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知らない世界で

修練許可

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「サーヤ様、おはようございます」
「……あれ、ジュードさん……おはよう……」
「珍しいですね、今日は。寝坊ですか?」
「うん……ちょっと着替えてくるね」
「私が出ましょうか?」
「大丈夫、衣装部屋に行くから。朝ごはんの準備、ありがとう」
テーブルの横には2台のワゴンが既に横付けされていて、ジュードさんは既にテーブルセッティングを終えている様だった。
「いいえ。昨日は夕食を一人にさせてしまい、申し訳ございませんでした」
もそもそ、と籠から着替えを取り出して衣装部屋へ移動し、パジャマがわりのメイド服から着替えた。
部屋に戻ると、スープの良い香りが鼻を掠める。
今日の朝ごはんは、イングリッシュブレックファーストに近い。トマト味に煮込んだお豆が主食で、ソーセージ、マッシュルーム、卵、ほうれん草入りのキッシュがひとつのプレートに載っていて、スープとフルーツが別皿に盛り付けられていた。
「ううん、それがね、たまたま近衛隊の隊長さんと一緒に食事を取る事になって、一人じゃなかったの」
「……近衛隊長、ですか?」
「うん」
「だからですかね。今日、ライリーがエイヴァ様と朝食をご一緒する予定でしたが、朝一番に近衛隊長に呼ばれたとの事でした。それで私が代わりに参上したのです」
「隊長さん、話が早い!実は昨日ね、私の護衛としてライリーに剣術を教えてあげて欲しいってお願いしてみたんだ。本当は兵士がいいんだけど、それは今は無理そうだから」
「……それで、返事は……大丈夫だという事だったのでしょうか」
「今日の夕飯の時間に、また一緒させて貰えるならその時に回答しようって言われたんだけど。あ、だから今日も夕飯は隊長さんと頂くから、二人とも気を遣わず16時にあがってね」
隊長さん、呪詛のせいで皆と直接話せないと言っていたから、逆に3人は近付けない方が良いだろう。
「畏まりました。……その、大丈夫でしたか?」
「?何が?」
「……近衛隊長が、サーヤ様に失礼な事を言ったりしたりしなかったかと」
「え?隊長さん、凄く優しくて親切だよ?」

昨日は結局、庭の湖で夜中のボートという体験までさせて貰ったのだ!寝不足で今朝起きられなかったけど、「女性をこの時間まで連れ回したと知れたら私の立場が危うくなるので二人の秘密」と言われたからジュードさんにも今回は内緒です。
二人の秘密かぁ……何だろう、背中がもぞもぞする感じ。未成年がちょっとお酒の味見して、ごめんなさい!とか思いながら内緒にするのと似てるのかな?私達は悪い事はしてないけど。多分。……マティオスさんが知ったらどう思うんだろう?3人の他に、隊長さんにまで手を出した!とか思われないかな?そこだけ心配。でもでも、疚しい事は本当にしてないし!

「なら良いのですが」
そう言えば、ライリーも近衛隊長が反エイヴァ派だとか何か言ってたっけ?心配させてしまうのも何だから、あまり隊長さんの話はしない方が良いのかな?
「まぁ、詳しい話はライリーから聞こうよ。さぁ、朝ごはん食べよう!お腹空いたー」
「そうですね」
私達は途中で話を切り上げ、楽しくおしゃべりしながら朝食を取った。

で、アホな私は気付かなかった。
ライリーが隊長さんに呼び出された、という事の矛盾に。
3人の性奴隷とは、直接話せないと言っていたのに。



「成る程、3つの月の位置が時間によってこんなに変わるんだねぇ。でも、雨の日はどうするの?何も見えないから時間わからないんじゃない?」
私は、ジュードさんから時計の早見表を貰って時間の読み方を教わっていた。
「雨の日は何も見えないとは?」
「雲に隠れない?太陽も、3つの月も」
「……?隠れませんが」
うん、お互いいまいち話の内容が噛み合ってない気がする。百聞は一見にしかずだ。雨の日に実際見てみればいいだけの事。
「そっか。でも、これさえあれば私でも時間がわかる様になるから助かるよ!ありがとうね~」
覚えるまでは腕時計の様に持ち歩こう。ジュードさんから貰った早見表は6歳の子供用らしくてちょっと恥ずかしいけど、そんな事気にしてたらいざという時一人でこの世界を生き抜けない。

ちょうどその時、ノックがした。朝の9時、多分ライリーだろう。
「はい」
「おはようございます、ライリーです。失礼致します」
「おはよう、ライリー」
ライリーはドアを閉めるなり、私を問いただした。
「ちょっとちょっとちょっとサーヤ様!どんな魔法使ったんですか!!」
「え?え?」
「ライリー、少し落ち着け。サーヤ様が驚かれている」
どどどど、と駆け寄ってくるライリー。喜びの感情が押し殺せないその表情に、私がした事はお節介でなかった事に安堵する。
「お、俺、俺、日程が合うなら一般兵や……近衛隊の修練に、入っても良いって言われました!!」
「へ?近衛隊の修練にも?」
「新兵が入った時なら強化演習とかあるみたいなんですが、タイミングが悪くて丁度新兵も半年経って実務に入ったところみたいで……で、一般階級、上位階級、特級階級、近衛隊、それぞれ二週間に一回修練の日があるから、予定が合えば特別枠でどれに参加しても良いと、全ての上官には話を通しておくって言われたんです……!!」
ライリー、感極まったのか、ちょっと涙目だ。
「サーヤ様、本当に……本当に、ありがとうございます。俺、サーヤ様をお守り出来る様に精一杯頑張って強くなりますんで!!」
おぉ……ライリーが心から喜んでいるのがわかって、私の心まであったかくなる。
「一番早い修練の日は何時なの?」
私が聞くと、「今日は一般階級の日だそうで、次は4日後に特級階級だそうです」とライリーは答えた。
「今日はもう私の事は良いから。朝ごはんはもう食べた?」
「はい。近衛隊長に呼ばれたのが8時だったので、それより前に頂きました」
「じゃあ、早速修練に行ってらっしゃ~い」
「……本当に、よろしいのでしょうか?」
「勿論だよ。ライリーが強くなれば、もしかしたら外出許可を出して貰えるかもしれないし、私にもメリットあるから気にしないで。今日は修練が終わったらそのまま明日まで休んで良いからね」
「……ありがとう、ございます。行って参ります」
「怪我しない様に、頑張って」
笑顔でライリーを見送った。嵐の様だった。入室してから5分も経ってない気がする。で、見送った後に気付いた。
ライリーの実家の場所、聞き忘れましたー。


……でも、それよりも。
私は、本当に頭が回らない。
私と屋敷内を出歩いた時、レネとライリーは兵士に絡まれていたのに。
3人の性奴隷達が特別扱いされて、一般の兵士達が楽しく思わないという事に、全く思い至らなかったんだから。


嵐の様に去ったライリーとは違い、ジュードさんは物静かに私達のやり取りを見守っていた。
「ジュードさんは、何かやりたい事はないの?」
「……私ですか?」
「うん」
「……特に、ないですね」
おぉ……何だか、聞きにくい雰囲気だ。無趣味の人が「趣味は何ですか」という質問は困るというのを、バラエティー番組で見たことがあるけど、そんな感じなのかもしれない。
「誰にも迷惑を掛けず、過剰な期待を持たせずに、静かに生きていければ、それで」
「そ、そっかぁ」
私が元の世界に戻る為に、3人に期待しているのを見越して釘を刺されているのだろうか……!!
ちょっとしょんぼりしながら、それ以上は聞かなかった。
だから、この時のジュードさんの言葉にはもっと深い意味があったなんて、私には知るよしもなかったのだ。
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