4 / 5
4
しおりを挟む
「お母様、私は首都の第一アカデミーではなく、お祖父様達の住まわれている都市にある第二アカデミーに通いたいのですがっ!!」
断罪を逃れる悪役令嬢がよくする手は、アカデミー内での接触を避けるということだ。
しかし私は、もっと物理的に離れられる方法を選んだ。
即ち、同じアカデミーには通わないという選択だ。
母は、私が「怖い夢を見た」ことを知っている。
「ええ、リリールーがそう望むなら、そうしましょう」
母は少し寂しそうに微笑んだが、私の希望は全面的に叶えてくれた。そして父は、無表情で頷いた。
「アルリカが良いというなら、私が承認しない理由はない」
父を攻略したければ、母を落とすに限る。
私達兄妹における、常識だ。
斯くして私は、安心安全なアカデミー生活を幼馴染と共に満喫することになった……のだが。
「リリールー様も、もうご覧になりましたか?」
「綺麗な青紫色の瞳ですこと」
アカデミーに入学した初日、貴族から注目を浴びたのは一人の男爵家の令息だった。
何と彼は、王家と同じ青紫色の瞳をしていたのである。
男女問わず、勇気ある学生が彼に果敢にも話し掛けていた。
「ねぇ、あなたのその目の色……変わってるよね」
暗に、王族と何か関係あるのかと問い掛けるが、本人は何も語らず意味深に笑うだけ。
ただ、笑っただけで周りの女性はきゃああ、とまるで彼をアイドルであるかのように扱った。
流行病で倒れる前の自分を見ているようで、私はいたたまれない。
「……ジエム、どう思う?」
「ん?何が?」
第二アカデミーに通う中では一番家門の位が高いジエムが、貴族オーラを全く出さずに首を傾げた。
「ほら、あの人よ」
「うん」
「あの人が、隠し子なのかしら?」
私はジエムの耳にぽそぽそと耳打ちしながら、自分も首を傾げた。
何故なら、隠し子と恋に落ちる筈であろう悪役令嬢である私が、全くときめかないからである。
「リリールーはどう思うの?」
「うーん……」
容姿は悪くない。けれども正直、確かに青紫に見えなくもないが、王子殿下の瞳に比べると、何かが違う気がした。
全体的に薄いし、青味が強い。
「……よくわからないのだけど、何か、違う気が致しますわ」
「……そうなの?」
「ええ」
隠し子かどうかはまだわからないが、もし作者様が彼と私をくっつけるつもりなのであれば、人選ミスだったかもしれないと私は思った。
そしてそんな私には、その隠し子候補よりもずっと気になる人がいた。
「それより、そんなに鍛えてジエムは一体何がしたいんですの?」
「父や……ブラッド様、みたいになりたいなと思って」
「まぁ、騎士団に?」
「うん」
ひょろりとしていた本ばかり読んでいたジエムは、気付けばアカデミー一の剣の使い手になっていた。
ずっと昔から一緒に育った幼馴染だと言うのに、日々逞しくなる肉体にときめき、私にだけ普通に話すという特別感もあって、何故か彼が気になって仕方ない。
アカデミーに入って知ったが、ジエムは普段寡黙な人だった。自分がファザコンの自覚はないが、母にだけやたら甘い父と、私にだけ素を見せるジエムが重なり、どうしても意識してしまう。
彼の隠された目を見ることはないというのに、私を見る視線は優しさや慈しみに溢れている気がして、胸を締め付けた。
「ブラッド様みたいに強くなりたい。リリールーを守る為にもね」
私が昔から「怖い夢」に恐怖していることを知っている幼馴染は、そんなことをサラッと言ってしまう。
「……ありがとう、ジエム」
私は恥ずかしくて、ぷいと横を向き、顔が赤くなるのを気付かれないように、両手で押さえた。
断罪を逃れる悪役令嬢がよくする手は、アカデミー内での接触を避けるということだ。
しかし私は、もっと物理的に離れられる方法を選んだ。
即ち、同じアカデミーには通わないという選択だ。
母は、私が「怖い夢を見た」ことを知っている。
「ええ、リリールーがそう望むなら、そうしましょう」
母は少し寂しそうに微笑んだが、私の希望は全面的に叶えてくれた。そして父は、無表情で頷いた。
「アルリカが良いというなら、私が承認しない理由はない」
父を攻略したければ、母を落とすに限る。
私達兄妹における、常識だ。
斯くして私は、安心安全なアカデミー生活を幼馴染と共に満喫することになった……のだが。
「リリールー様も、もうご覧になりましたか?」
「綺麗な青紫色の瞳ですこと」
アカデミーに入学した初日、貴族から注目を浴びたのは一人の男爵家の令息だった。
何と彼は、王家と同じ青紫色の瞳をしていたのである。
男女問わず、勇気ある学生が彼に果敢にも話し掛けていた。
「ねぇ、あなたのその目の色……変わってるよね」
暗に、王族と何か関係あるのかと問い掛けるが、本人は何も語らず意味深に笑うだけ。
ただ、笑っただけで周りの女性はきゃああ、とまるで彼をアイドルであるかのように扱った。
流行病で倒れる前の自分を見ているようで、私はいたたまれない。
「……ジエム、どう思う?」
「ん?何が?」
第二アカデミーに通う中では一番家門の位が高いジエムが、貴族オーラを全く出さずに首を傾げた。
「ほら、あの人よ」
「うん」
「あの人が、隠し子なのかしら?」
私はジエムの耳にぽそぽそと耳打ちしながら、自分も首を傾げた。
何故なら、隠し子と恋に落ちる筈であろう悪役令嬢である私が、全くときめかないからである。
「リリールーはどう思うの?」
「うーん……」
容姿は悪くない。けれども正直、確かに青紫に見えなくもないが、王子殿下の瞳に比べると、何かが違う気がした。
全体的に薄いし、青味が強い。
「……よくわからないのだけど、何か、違う気が致しますわ」
