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生きていく
一人目の解放
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「せめて、レネ君の母親を呼べませんか?」
「……」
夕食中。私達はダイニングテーブルで、今日の話題も3人の話だ。
大事な話は、残念ながらベッドのある自室では無理だ。気付けば私は部屋の移動がされて、マティオスさんの部屋と一緒になってしまった。それは別に良いというか嬉しいんだけど、大事な話をするには向かないという事に、3日過ごして気付く事になった。
今までそのあり余った性欲をどう発散していたのか問い詰めたくなる程、マティオスさんは絶倫だ。二人きりでいると間違いなくエロエロエロに持ち込まれる。えっちが三回だから、エロエロエロだ。
合議の上で一晩三回までと約束したのに、翌朝も大抵はエロエロされる。
毎日エロの嵐だ。
そんな中、なかなか真面目な会話を続けるのは難しく……いや、マティオスさんの様子を見るからにこの話題を避けているのではないかと勘繰りたくなる程奴隷の解放の話は遅々として進んでいない。
私がこの世界で生きていくしかない事を知ってから、私は服従の呪詛に関して調べるべく呪詛関係の本を読み漁っていた。ジュードさんは本の虫らしく、二人で禁書庫に入り浸って。
あんな事が起きた場所だから初めは中に入るのが嫌だったけど、門外不出の禁書が多くて、禁書庫から出した途端に真っ白いただの紙になってしまうらしい。
マティオスさんがここまで頑なに解呪を反対するのは、私の寿命や影響を心配してくれているのはわかっている。本当は3人とも解呪させるけど、一番話しやすいのがレネ君。レネ君は、たった2年だ。エイヴァさんが80歳まで生きるとしても、78歳まで生きられるんだから十分です。とにかく、服従の呪詛の解呪は精神入れ替えとは違って、とても簡単に行う事が出来る。
今やらなくて、いつやるの!?今でしょ!!
──という訳で、私とマティオスさんはいつもこの話で揉めていた。夫婦喧嘩とまではいかないけど、意見はいつも平行線。私が見た夢をマティオスさんも見てくれれば少しは考えが変わると思うんだけど、他人の過去の心の傷を勝手に人に話す事は、どうしても私には出来なかった。
ただ、私の身を心配するマティオスさんの同意なくしては勝手に出来ない。寿命が短くなるという事は、明らかに人生を左右する大きな問題だ。それを、夫婦という絆で結ばれた人の意見すら聞かずに私が勝手に動くのは、間違っている気がする。解呪するのは間違いなく正義だと思うけど、正義という行動の裏にある、大事な人の悲しみを私は忘れてはならない。
マティオスさんの言う通り、3人は私の解呪を心から願っている訳ではない、らしい。実際、「このままで大丈夫ですよ」「このままで問題ねぇ」「今は幸せです」と口を揃えて言われている。とすれば、私が正義だと思ってする行動は、結局は自己満足に過ぎないのだ。だから、マティオスさんが納得してくれるまで話す。話して解決していくしかない!
「……すまない。サアヤの身の安全が第一だ」
うもー!!確かにね、私がレネ君のお母さんを呼んだとして、明らかにレネ君の母親は怯えるとは思いますよ。マティオスさんが呼んだとしても、自分の顔を半分焼いたエイヴァさんの旦那様なんだから警戒するに決まってますよ。
でも、それだといつまでもレネ君はお母さんに無事を伝えられないし、お母さんの無事も確認出来ないままだ。
だから、本当はレネ君一人で祖国に一度帰らせたいのだ。
「マティオスさんが私の心配をしてくるのは正直嬉しいです。でも、このままだと私は前を向いてエイヴァさんの身体で生きていけません。自分が幸せに感じる度、どこか後ろめたさを感じるでしょう。だから、私の為に、許して貰えませんか?」
「……サアヤの為に……」
「お願いします。まず、一番年数が少ないレネ君だけでいいので、お願いします……!!」
「……」
ぶれないなー、マティオスさんなかなかぶれないなー!!これが一国の主たる者のぶれなさか。ううむ。……と、思っていたら。
「……わかった。レネだけなら、ひとまず許可しよう。だが、ライリーとジュードはまた別だ」
「!!ありがとうございますっっ!!」
私はがばりと頭を下げて、笑顔で顔をあげた。そこにはマティオスさんの、寂しそうな笑顔があって……胸を締め付けられた。
***
マティオスさんの気が変わらないうちに、いざ、ゆかん!!
マティオスさんと一緒の部屋に入る事は出来ないジュードさんは、応接室で待機して貰っていた。私は急いで部屋に駆け込む。
「ジュードさんっ!!今すぐ3人集合っ!!」
「はい?……ライリーはともかく、レネは……今日はお休みでしたか。なら、捕まりますかね。少々お待ち下さい」
「レネ君の服従の呪詛、解呪するよー!!」
「マティオス様の許可は取れましたか?」
「勿論!マティオスさんの気が変わらないうちに、急いで!!」
「……そこにライリーは必要ですか?」
「必要!」
レネ君が解呪されたら、きっと羨ましいと思う筈。そしたら、ジュードさんやライリーも「やっぱり解呪して欲しい」って言うかもしれない。
私一人じゃ、なかなかマティオスさんを説得するのは難しいから、ここは二人に心変わりして貰わないと!!
私が服従の呪詛の解呪方法が記載された本を読んでいると、しばらくしてジュードさんがライリーとレネ君を連れて来てくれた。
「あ、あの……本当に、マティオス様が許して下さったんですか……?」
レネ君、不安顔。
私は視線を合わせて、勇気付ける様に言った。
「うん、許してくれたよ。レネ君、解呪の方法は簡単だし、これで自由になれるからね」
「……はい」
どうしたんだろう?あまり……心底喜んでいる風には見えなかった。
「……何か、不安?私が失敗するとか」「違いますっ!」
レネ君は、顔をパッとあげる。
「そう?じゃあ、やっても大丈夫?」
「はい、お願い致します」
今度こそ、レネ君は頷いた。
うん、本当に成長した。違う、という否定をそれほどハッキリと言える様になるなんて。つい嬉しくて、笑みが零れる。
万が一解呪に失敗したとしても、それは解呪を行った者……つまり私に跳ね返る。成功したとしても、解呪の反動でしばらく身体が辛いみたいだけど。
やっぱり、服従の呪詛は身体と大きな結び付きがあるんだなぁーと思いながら、レネ君に首の後ろの髪をあげて貰う。やはりそこには、ジュードさんと同じ刺青が刻み込まれていた。
服従の呪詛は、今でも呪詛の国では使われている様な、禁呪詛というよりもずっとポピュラーな呪詛だ。つまり、酷い内容の割にはお手軽。ただ、呪詛関係の本はエイヴァさんの目に触れない様に、この国では全て禁書扱いになっているだけで。だから、実際刺青の形容も、私の太腿にあるものよりずっと簡略なものだし、見落としそうな程に小さい。
私は、その刺青にそっと触れた。じわじわと指先が熱くなり、自分が本当にレネ君の支配者である事が伝わってくる。
とあるアニメ映画で、とある空に浮かぶ島を壊す、滅びの呪文。そんな、たった一言なのに全てのしがらみを解き放つ呪文を思い出す。
解呪も、それと同じだ。ただ、心から念じる。レネ君の自由を。
『解放』
古語でそう唱えれば、じゅわっ、と指先が焼けた様な感覚。手を離したくなるのを我慢し、徐々にレネ君の刺青が消えていくのを目に焼き付けた。
ああ、今この少年は、奴隷という立場から解放された。もう、自由だ。
私とエイヴァさんが入れ替わった意味を、また貴方が示してくれた。
──ありがとう、レネ君。
私は、初めてレネ君を抱き締めた。
「……」
夕食中。私達はダイニングテーブルで、今日の話題も3人の話だ。
大事な話は、残念ながらベッドのある自室では無理だ。気付けば私は部屋の移動がされて、マティオスさんの部屋と一緒になってしまった。それは別に良いというか嬉しいんだけど、大事な話をするには向かないという事に、3日過ごして気付く事になった。
今までそのあり余った性欲をどう発散していたのか問い詰めたくなる程、マティオスさんは絶倫だ。二人きりでいると間違いなくエロエロエロに持ち込まれる。えっちが三回だから、エロエロエロだ。
合議の上で一晩三回までと約束したのに、翌朝も大抵はエロエロされる。
毎日エロの嵐だ。
そんな中、なかなか真面目な会話を続けるのは難しく……いや、マティオスさんの様子を見るからにこの話題を避けているのではないかと勘繰りたくなる程奴隷の解放の話は遅々として進んでいない。
私がこの世界で生きていくしかない事を知ってから、私は服従の呪詛に関して調べるべく呪詛関係の本を読み漁っていた。ジュードさんは本の虫らしく、二人で禁書庫に入り浸って。
あんな事が起きた場所だから初めは中に入るのが嫌だったけど、門外不出の禁書が多くて、禁書庫から出した途端に真っ白いただの紙になってしまうらしい。
マティオスさんがここまで頑なに解呪を反対するのは、私の寿命や影響を心配してくれているのはわかっている。本当は3人とも解呪させるけど、一番話しやすいのがレネ君。レネ君は、たった2年だ。エイヴァさんが80歳まで生きるとしても、78歳まで生きられるんだから十分です。とにかく、服従の呪詛の解呪は精神入れ替えとは違って、とても簡単に行う事が出来る。
今やらなくて、いつやるの!?今でしょ!!
──という訳で、私とマティオスさんはいつもこの話で揉めていた。夫婦喧嘩とまではいかないけど、意見はいつも平行線。私が見た夢をマティオスさんも見てくれれば少しは考えが変わると思うんだけど、他人の過去の心の傷を勝手に人に話す事は、どうしても私には出来なかった。
ただ、私の身を心配するマティオスさんの同意なくしては勝手に出来ない。寿命が短くなるという事は、明らかに人生を左右する大きな問題だ。それを、夫婦という絆で結ばれた人の意見すら聞かずに私が勝手に動くのは、間違っている気がする。解呪するのは間違いなく正義だと思うけど、正義という行動の裏にある、大事な人の悲しみを私は忘れてはならない。
マティオスさんの言う通り、3人は私の解呪を心から願っている訳ではない、らしい。実際、「このままで大丈夫ですよ」「このままで問題ねぇ」「今は幸せです」と口を揃えて言われている。とすれば、私が正義だと思ってする行動は、結局は自己満足に過ぎないのだ。だから、マティオスさんが納得してくれるまで話す。話して解決していくしかない!
「……すまない。サアヤの身の安全が第一だ」
うもー!!確かにね、私がレネ君のお母さんを呼んだとして、明らかにレネ君の母親は怯えるとは思いますよ。マティオスさんが呼んだとしても、自分の顔を半分焼いたエイヴァさんの旦那様なんだから警戒するに決まってますよ。
でも、それだといつまでもレネ君はお母さんに無事を伝えられないし、お母さんの無事も確認出来ないままだ。
だから、本当はレネ君一人で祖国に一度帰らせたいのだ。
「マティオスさんが私の心配をしてくるのは正直嬉しいです。でも、このままだと私は前を向いてエイヴァさんの身体で生きていけません。自分が幸せに感じる度、どこか後ろめたさを感じるでしょう。だから、私の為に、許して貰えませんか?」
「……サアヤの為に……」
「お願いします。まず、一番年数が少ないレネ君だけでいいので、お願いします……!!」
「……」
ぶれないなー、マティオスさんなかなかぶれないなー!!これが一国の主たる者のぶれなさか。ううむ。……と、思っていたら。
「……わかった。レネだけなら、ひとまず許可しよう。だが、ライリーとジュードはまた別だ」
「!!ありがとうございますっっ!!」
私はがばりと頭を下げて、笑顔で顔をあげた。そこにはマティオスさんの、寂しそうな笑顔があって……胸を締め付けられた。
***
マティオスさんの気が変わらないうちに、いざ、ゆかん!!
マティオスさんと一緒の部屋に入る事は出来ないジュードさんは、応接室で待機して貰っていた。私は急いで部屋に駆け込む。
「ジュードさんっ!!今すぐ3人集合っ!!」
「はい?……ライリーはともかく、レネは……今日はお休みでしたか。なら、捕まりますかね。少々お待ち下さい」
「レネ君の服従の呪詛、解呪するよー!!」
「マティオス様の許可は取れましたか?」
「勿論!マティオスさんの気が変わらないうちに、急いで!!」
「……そこにライリーは必要ですか?」
「必要!」
レネ君が解呪されたら、きっと羨ましいと思う筈。そしたら、ジュードさんやライリーも「やっぱり解呪して欲しい」って言うかもしれない。
私一人じゃ、なかなかマティオスさんを説得するのは難しいから、ここは二人に心変わりして貰わないと!!
私が服従の呪詛の解呪方法が記載された本を読んでいると、しばらくしてジュードさんがライリーとレネ君を連れて来てくれた。
「あ、あの……本当に、マティオス様が許して下さったんですか……?」
レネ君、不安顔。
私は視線を合わせて、勇気付ける様に言った。
「うん、許してくれたよ。レネ君、解呪の方法は簡単だし、これで自由になれるからね」
「……はい」
どうしたんだろう?あまり……心底喜んでいる風には見えなかった。
「……何か、不安?私が失敗するとか」「違いますっ!」
レネ君は、顔をパッとあげる。
「そう?じゃあ、やっても大丈夫?」
「はい、お願い致します」
今度こそ、レネ君は頷いた。
うん、本当に成長した。違う、という否定をそれほどハッキリと言える様になるなんて。つい嬉しくて、笑みが零れる。
万が一解呪に失敗したとしても、それは解呪を行った者……つまり私に跳ね返る。成功したとしても、解呪の反動でしばらく身体が辛いみたいだけど。
やっぱり、服従の呪詛は身体と大きな結び付きがあるんだなぁーと思いながら、レネ君に首の後ろの髪をあげて貰う。やはりそこには、ジュードさんと同じ刺青が刻み込まれていた。
服従の呪詛は、今でも呪詛の国では使われている様な、禁呪詛というよりもずっとポピュラーな呪詛だ。つまり、酷い内容の割にはお手軽。ただ、呪詛関係の本はエイヴァさんの目に触れない様に、この国では全て禁書扱いになっているだけで。だから、実際刺青の形容も、私の太腿にあるものよりずっと簡略なものだし、見落としそうな程に小さい。
私は、その刺青にそっと触れた。じわじわと指先が熱くなり、自分が本当にレネ君の支配者である事が伝わってくる。
とあるアニメ映画で、とある空に浮かぶ島を壊す、滅びの呪文。そんな、たった一言なのに全てのしがらみを解き放つ呪文を思い出す。
解呪も、それと同じだ。ただ、心から念じる。レネ君の自由を。
『解放』
古語でそう唱えれば、じゅわっ、と指先が焼けた様な感覚。手を離したくなるのを我慢し、徐々にレネ君の刺青が消えていくのを目に焼き付けた。
ああ、今この少年は、奴隷という立場から解放された。もう、自由だ。
私とエイヴァさんが入れ替わった意味を、また貴方が示してくれた。
──ありがとう、レネ君。
私は、初めてレネ君を抱き締めた。
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