上 下
7 / 16

7

しおりを挟む
「俺、いつもの」
「買ってくる」
普段は奢らせたりなんかしないけど、俺が最大限譲歩するかわり、國臣をパシらせて奢らせた。

「はい、ビッグマックセット。ポテトにコーラ」
「サンキュ」
ポテトに手を伸ばして、躊躇した。
……國臣はバイトしてないから、國臣の金は親の金、なんだよな。
うーむ。やっぱり払うか?いやいやでも……

俺がポテトを摘まんだまま悩んでいると、國臣はクスクス笑う。
「……んだよ」
「……いや、何考えてるんだか凄くわかりやすいなー、と思って。今、やっぱり払おうかと思っただろ?」
「……うるさい」
払うのはやめて、ポテトを口に入れる。
「……ほんと、そういうところも……好きだよ」
「おまっ……!!」
思わずガタリ、と椅子の音を立てて身をひけば、俺の声は思ったより大きかったらしく客の何人かがこちらを見た。
苦笑いで誤魔化しつつ、小さくなってこそこそと國臣に話し掛ける。
「今コーラ飲んでたら、お前の顔に吹き掛けてたぞ」
「……それは、ご褒美?」

駄目だ。俺に告ってタガが外れたのか、國臣は俺への好意を隠そうともしない。じゃあ、やっぱり昼休みのアレは何だったんだ?
「あのさ、お前……あの子と付き合うんじゃないの?」
「……あの子……?」
「告られてだろーが」
「……ああ、あのヤリマン」
「……」
「……女と付き合えば、希翔あきとがまた友達に戻ってくれるって言ってたのを、あの時思い出してさ」
「はぁ?」
希翔あきとが傍にいないとか、やっぱり俺には無理そうだったから」
「……あのさ、誰でも良いから女と付き合えなんて言ってないぞ?誰か好きな女の子をつくって──」「希翔」
俺の言葉を、國臣が遮った。

「……俺が好きなのは、希翔だって言ったよね?女だろうが、男だろうが……俺にとっては、希翔じゃないなら他の誰でも一緒なんだよ」
「……で、でも、好きでもない女と付き合うなんて、彼女に悪いとは……」
「あの女だって、別に俺じゃなくても平気な部類だから。それでまた希翔と一緒にいられるなら、俺にとっては簡単な話なんだよ」
「そんな……お前、誰か好きな人がいるのに、好きでもない女と付き合えるの?」
俺がそう言うと、國臣は、顔を歪めた。両肘をテーブルにのせて、一瞬でぐいっと距離を詰められる。俺の目の前に、國臣の端正な顔が現れた。

「……俺の好きな人が、俺を選んでくれるなら、勿論そんな必要ないんだけどね」
後10センチ程で、キス出来そうな距離。俺は慌てて身体を起こして、距離を取った。
「そんな……そんな事、言われて、も」
でも、今のは俺の失言だ。
國臣は、相手が俺であるという事を除けば、単に好きな人の傍にいたいから、相手の言った通りに行動してるだけ……むしろ、俺が國臣の気持ちを理解しようとしてない訳で。

「……俺と付き合ってくれるの?希翔」
俺は黙って、首を横に振った。正直、恋人が男とか想像出来ない。
「なら、せめて言った事は守って欲しいな。俺は女と付き合うから、友達でいさせて」
「……」
「じゃあ、話はこれでおしまい。ほら、コーラ飲まないと氷溶けちゃうよ」
「……保留、で」

後で思い返しても、あの時の俺はどういう思考回路をしていたんだか、わからない。ただ、好きでもない女と、國臣が無理して付き合う状況は嫌だった。それも、自分のせいで。とはいえ、俺が好きだという事を隠そうともしない國臣と、このまままた親友に戻れるかといえば、NOだった。どうしたって、意識してしまう。

──一度、真剣に考えみよう。
恐らく、そう思ったんだと思う。
「……保留?それって、どういう……」
「國臣との事、男ってだけで真面目に考えてなかった、けど。それは國臣に対して真摯な態度ではなかったなって思って……」
俯いてコーラを飲んだけど、國臣の雰囲気がガラリと変わったのがわかった。喜びに溢れた、空気。そういうのも直ぐにわかるから、親友って厄介だ。
國臣は今、俺がこれから言う発言を、期待して待っているのだ。

「だから、付き合えるかどうかはわからない、けど……國臣の事、そういう目で見られそうかどうか、一度真剣に考えてみるから……保留にしてくれ」
「……嬉しい。嬉しすぎて、今すぐ抱き締めたいけど……我慢する」
「それは、流石にそうして」
二人で、笑い合った。たった3日しか経ってないのに、久しぶりな気がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが

リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!? ※ご都合主義展開 ※全7話  

【完結】ご懐妊から始まる溺愛〜お相手は宇宙人

七夜かなた
キャラ文芸
城咲和音は、23歳のフリーター 体調不良で受診すると、診断は「妊娠」だった。 でも妊娠するようなことをした覚えはまったくない。 驚いていると、突然黒尽くめの人たちに守られて現れたファンタジー世界のエルフのような美男子が、お腹の子の父親宣言をしてきた。 え、あなたとは初対面ですけど。 彼の名は「燕」 しかも彼は、地球外知的生命体、つまり宇宙人だった。 突然の妊娠からまさかの宇宙人との同居が始まった。

【本編完結】公爵令息は逃亡しました。

オレンジペコ
BL
「くそっ!なんで俺が国外追放なんかに!」 卒業パーティーから戻った兄が怒り心頭になりながら歯軋りしている。 そんな兄に付き合って毒親を捨てて隣国に逃げ出したけど…。 これは恋人同士と思っていた第二王子と、友人兼セフレだと思っていた公爵令息のすれ違いのお話。 ※本編完結済みです。

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です

リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。 でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う) はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか? それとも聖女として辛い道を選ぶのか? ※筆者注※ 基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。 (たまにシリアスが入ります) 勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

腰掛け女騎士は、狼王の婚約者選びが早く終わる事を強く願う

イセヤ レキ
恋愛
先祖返りで狼の姿をとる第一王子のイディム殿下。 そんな殿下の身の回りの世話をする、腰掛け騎士兼侍女のレオナ。 レオナは誰かに嫁ぐ気満々だったが、高身長のせいで誰にも求婚されないでいた。 そんな中、流行り病で二人の王子が他界してしまい、王位継承権が最下位だったイディム殿下にも妃探し&子作りの使命が陛下から下される。 イディムの妃候補が見つかれば、陛下の権限により結婚相手を身繕うと言われたレオナは奮闘するがー? ※獣姦です。獣姦に全振りしています。 ※ヒロインは兄の影響で口が悪いです。 ※スカ表現が二行ほどあります。 ギャグ/ほのぼの/異世界/ファンタジー/溺愛/執着 /獣姦/狼/らぶえっち/いちゃらぶ

婚約者が隣国の王子殿下に夢中なので潔く身を引いたら病弱王女の婚約者に選ばれました。

ユウ
ファンタジー
辺境伯爵家の次男シオンは八歳の頃から伯爵令嬢のサンドラと婚約していた。 我儘で少し夢見がちのサンドラは隣国の皇太子殿下に憧れていた。 その為事あるごとに… 「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」 「どうして貴方はライルハルト様じゃないの」 隣国の皇太子殿下と比べて罵倒した。 そんな中隣国からライルハルトが留学に来たことで関係は悪化した。 そして社交界では二人が恋仲で悲恋だと噂をされ爪はじきに合うシオンは二人を思って身を引き、騎士団を辞めて国を出ようとするが王命により病弱な第二王女殿下の婚約を望まれる。 生まれつき体が弱く他国に嫁ぐこともできないハズレ姫と呼ばれるリディア王女を献身的に支え続ける中王はシオンを婿養子に望む。 一方サンドラは皇太子殿下に近づくも既に婚約者がいる事に気づき、シオンと復縁を望むのだが… HOT一位となりました! 皆様ありがとうございます!

処理中です...