「……そうなの?」
「ええ」
隠し子かどうかはまだわからないが、もし作者様が彼と私をくっつけるつもりなのであれば、人選ミスだったかもしれないと私は思った。
そしてそんな私には、その隠し子候補よりもずっと気になる人がいた。
「それより、そんなに鍛えてジエムは一体何がしたいんですの?」
「父や……ブラッド様、みたいになりたいなと思って」
「まぁ、騎士団に?」
「うん」
ひょろりとしていた本ばかり読んでいたジエムは、気付けばアカデミー一の剣の使い手になっていた。
ずっと昔から一緒に育った幼馴染だと言うのに、日々逞しくなる肉体にときめき、私にだけ普通に話すという特別感もあって、何故か彼が気になって仕方ない。
アカデミーに入って知ったが、ジエムは普段寡黙な人だった。自分がファザコンの自覚はないが、母にだけやたら甘い父と、私にだけ素を見せるジエムが重なり、どうしても意識してしまう。
彼の隠された目を見ることはないというのに、私を見る視線は優しさや慈しみに溢れている気がして、胸を締め付けた。
「ブラッド様みたいに強くなりたい。リリールーを守る為にもね」
私が昔から「怖い夢」に恐怖していることを知っている幼馴染は、そんなことをサラッと言ってしまう。
「……ありがとう、ジエム」
私は恥ずかしくて、ぷいと横を向き、顔が赤くなるのを気付かれないように、両手で押さえた。
69
お気に入りに追加
259
あなたにおすすめの小説
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
いらないと言ったのはあなたの方なのに
水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬
◇いいね、エールありがとうございます!
やった!乙女ゲームのヒロインに転生した!…けど今すぐ逃げたい。
ちゃむふー
恋愛
不慮の事故に遭ってしまって、なんと生前していた大好きな乙女ゲームのヒロインに転生した!!
やったー!!イケメン揃いっ!
やっぱり狙いはカルメン王子っ!
って思ったんだけど…。
え?ナニコレ?
攻略対象全員訳あり物件!!
……。
うん、逃げよう。
【完結】「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」
まほりろ
恋愛
【完結】
「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」
イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。
対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。
レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。
「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」
「あの、ちょっとよろしいですか?」
「なんだ!」
レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。
「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」
私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。
全31話、約43,000文字、完結済み。
他サイトにもアップしています。
小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位!
pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。
アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。
2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
第15回恋愛小説大賞にエントリーしてます。
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
「私、貴方を愛する気はありませんの」僕の婚約者はどうやら、僕に将来捨てられると思って僕を見限っているらしい。
下菊みこと
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢の奮闘…を婚約者視点で。
主人公は婚約者にあまり期待していなかった。しかし婚約者の彼女は光魔法の使い手で、それも強力な力を持っていた。そんな婚約者に助けられて興味を持つ主人公だったが…?
小説家になろう様でも投稿しています。
噂好きのローレッタ
水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。
ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。
※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです)
※小説家になろうにも掲載しています
◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました
(旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる