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ポルターガイストつき物件でした
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「もしもし、直っ!?たーすーけーてー!!もうダメ、耐えられないよぉっっ」
「は?どうした、姉貴?今どこ?」
「……私の、部屋。……悪いんだけど、今日金曜日だしこれから来られないかな?」
「えーと……」
『なおちゃん、まこちゃんどうかしたの?私の事は気にしないで良いから、行ってあげて?』
ひぃ。
弟の電話口から聞こえる、親友の声。
どうやら遠距離恋愛中のカップルの逢瀬を邪魔してしまった模様です。
でも、少しだけ許して欲しい。助けて欲しい。こちらも結構切実です。
私達姉弟は、地元の仙台から離れて関東圏に住んでいる。私が神奈川の方で、弟は埼玉寄りの東京。弟は大学進学を期に、4月から初の独り暮らし。私も大学の時は東京の23区外に住んでいたけど、就職を期に4月から神奈川に引っ越した。
大学の時は、学校の寮に入っていたし、周りには友人達がいたからこんな問題起きなかった。
だから、まさか新居でこんな事が起きるとは思っていなかったのですよ。
新しい暮らしが始まって、まだ1ヶ月。新入社員である私、定時であがらせて貰えるという待遇のホワイト企業に勤めながらも、目の下に出来た隈を念入りに消してから出社する毎日。
「直、蛍……ここ、でるんだけど」
「……え?」
『何が?もしかしてG?』
「違います」
私がそう言った時だ。カレンダーが、バサリと床に落ちた。カレンダーを支える為の金具は壁についたままなのに、ね?
うわーん!!道理で相場に比べて家賃が安いと思ったよ!!
そう、私の新しいお部屋……ポルターガイスト付き物件でした。
***
ぴんぽーん。
テレビは近所迷惑にならないレベルのボリュームで、全ての電気を付けた部屋の中。毛布にくるまっていた私は、肩をびくりと揺らして待ち人を迎える為に玄関へと向かう。
そこには、懐かしい知り合いが立っていた。
「こんばんは、真さん。お久しぶりです」
「……お久しぶり、です。……清孝、君??」
「はい」
おぉ……
四年の年月は凄い。
清孝君は、弟の親友だ。やっぱり大学入学を期に、弟と同じく上京。弟の家からウチまでは二時間弱かかるけど、清孝君の家からウチまでは10分との事で、弟経由で連絡が回り、急遽来て貰った。
直の部屋によく遊びに来ていたし、私が大学に進学するまでは毎日の様に顔をあわせていたけど、大学生活が楽しすぎてあまり実家に顔を出さなかったから疎遠になっていた。弟達が中学生の頃は、私も勉強を教えたりゲームしたりして何だかんだ一緒に遊んだ仲だ。とても礼儀正しい柔和な子、という印象が強い。
当時は私と身長差がなかった筈なんだけど……
「凄い身長伸びたねぇ……」
ポカンと口を上げて見上げれば、少し照れた様に口元を手の甲で隠しながら顔を反らした。
あ、懐かしい。この仕草は間違いなく清孝君だ。
「と、ごめんなさい!急に呼び出して……とにかく入って入って」
「はい。……お邪魔します」
「清孝君、ミルクティー好きだったよね?」
「……はい」
「ちょっと待っててね、今出すから……冷たいので良いかな?」
「はい」
私は鍋に牛乳を投入し、アッサムの茶葉を入れて煮出しながら、清孝君に声を掛ける。実家でも、私が作るロイヤルミルクティーを清孝君はよくおかわりしてくれた。
「直から、何処まで話聞いてます……?」
私が言うと、それまで普通に付いていたキッチンの蛍光灯が点滅し出した。やーめーてー!!清孝君が恐怖で帰ってしまったら、私は何にすがれば良いの!!
「この部屋に出るので、真さんの様子を見てくる事と、傍にいる事と、出来たら除霊してきて、と言われてます」
「そっかー、……ん?除霊??」
「はい」
開いた茶葉を避けて、たっぷり氷を入れたグラスにロイヤルミルクティーを注ぐ。うーん、出来立てはどうしても中途半端にぬるくなっちゃうんだよね。
2つのコップをお盆にのせて振り向くと、清孝君は私の真後ろに立ったままで驚く。……そうだった!清孝君は勝手に部屋の中に入って直ぐ様寛ぐ人ではなかった!!
「ごめんごめん!このクッションの上に座って下さい」
「はい、失礼します」
「ミルクティー、どうぞ」
「はい、頂きます」
彼が座った斜め横に私も座り、彼が飲み物に口をつけたのを確認してから話し出す。彼は何処に視線をやって良いのかわからないみたいで、テーブルや私の膝小僧辺りに視線をうろうろさせていた。
……と、そこで完全なパジャマ兼ルームウェアだった事に今更気付く。
セットアップのショートパンツ。……まぁ、清孝君だし今更ですかね。
「除霊って……もしかして清孝君、霊感ある人ですか?」
「……少し、視えます」
「この部屋のポルターガイスト、何とかなったりします?」
「そうですね……お時間頂けるなら。後、ご協力して頂けるなら」
おぉ……何て近くに、救いの神様がいたものだ!
「ありがとう!私、本当にこの家に来てから熟睡出来てなくて……助かります。私に出来る事なら、何でも言って下さい!」
「はい。……ちょっと部屋の中を見ても大丈夫ですか?」
「うん」
「失礼します」
清孝君は、ベランダから始まり、部屋の中、キッチン、トイレ、お風呂、玄関と順に見て回った。
「成る程……」
「な、何かわかった?」
「ポルターガイストの現象、どんなものが起きましたか?」
「ええと……」
写真立てが倒れる、テレビの電源が勝手についたり消えたりする、お風呂場のシャワーが急に出る、夜寝ると金縛りになる、観葉植物が倒れる、開けてない引き出しが開いてる、コップが割れる、インターホンが鳴るけど来客なし、椅子がずれた場所にある、そして先程みたいにカレンダーが勝手に落ちたり、新しい蛍光灯が点滅したり。
挙げてみると、結構ある気がする。
「シャワーですか……ちょっとここで待っていて下さい」
清孝君は私に微笑みかけてから、風呂場に向かった。
しばらくすると、パァン!!という何かの破裂した様な音が聞こえたので慌てて駆けつける。
「清孝君!?大丈夫っっ!?」
「はい」
……何だろう?柔和な微笑みをしているのに、何だか怒っている感じだ。右手を軽く振っている清孝君に謝った。
「ご、ごめんね?」
「?」
「何か怒ってない?」
「あ~……ちょっと風呂場は個人的に許せなくて、少しイライラしてしまいました。すみません」
頭を下げられ、私は慌てる。
「ううんっ、こっちがお願いした事で、清孝君が何か嫌な思いしたらやだなーって。曰く付き物件に来させるなんて……本当なら断りたいよね、ごめんなさい」
言いながら申し訳なさに私が視線を落とすと、優しい手のひらが私の頬にあてられてドキリとする。男の子の、大きなゴツゴツした手のひらに触れるなんて久しぶりだ。
「お……僕は、真さんに頼って貰えるのが嬉しいです。こんなに憔悴しきるまで一人で我慢してたんですね……これからは、僕がいますから」
清孝君にそう言われて、私の目にぶわっと涙が溜まった。
怖かった。
離れて暮らす両親に心配を掛けなくはなかったし、お金が貯まるまでは引っ越しも出来なくて。友人達を呼んで怖がらせたくもなくて、八方塞がりで。部屋にいる時間を極力減らそうとしても、限界はあって。悩んで悩んで、藁をもすがるつもりで弟に電話して。清孝君が来てくれる事になって、申し訳ないのに見放されないのが嬉しくて。
「あ、あり、が、とぅ……」
ぼろぼろ泣き出す私を、清孝君は「年上なのに」とか「社会人なのに」とか言わず、そっと触れるか触れないか位に腕を回す。そのままとんとんと優しく背中を叩かれて私は益々涙が止まらなくなった。
