1 / 6
1
しおりを挟む
「お前は私の愛弟子達の中でも、魔力が高い。非常に能力に秀でていて、その実力は私以上かもしれない。でも、お前の弱点は致命的だ。だから、その瞳は常に私が特別に用意したこのヴェールで隠すのだよ?これなら、……されずに済む筈だからね」
「はい、お師匠様」
「良い子だね。お前がずっと、誰にも……されずに、幸せに生きていく事を、祈っているよ」
「ありがとうございます、お師匠様。では、行って参ります」
「行ってらっしゃい、可愛い弟子よ。お前に幸があらんことを」
***
ふわり、と肩に掛けられたストールの感触に、目が覚める。
「すみません、起こしてしまいましたか」
「……懐かしい、夢を見たよ。お師匠様の夢……」
「良い夢でしたね」
どうやら私は、温室でうたた寝してしまったらしい。
「……うん」
と、そこまで寝惚けながら返事をし、漸く自分が彼にとって配慮のない会話をしてしまった事に気付いて血の気がひく。
「ご、ごめん……!」
「……?何がでしょうか?」
「寝惚けて、余計な事を言った。悪かった、オースティン」
「いいえ。貴女が謝る事ではありません、リビー。それより、温室とはいえもうすぐ冬の季節です。寝てしまっては風邪をひくかもしれませんので、気をつけて下さいね」
「うん、わかった」
私は、温室にあるテーブルに突っ伏して寝てしまっていたらしい。
オースティンが顔を近付け、口付けを落とす。弟弟子であるオースティンと夫婦になって一年程経つが、一緒に修行をしていた頃はこんな関係になるなんて想像もつかなかった。
流石にもう気恥ずかしさはないが、こそばゆい気持ちが胸のどこかにある。
私の祖父がわりだった大切なお師匠様は、一年前に亡くなった。
オースティンが敵と戦闘中に魔力を暴発させてしまい、お師匠様と私、それと兄弟子が対応したが、結局兄弟子とお師匠様はその時に亡くなってしまった。
私もオースティンも力を失い、魔術師という職務を失った私が路頭に迷いそうなところを、オースティンから求婚されて気付けば結婚。以来、実は爵位のあったオースティンの屋敷で薬草作りの日々を過ごしている。
魔術師だった頃とは、対照的なのんびりとした生活。
最初はそんな生活に慣れなかったが、オースティンが根気よく丁寧に付き合ってくれて、今ではこれが私の人生なのだと理解しつつある。人々の為に生きてきた日々から解放されて、オースティンの為に生きている感覚。それは不思議な程、穏やかだ。
「はい、お師匠様」
「良い子だね。お前がずっと、誰にも……されずに、幸せに生きていく事を、祈っているよ」
「ありがとうございます、お師匠様。では、行って参ります」
「行ってらっしゃい、可愛い弟子よ。お前に幸があらんことを」
***
ふわり、と肩に掛けられたストールの感触に、目が覚める。
「すみません、起こしてしまいましたか」
「……懐かしい、夢を見たよ。お師匠様の夢……」
「良い夢でしたね」
どうやら私は、温室でうたた寝してしまったらしい。
「……うん」
と、そこまで寝惚けながら返事をし、漸く自分が彼にとって配慮のない会話をしてしまった事に気付いて血の気がひく。
「ご、ごめん……!」
「……?何がでしょうか?」
「寝惚けて、余計な事を言った。悪かった、オースティン」
「いいえ。貴女が謝る事ではありません、リビー。それより、温室とはいえもうすぐ冬の季節です。寝てしまっては風邪をひくかもしれませんので、気をつけて下さいね」
「うん、わかった」
私は、温室にあるテーブルに突っ伏して寝てしまっていたらしい。
オースティンが顔を近付け、口付けを落とす。弟弟子であるオースティンと夫婦になって一年程経つが、一緒に修行をしていた頃はこんな関係になるなんて想像もつかなかった。
流石にもう気恥ずかしさはないが、こそばゆい気持ちが胸のどこかにある。
私の祖父がわりだった大切なお師匠様は、一年前に亡くなった。
オースティンが敵と戦闘中に魔力を暴発させてしまい、お師匠様と私、それと兄弟子が対応したが、結局兄弟子とお師匠様はその時に亡くなってしまった。
私もオースティンも力を失い、魔術師という職務を失った私が路頭に迷いそうなところを、オースティンから求婚されて気付けば結婚。以来、実は爵位のあったオースティンの屋敷で薬草作りの日々を過ごしている。
魔術師だった頃とは、対照的なのんびりとした生活。
最初はそんな生活に慣れなかったが、オースティンが根気よく丁寧に付き合ってくれて、今ではこれが私の人生なのだと理解しつつある。人々の為に生きてきた日々から解放されて、オースティンの為に生きている感覚。それは不思議な程、穏やかだ。
2
お気に入りに追加
147
あなたにおすすめの小説
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
【完結】帰れると聞いたのに……
ウミ
恋愛
聖女の役割が終わり、いざ帰ろうとしていた主人公がまさかの聖獣にパクリと食べられて帰り損ねたお話し。
※登場人物※
・ゆかり:黒目黒髪の和風美人
・ラグ:聖獣。ヒト化すると銀髪金眼の細マッチョ
ヤンデレ義父に執着されている娘の話
アオ
恋愛
美少女に転生した主人公が義父に執着、溺愛されつつ執着させていることに気が付かない話。
色々拗らせてます。
前世の2人という話はメリバ。
バッドエンド苦手な方は閲覧注意です。
ヤンデレお兄様から、逃げられません!
夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。
エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。
それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?
ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹
ヤンデレ王太子と、それに振り回される優しい婚約者のお話
下菊みこと
恋愛
この世界の女神に悪役令嬢の役に選ばれたはずが、ヤンデレ王太子のせいで悪役令嬢になれなかった優しすぎる女の子のお話。あと女神様配役ミスってると思う。
転生者は乙女ゲームの世界に転生したと思ってるヒロインのみ。主人公の悪役令嬢は普通に現地主人公。
実は乙女ゲームの世界に似せて作られた別物の世界で、勘違いヒロインルシアをなんとか救おうとする主人公リュシーの奮闘を見て行ってください。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる