上 下
15 / 94
知らない世界で

何をするにも許可が必要

しおりを挟む
翌朝。
久しぶりに、本当に久しぶりに夜中目覚める事もなく、気付いたら涙が溢れるという事もなく、ぐっすりと良く寝て起きた。ジュードさんに感謝だ。少なくとも紗綾わたしを認識し、かつ放り投げずにお世話を継続してくれる人が一人いる、という安心感が、質の良い睡眠を取らせてくれたのだろう。

洗口液で口をすすぎ、ドアを少しだけ開けて廊下を見ると、そこには既にワゴンが準備されていた。見た事もないメイドさんに感謝し、ワゴンをコロコロ押して部屋に戻る。
朝からラーメンとか焼き肉とか食べられない人っているよね?そんな方にはぴったりの、旬のフルーツ盛り沢山の朝食。
因みに私は、朝からがっつり食べられる人です。米下さい。パン下さい。果物は嬉しいけど、炭水化物欲しいですー。

と、愚痴れる相手もいないので今はシャクシャクと果物を齧る。あー、オレンジっぽくて美味しいわー。あー、苺みたいに酸味が絶妙だわー。あー、桃みたいに甘いわー。
果物を食べ始めたところで、ノックが聞こえた。
「はい」
「失礼致します、ジュードです。入室してもよろしいでしょうか?」
「ジュードさん?もう着替え終えてるから大丈夫だよ~」
「はい。失礼致します」
昨日、寝間着としてスケスケヌケヌケに着替えようかどうか悩んで、結局地震とか起きた時にその格好で外には出たくないと結論付けた私は、今日着る予定だったメイド服を寝間着がわりに寝た。
お陰でジュードさんが入って来ても問題ないのである。
「もう9時だった?」
「いいえ、まだ7時ですよ」
じゃあ、ライリー君と時間差?と聞こうとした時だ。
「うわー、マジか。本当にエイヴァの野郎が自分でテーブルセッティングしてるわ」
ズカズカ、と音がする様な態度でライリー君が登場した。
「おはようございます、ライリー君」
「……悪いんだけど、ライリーってやめてくんない?その口で言われると虫酸が走るから」
おお、素晴らしいライリー君。いや、ライリー。今貴方は、確実に中身がエイヴァさんでなく私だと理解した上で話してくれてますね。多分、様子見でエイヴァさんを怒らせるのが狙いなんだろうけど。
「はい、ではライリー。私としてもその砕けた口調、とても有り難いよ。ジュードさんに敬語やめる様に言っても、全く直してくれないからさ」
さま付けだけでもやめてくれ、と事情を話した時にお願いしたけど、「こちらの話し方の方が慣れてますので」と取り合ってくれなかった。
何度かお願いして、結局根負けしたのは私です。

さて。様子見のライリーの為に、エイヴァさんがやりそうにない事をやりまくっていきますか!
「二人とも、何か飲む?」
ジュードさんは心得た様に、「ではサーヤ様と同じものをお願いできますか?」と答えた。何となくだけど、私の狙いに気付いていて協力してくれている気がする。
「了解。ライリーは?」
「え?あ、ああ、えーと、俺も同じやつで」
「了解。二人とも、朝ごはんは?」
「持って参りました」
「……食べてきた」
「了解。ジュードさん、ワゴン持ってきてくれる?一緒に食べよう」
「畏まりました」
ジュードさんがワゴンを取りに行っている間に、私は三人分のお茶を入れてライリーに自己紹介した。「はじめまして……ではないですが、加賀紗綾です。よろしくお願い致します」言ってから頭を深々と下げる。
「あ、ああ」
ライリーは、気まずそうに目を左右に揺らした。
「お前、他の世界から来たって?エイヴァの中に入っているだけで、別人だって聞いたけど」
「はい。その通りです」
「……頭、打ったんじゃねーの?」
「そうかもしれません。私は本当はエイヴァさんで、ある日突然別人格が出来上がった可能性もあります」
「……」
私が肯定するとは思っていなかったのか、ライリーは口を閉じた。ジュードさんは、ワゴンから朝食をテーブルに移動している。
それをチラ見した私は、思わず二度見。
「……ジュードさん。私も朝からそういうご飯が良いですーっっ!」
なんたる事。ジュードさんの朝食は、名古屋の喫茶店のモーニングについてきそうな軽い食事……サラダ、パン、卵だった。
些か興奮気味な私に、ライリーは「お前、朝はフルーツ以外出すなって……」と言い掛けたが、ジュードさんは飄々と「畏まりました。明日からその様に手配致しますね」と答えてくれる。
流石ジュードさん、話が早い。……そして多分、いつも無表情だけど気遣いやさんだ。恐らく、私が一人の食事を寂しく感じている事を知っている。

ジュードさんは食事を取りながら、私に話し掛けた。
「サーヤ様にいくつかご報告がございます」
「うん」
「まず、屋外テラスのランチの件ですが。テラスは可ですが、庭は不可だそうです」
「了解」
まぁ、わかる。テラスと庭なら、テラスからの方が逃げにくいもんね。
「ありがとう、早速明日はライリーとレネ君と3人でテラスランチだ!」
海外旅行の気分で、みっつの月を眺めながらお外ご飯を食べよう。……ちょっと無理あるか。
「では、明日のランチは持ち運びしやすい様に手配致しますね」
「ありがとう。楽しみだなぁ♪」
雨が降りません様に。……雨ってあるのかな?あるよね、多分。
「それと、注文した服と下着ですが、明日には屋敷に到着するそうです」
「随分早いね」
「エイヴァ様の注文ですからね。業者の方、恐怖に震えてましたよ。遅れたら殺されると」
「またまたー」
軽く言ったら、二人して沈黙。……え?ちょ、マジですか?マジなんですかあああ!?

話を変えるべく、ずっと話の蚊帳の外だったライリー君に話し掛ける。えーと、何かライリーに聞こうと思っていた事があったなぁ……あ、そうそう。
「エイヴァさんと私が入れ替わった時って、ライリーが担当の日だったって聞いたんだけど。マティオスさんが……その、エイヴァさんの部屋に訪れる前ってどんな感じだった?」
「マティオス様が、一番最後に部屋にいらした日だよな?」
「うん、そう」
「それだったら、いつも通り超不機嫌で……あ、そうだ。珍しく、午後のセックスが二時間で終わって、それから本を読む間身体のマッサージを命じられたな。で、風呂場のセックスも一時間しか掛からなくて、マティオス様がいらっしゃる一時間前には出て行けと言われた」
「へ、へー」
うら若き女子高生にセックス連呼はやめて欲しい。どうしても態度がキョドる。キョドる私に、ライリーが鼻で嗤った気がした。お前、そういう態度は女の子にモテないぞ、絶対。

「他にさ、何か特別に準備をしたものとかある?」
「いや、特には……ないな。物品の注文は、レネがやる事が多いから、レネの方が何か知ってるかもな」
「そっかー」
準備品に収穫はなかったが、エイヴァさんが読んでいた本は気になる。
「どんな本を読んでいたかわかる?」
「いや、見せて貰えなかった……というより全く興味なかった。ただ、マティオス様がいらっしゃる一週間前から結構書庫に通いつめてたから、そこの本だとは思う」
成る程。その辺はジュードさんから聞いていた事と一致するね。
「普段からエイヴァさんは読書家だったの?」
二人は首を振った。
「書庫には自由に入れるって事?」
「いいえ、マティオス様の許可が必要です」
出たよ、マティオス許可証。くう、何をするにもマティオスだな!……これ、最終的にマティオスさんも攻略する必要があるんじゃなかろうか。嫌だよ、仮面つけてるから表情読めないし何より怖いもん、あの人。

ともかく、書庫はどちらにせよいずれ調べて見る必要がありそうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【R18】義弟ディルドで処女喪失したらブチギレた義弟に襲われました

春瀬湖子
恋愛
伯爵令嬢でありながら魔法研究室の研究員として日々魔道具を作っていたフラヴィの集大成。 大きく反り返り、凶悪なサイズと浮き出る血管。全てが想像以上だったその魔道具、名付けて『大好き義弟パトリスの魔道ディルド』を作り上げたフラヴィは、早速その魔道具でうきうきと処女を散らした。 ――ことがディルドの大元、義弟のパトリスにバレちゃった!? 「その男のどこがいいんですか」 「どこって……おちんちん、かしら」 (だって貴方のモノだもの) そんな会話をした晩、フラヴィの寝室へパトリスが夜這いにやってきて――!? 拗らせ義弟と魔道具で義弟のディルドを作って楽しんでいた義姉の両片想いラブコメです。 ※他サイト様でも公開しております。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件

百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。 そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。 いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。) それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる! いいんだけど触りすぎ。 お母様も呆れからの憎しみも・・・ 溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。 デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。 アリサはの気持ちは・・・。

【R18】国王陛下に婚活を命じられたら、宰相閣下の様子がおかしくなった

ほづみ
恋愛
国王から「平和になったので婚活しておいで」と言われた月の女神シアに仕える女神官ロイシュネリア。彼女の持つ未来を視る力は、処女喪失とともに失われる。先視の力をほかの人間に利用されることを恐れた国王からの命令だった。好きな人がいるけどその人には好かれていないし、命令だからしかたがないね、と婚活を始めるロイシュネリアと、彼女のことをひそかに想っていた宰相リフェウスとのあれこれ。両片思いがこじらせています。 あいかわらずゆるふわです。雰囲気重視。 細かいことは気にしないでください! 他サイトにも掲載しています。 注意 ヒロインが腕を切る描写が出てきます。苦手な方はご自衛をお願いします。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...