修練場に向かうと、アテナさんとライリーが待っているのが遠目に見えた。
ライリーが腕をぶんぶん振っているのを見て、私はマティオスさんに「ではあちらで応援していますので、気を付けて行って来て下さいね!」と声を掛けると、ライリーの方へ近付く。

「すみません、遅くなりました!」
「二人でデートだからって、時間忘れたのかと思いましたよ」
ライリーがそう言うと、アテナさんは横で笑って言った。
「では、私も行って参ります」
「アテナさんも気を付けてね、楽しみにしています!」

ライリーに連れられて特等席?みたいな場所へ移動すると、ワアッと大歓声が沸き起こった。
会場を見ると、どんな早業を使ったのか、煌めく民族衣装に着替えたマティオスさんが、以前一度だけ見た事のある剣を持って修練場の中央に向かっているところだった。
確か、対極剣と呼ばれていたその剣を、修練場の中心でマティオスさんがスッと掲げると、割れんばかりの喝采はピタリとおさまり、辺りは静けさに包まれる。

民族楽器の音楽と共に太鼓が激しく叩かれたのを皮切りに、マティオスさんの息もつけない程の剣舞が始まった。
模擬対戦とは違って、計算され尽くされた、優雅で美しく、また力強く、剣が流れる様にマティオスさんの身体ギリギリを掠めてまわされる。バトンの様に素早くまわされた剣は、一度上空に投げられ、その持ち手を足で受け止めて蹴る。対極剣が蹴られた先にはアテナさんが居て、それを難なく受け止めて、マティオスさんには同時に他の武器が投げ渡されていて……何度も悲鳴をあげそうになりながら、ハラハラドキドキのショーを見つつ、気付いた。……アテナさんとマティオスさんがいない方が良い。


「ねぇ、ライリー」
「はい、サーヤ様」
「ライリー、アテナさんの事、好きだよね?」
ライリーが横で、盛大に動揺したのを感じる。そんな会話をしつつも、私の目はマティオスさんに釘付けだから。
「……ま、まぁ、上司として尊敬はして……」
「上司としてじゃなくてさ。一人の女性として、好きだよね?」
「……」
「……」
「それは……まぁ、はい。参ったな……わかりやすいですか?俺」
「どうだろう?ジュードさんは気付いてそうだけど、本人やマティオスさんは気付いてないと思う」
「はぁ……なら、良いですが。サーヤ様にはバレてましたか。何だか恥ずかしいですね」
「全く恥ずかしがる事じゃないと思うよ。……でもね、ライリー。私、アテナさんと初めて話した時に、聞いた事あるんだよね」
「何をですか?」
「好みの男性の話」
「えっ!?」
ライリーが食い付いた。対ライリー用の私の切り札は、アテナさんだ。
「ライリー、アテナさんは伴侶に強さを求めるって言ってた。もし……もし、アテナさんと今の上司と部下っていう関係じゃなくて……男として見られたいなら、アテナさんより強くなる必要がある。そこでやっと、一人の男としての土俵に上がれる筈だよ」
マティオスさんの剣舞が無事に終了し、私は精一杯の拍手を送る。怪我がなくて良かった……!!格好良すぎです、私の旦那様は……!!ひとしきり拍手した後、私はライリーを見る。
「ライリー。アテナさんより強くなるには、今のままじゃ駄目だって本当は気付いてるよね?」
私の目に映るライリーは、明らかに戸惑いの表情を浮かべていた。
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