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2 庶民の知らない聖女の顔
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「ただいま戻りました」
食事を終えた聖女たちが歓談する中、タイミングよくこの神殿ではひとりしかいない庶民出身の聖女が戻って来る。
鮮やかな装飾品を身に纏った美しい貴族出身の聖女が揃う中、庶民聖女と呼ばれる聖女は神殿から配給されている質素な衣装だけを着て、正装ではあるものの誰もが敬遠して使わない、口元しか見えないベールをかぶっていた。
ある意味このベールそのものが聖女の顔である。
「あら、お帰りなさい庶民……じゃない、シアナ」
「ちょうど良かったわ。明日はシアナ、あなたが最底辺の担当ですって」
シアナと呼ばれた聖女は、唯一見える口元で笑顔を作った。
「はい、わかりました」
「最底辺は数が多いから、シアナにおあつらえ向きよね」
嫌味と嫉妬のこもった声で言われ、シアナは返事をせずに頭を下げる。
三年前、十六歳でこの神殿に連れてこられたシアナがこの神殿で一番、ずば抜けて膨大な治癒力を所持しているのだ。
当然ほかの聖女たちは面白く思わなかったが、今まで誰もが担当を拒否する「最底辺」と内輪で呼ぶ寄付金の少ない人々をシアナに押し付けることができるようになったことだけは歓迎した。
「あら、話していたらもうこんな時間。早く部屋へ戻って、イイコトしましょう?」
シアナの帰宅で時計を確認した聖女が、自分の護衛騎士を甘えた声で誘う。
「ねぇ、今日は部屋じゃなくて、中庭でしましょうよ」
他の聖女たちも、それぞれの護衛騎士に意味ありげな視線を投げかけ、護衛騎士たちも「よろこんで」とその手にキスをした。
公の場でいちゃいちゃしだす聖女と護衛騎士をベールで視界に入れないようにしながら、シアナは自分の護衛騎士であるウォリスと食事を済ませる。
ウォリスはどの護衛騎士よりも大柄な体躯の、もっさりとした頭と髭であまり聖女の横に並ぶには不適切な出で立ちの護衛騎士だ。
一年に一度、聖女は自分の護衛騎士を指名する。
清廉な聖女たちに選ばれた護衛騎士たちは日夜修練に明け暮れ、聖女に仇為す者を撃退する誉ある職だ……というのは、庶民が抱く幻想である。
護衛騎士はお飾りだ。
多少腕に覚えがあるものの、聖女の実家である貴族が抱える私兵に入隊する目的で、護衛騎士に名乗りを上げる。
実力があれば普通に入隊試験を受ければいいものの、いわゆるコネ入隊を希望するのだから、その実力は言わずとしれたものである。
聖女に選ばれるための大事な要素、それは「見た目」と「性技」である。
神殿の内部は聖女とその護衛騎士が夜な夜な交わるほどに堕落し、寄付金次第で患者の優先順位をつけるまでに腐敗している。
また、神殿は寄付金を目当てに、聖女たちは治癒の力が枯渇することを恐れて自らの力を出し惜しみし、人々を完治させることはない。
神殿にとって、聖女は金づるだ。
だから、シアナのように膨大な治癒力を持った聖女は、どんなに規律を破ったとしても、破門されることはない。
しかし治癒力がなくなった聖女は、神殿に残ることができない。
だから聖女たちも治癒力を温存し、神殿で一年おきにパートナーとなる護衛騎士を代えて夜を愉しんでは、衣食住を整えられる生活から離れようとはしないのだった。
食事を終えた聖女たちが歓談する中、タイミングよくこの神殿ではひとりしかいない庶民出身の聖女が戻って来る。
鮮やかな装飾品を身に纏った美しい貴族出身の聖女が揃う中、庶民聖女と呼ばれる聖女は神殿から配給されている質素な衣装だけを着て、正装ではあるものの誰もが敬遠して使わない、口元しか見えないベールをかぶっていた。
ある意味このベールそのものが聖女の顔である。
「あら、お帰りなさい庶民……じゃない、シアナ」
「ちょうど良かったわ。明日はシアナ、あなたが最底辺の担当ですって」
シアナと呼ばれた聖女は、唯一見える口元で笑顔を作った。
「はい、わかりました」
「最底辺は数が多いから、シアナにおあつらえ向きよね」
嫌味と嫉妬のこもった声で言われ、シアナは返事をせずに頭を下げる。
三年前、十六歳でこの神殿に連れてこられたシアナがこの神殿で一番、ずば抜けて膨大な治癒力を所持しているのだ。
当然ほかの聖女たちは面白く思わなかったが、今まで誰もが担当を拒否する「最底辺」と内輪で呼ぶ寄付金の少ない人々をシアナに押し付けることができるようになったことだけは歓迎した。
「あら、話していたらもうこんな時間。早く部屋へ戻って、イイコトしましょう?」
シアナの帰宅で時計を確認した聖女が、自分の護衛騎士を甘えた声で誘う。
「ねぇ、今日は部屋じゃなくて、中庭でしましょうよ」
他の聖女たちも、それぞれの護衛騎士に意味ありげな視線を投げかけ、護衛騎士たちも「よろこんで」とその手にキスをした。
公の場でいちゃいちゃしだす聖女と護衛騎士をベールで視界に入れないようにしながら、シアナは自分の護衛騎士であるウォリスと食事を済ませる。
ウォリスはどの護衛騎士よりも大柄な体躯の、もっさりとした頭と髭であまり聖女の横に並ぶには不適切な出で立ちの護衛騎士だ。
一年に一度、聖女は自分の護衛騎士を指名する。
清廉な聖女たちに選ばれた護衛騎士たちは日夜修練に明け暮れ、聖女に仇為す者を撃退する誉ある職だ……というのは、庶民が抱く幻想である。
護衛騎士はお飾りだ。
多少腕に覚えがあるものの、聖女の実家である貴族が抱える私兵に入隊する目的で、護衛騎士に名乗りを上げる。
実力があれば普通に入隊試験を受ければいいものの、いわゆるコネ入隊を希望するのだから、その実力は言わずとしれたものである。
聖女に選ばれるための大事な要素、それは「見た目」と「性技」である。
神殿の内部は聖女とその護衛騎士が夜な夜な交わるほどに堕落し、寄付金次第で患者の優先順位をつけるまでに腐敗している。
また、神殿は寄付金を目当てに、聖女たちは治癒の力が枯渇することを恐れて自らの力を出し惜しみし、人々を完治させることはない。
神殿にとって、聖女は金づるだ。
だから、シアナのように膨大な治癒力を持った聖女は、どんなに規律を破ったとしても、破門されることはない。
しかし治癒力がなくなった聖女は、神殿に残ることができない。
だから聖女たちも治癒力を温存し、神殿で一年おきにパートナーとなる護衛騎士を代えて夜を愉しんでは、衣食住を整えられる生活から離れようとはしないのだった。
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