「は?どうした、姉貴?今どこ?」
「……私の、部屋。……悪いんだけど、今日金曜日だしこれから来られないかな?」
「えーと……」
『なおちゃん、まこちゃんどうかしたの?私の事は気にしないで良いから、行ってあげて?』
ひぃ。
弟の電話口から聞こえる、親友の声。
どうやら遠距離恋愛中のカップルの逢瀬を邪魔してしまった模様です。
でも、少しだけ許して欲しい。助けて欲しい。こちらも結構切実です。
私達姉弟は、地元の仙台から離れて関東圏に住んでいる。私が神奈川の方で、弟は埼玉寄りの東京。弟は大学進学を期に、4月から初の独り暮らし。私も大学の時は東京の23区外に住んでいたけど、就職を期に4月から神奈川に引っ越した。
大学の時は、学校の寮に入っていたし、周りには友人達がいたからこんな問題起きなかった。
だから、まさか新居でこんな事が起きるとは思っていなかったのですよ。
新しい暮らしが始まって、まだ1ヶ月。新入社員である私、定時であがらせて貰えるという待遇のホワイト企業に勤めながらも、目の下に出来た隈を念入りに消してから出社する毎日。
「直、蛍……ここ、でるんだけど」
「……え?」
『何が?もしかしてG?』
「違います」
私がそう言った時だ。カレンダーが、バサリと床に落ちた。カレンダーを支える為の金具は壁についたままなのに、ね?
うわーん!!道理で相場に比べて家賃が安いと思ったよ!!
そう、私の新しいお部屋……ポルターガイスト付き物件でした。
***
ぴんぽーん。
テレビは近所迷惑にならないレベルのボリュームで、全ての電気を付けた部屋の中。毛布にくるまっていた私は、肩をびくりと揺らして待ち人を迎える為に玄関へと向かう。
そこには、懐かしい知り合いが立っていた。
「こんばんは、真さん。お久しぶりです」
「……お久しぶり、です。……清孝、君??」
「はい」
おぉ……
四年の年月は凄い。
清孝君は、弟の親友だ。やっぱり大学入学を期に、弟と同じく上京。弟の家からウチまでは二時間弱かかるけど、清孝君の家からウチまでは10分との事で、弟経由で連絡が回り、急遽来て貰った。
直の部屋によく遊びに来ていたし、私が大学に進学するまでは毎日の様に顔をあわせていたけど、大学生活が楽しすぎてあまり実家に顔を出さなかったから疎遠になっていた。弟達が中学生の頃は、私も勉強を教えたりゲームしたりして何だかんだ一緒に遊んだ仲だ。とても礼儀正しい柔和な子、という印象が強い。
当時は私と身長差がなかった筈なんだけど……
「凄い身長伸びたねぇ……」
ポカンと口を上げて見上げれば、少し照れた様に口元を手の甲で隠しながら顔を反らした。
あ、懐かしい。この仕草は間違いなく清孝君だ。
「と、ごめんなさい!急に呼び出して……とにかく入って入って」
「はい。……お邪魔します」
「清孝君、ミルクティー好きだったよね?」
「……はい」
「ちょっと待っててね、今出すから……冷たいので良いかな?」
「はい」
私は鍋に牛乳を投入し、アッサムの茶葉を入れて煮出しながら、清孝君に声を掛ける。実家でも、私が作るロイヤルミルクティーを清孝君はよくおかわりしてくれた。
「直から、何処まで話聞いてます……?」
私が言うと、それまで普通に付いていたキッチンの蛍光灯が点滅し出した。やーめーてー!!清孝君が恐怖で帰ってしまったら、私は何にすがれば良いの!!
「この部屋に出るので、真さんの様子を見てくる事と、傍にいる事と、出来たら除霊してきて、と言われてます」
「そっかー、……ん?除霊??」
「はい」
開いた茶葉を避けて、たっぷり氷を入れたグラスにロイヤルミルクティーを注ぐ。うーん、出来立てはどうしても中途半端にぬるくなっちゃうんだよね。
2つのコップをお盆にのせて振り向くと、清孝君は私の真後ろに立ったままで驚く。……そうだった!清孝君は勝手に部屋の中に入って直ぐ様寛ぐ人ではなかった!!
「ごめんごめん!このクッションの上に座って下さい」
「はい、失礼します」
「ミルクティー、どうぞ」
「はい、頂きます」
彼が座った斜め横に私も座り、彼が飲み物に口をつけたのを確認してから話し出す。彼は何処に視線をやって良いのかわからないみたいで、テーブルや私の膝小僧辺りに視線をうろうろさせていた。
……と、そこで完全なパジャマ兼ルームウェアだった事に今更気付く。
セットアップのショートパンツ。……まぁ、清孝君だし今更ですかね。
「除霊って……もしかして清孝君、霊感ある人ですか?」
「……少し、視えます」
「この部屋のポルターガイスト、何とかなったりします?」
「そうですね……お時間頂けるなら。後、ご協力して頂けるなら」
おぉ……何て近くに、救いの神様がいたものだ!
「ありがとう!私、本当にこの家に来てから熟睡出来てなくて……助かります。私に出来る事なら、何でも言って下さい!」
「はい。……ちょっと部屋の中を見ても大丈夫ですか?」
「うん」
「失礼します」
清孝君は、ベランダから始まり、部屋の中、キッチン、トイレ、お風呂、玄関と順に見て回った。
「成る程……」
「な、何かわかった?」
「ポルターガイストの現象、どんなものが起きましたか?」
「ええと……」
写真立てが倒れる、テレビの電源が勝手についたり消えたりする、お風呂場のシャワーが急に出る、夜寝ると金縛りになる、観葉植物が倒れる、開けてない引き出しが開いてる、コップが割れる、インターホンが鳴るけど来客なし、椅子がずれた場所にある、そして先程みたいにカレンダーが勝手に落ちたり、新しい蛍光灯が点滅したり。
挙げてみると、結構ある気がする。
「シャワーですか……ちょっとここで待っていて下さい」
清孝君は私に微笑みかけてから、風呂場に向かった。
しばらくすると、パァン!!という何かの破裂した様な音が聞こえたので慌てて駆けつける。
「清孝君!?大丈夫っっ!?」
「はい」
……何だろう?柔和な微笑みをしているのに、何だか怒っている感じだ。右手を軽く振っている清孝君に謝った。
「ご、ごめんね?」
「?」
「何か怒ってない?」
「あ~……ちょっと風呂場は個人的に許せなくて、少しイライラしてしまいました。すみません」
頭を下げられ、私は慌てる。
「ううんっ、こっちがお願いした事で、清孝君が何か嫌な思いしたらやだなーって。曰く付き物件に来させるなんて……本当なら断りたいよね、ごめんなさい」
言いながら申し訳なさに私が視線を落とすと、優しい手のひらが私の頬にあてられてドキリとする。男の子の、大きなゴツゴツした手のひらに触れるなんて久しぶりだ。
「お……僕は、真さんに頼って貰えるのが嬉しいです。こんなに憔悴しきるまで一人で我慢してたんですね……これからは、僕がいますから」
清孝君にそう言われて、私の目にぶわっと涙が溜まった。
怖かった。
離れて暮らす両親に心配を掛けなくはなかったし、お金が貯まるまでは引っ越しも出来なくて。友人達を呼んで怖がらせたくもなくて、八方塞がりで。部屋にいる時間を極力減らそうとしても、限界はあって。悩んで悩んで、藁をもすがるつもりで弟に電話して。清孝君が来てくれる事になって、申し訳ないのに見放されないのが嬉しくて。
「あ、あり、が、とぅ……」
ぼろぼろ泣き出す私を、清孝君は「年上なのに」とか「社会人なのに」とか言わず、そっと触れるか触れないか位に腕を回す。そのままとんとんと優しく背中を叩かれて私は益々涙が止まらなくなった。
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