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島流し sideエリカ

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──わたくしは、そう、選ばれた人間なのだわ──


前世の記憶を取り戻した瞬間に、理解した。

前世では、気が強すぎる、と皆から言われていた。
それが原因かはわからないが、可もなく不可もない顔面偏差値であるのに、生まれてから一度も彼氏が出来た事はなかった。
親友と呼べる程の友人もいなかった。

社会人になって、バイヤーとして実績があるのは明らかに私であるのに、可愛ければチヤホヤされ、大した実績もないのにあっさり寿退社していく後輩達。

苛立ちだけが胸を占める日々に、誰かがトイレで言っていた「乙女ゲームがあれば、彼氏なんて要らないっ!」事を思い出して始めたとある乙女ゲーム。

第一王子様と、第二王子様。竜騎士と、次期宰相。そして好みではないが、隣国の王子。五人の男達が自分を求めてくるサマは滑稽で、気持ちが良かった。
結構やり込んで、キャラ攻略だけでなく、誰が読むんだかわからない様な世界設定や裏設定までお金を出して読み込み、邪魔者としか思えない要らないキャラの「黒の魔女」の攻略も何となく理解した頃、同じ部署の後輩が私を嗤って言ったのだ。

「乙女ゲームにハマる人って、ヤバイよね」と。

カッとなって、私はその後輩を階段から突き落とした。
で、その女がチクって、警察に捕まりそうになって。


こんな世界なんて、どうでも良いと。
私はこんな世界、要らないって思いながら、橋の上から飛び降りた。




私が前世を思い出したきっかけは、父について王都に付き、目の前のどでかい王宮を見た時だ。

どっかで見た、と思った。
けれども、それでもまだわからなくて、その日の夜に鏡を見た時、確実に思い出したのだ。

私は、エリカ。
サハーラ商会の一人娘。
頭が良く商才があって、平民だが財力に恵まれ、地方の様々な文化や歴史、特産物を良く知り多岐に渡るその知識は、五人の男を虜にするのだ。

……そう、私は前世まえと違ってこんなに美しい。

エリカは、私のお気に入りヒロインキャラだった。
気の弱そうなジュリアマリアや、貴族なのに苦労人のベアトリーチェなんかプレイしたくなくて、エリカだけでプレイしていたのである。
最初の相性の良さはあっても、エリカで全ての男性キャラを攻略していた。自信はあった。


……気が強すぎる、ですって?そんなの、これだけの可愛さがあれば、少しの我が儘に変換されるでしょう、どうせ。

私が微笑めば、大抵の男は恋に落ちる。

ただ、そう。
他のヒロインは邪魔だった。
特に、ベアトリーチェは早々にご退場して頂かなければならない。

これだけ可愛ければ、一人の男とくっつくのは勿体ない。どうせなら、前世の分も含めて沢山のタイプの違う男と付き合いたい。

目指すのは、ハーレムエンド。
裏設定で、王妃となった時に法律をかえて重婚可にすれば、他の好感度の高いキャラとも隠し密会エンドがある……とか何とか書かれていた気がする。



前世の私は、容姿や身分が悪かっただけ。
今の私は、この容姿に加えてこの世界がどう動いていくかも全て知っているし、失敗する訳がない。

父を動かし、ベアトリーチェに根暗な第一王子を宛がい、妃の座から降りて貰う。
ジュリアマリアを傷モノにし、精神的に病んで貰う。

全て、上手くいっていた筈だ。
なのに……何故、どこで間違えた!?
私のせいじゃない。あの第二王子が全部悪いのだ。
後、ゲームでもこの世界でも邪魔をしてくる、黒の魔女が──



***



今にも沈没しそうな小舟に、何日も洗ってない身体で一人、名も知らない島に降ろされた。

「は?こんなところに住めですって?屋敷は何処にあるの?」
「ねぇ、私を逃がしてくれたら、私の父が貴方に大金を払う筈よ。貴方の稼ぎじゃ一生稼げない金額よ?」
「ちょっと、何とか言ったらどうなの!?私を誰だと思っているの!!」
「……ああそう。貴方、私の身体が狙いなの?仕方ないわね、少しなら相手してあげるわ」

二人の男達は、眉ひとつ動かす事なく、私を砂浜に置き去りにしようとする。舟にしがみつけば、躊躇なく手を離された。

「助けて!!お願い、助けてぇ……!!」

泣き真似をしているうちに、小舟は遠くに行き、そして見えなくなった。


怒りで、砂を蹴り続けた。

──次に会ったら、殺してやる!殺してやる!殺してやる!!

ベアトリーチェも、ジュリアマリアも、そして黒の魔女も!!

私を馬鹿にして!!こんな目にあわせて、絶対許さない!!


「……へぇ。美味うま、そう、だなぁ、お前……」
「は?」


ひとっこ一人いないと思っていた砂浜で後ろから声を掛けられて振り向く。

「……ひっ!!ば、化け物……っっ!!」
「化け、物、は、傷、つく、なぁ……」 

私の目の前に、ずり、ずり、と腐臭を漂わせながら、それ・・は近づいてきた。

大きな、塊。肉片の様な、けれども腕や足が……沢山、ある。所々、肉片から飛び出しているのだ。
ギョロリとした目は、私の顔よりも大きく、これも何個もあった。

私は、腰を抜かした。

「美味、そう。美味、そう」 
「ち、近づか、ない、で」  
「さみ、しいん、だろう?」
「来ない、でぇ」
「一緒、にい、よう」
「お、おねが……ぎゃああああっっ!!」

左足首を、噛まれた。
いや、良く見れば、噛まれたのではなく……喰われ、た。


「直ぐ、には、喰わ、ない」

化け物が何か言っているが、左足首から下を失い、激痛が私を襲ってそれどころではない。

今にも失神しそうだ。いや、むしろ失神したかった。


「お前、の、こころ、一番、美味うま、い」

額を脂汗がダラダラと流れる。
私は必死で這いつくばって、化け物から距離をとろうとした。


「追い、かけっこ、か。いいぞ。逃げろ」


ずりずり、と逃げた分だけ、化け物はずりずり、と近寄ってくる。


「なんでっ!!私が!!こんな目に……っっ!!」
黒の魔女め……っっ!!あいつさえ、いなければ!!
殺してやりたい、今直ぐ……っっ!!

「ぎゃあああああああっっ」

右足首を、喰われた。


「や、やめて……もう、やめて……痛いぃ……」

化け物は、自分の身体の手や足を一斉に片側に傾ける。

「……?なん、で?お前、不味そう、なら、喰わ、ない」
「ま、不味いわよっ!!喰うなら、他の醜い奴らにしなさいよっっ!!」
「……お前、凄く、美味、いし、醜、い」
「は!?何処が……っっ」

私に、力があれば。というか、私はヒロインの筈だ。もしかしたら、こんな化け物を一瞬で消す魔法とかあったりするのではないだろうか?

……もしあるなら、今こそ使ってこの化け物を殺……「ほら、美味、そう」

じぃ、と見つめた自分の手のひらを、喰われた。


「~~~っっ!!」

あまりの衝撃に、言葉も出ない。
嘘でしょう?誰か、嘘だと言って。
これは夢なんじゃないの?
本当は、まだ夢から覚めてないだけなんじゃないの??


もし、夢だったとしても。
私をこんな目にあわせた奴ら、絶対に許さない……

「ほら、美味、そう」



──殺意を美味しく食べる魔物は、女の顔の前で、大きな口を開けたのだった。




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