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真実。

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「幸せはお金じゃない」とキミは言った。

 そんなキミは、稼ぎがよくて将来を嘱望された男を結婚相手に選んだ。
 なぜ?

 キミは僕の腕枕で寝たふりをしている。
 裸の肩が、小さく息をしていた。


 そろそろ帰らなければならないんじゃないの?


 保育園に迎えにいく時間が迫っている。
 時計の針は鋭利なハサミと一緒だ。
 その時が来ればふたりの時間を冷酷に切り離す。

 腕枕の腕を僕がキミの体にまわしこむ。
 その手をキミが握りしめた。
 ぎゅっと結ばれた指が、離れたくないと語っていた。

 幸せはお金で買えない。
 キミの口癖は、今になってわかる。
 なぜ繰り返したのか。
 それは、抗えない運命をそこに確信していたからだ。
 あるに越したことはないお金。
 行きたいところに行けて、美味しいものに物怖じせずに出せるだけのお金。

 キミは、お金にこだわることをいやしいと蔑んでいた。
 でも、お金がないことにはどうしようもないこともある。

 子どものためには、お金が必要だった。
 それがキミが選んだ結論だった。

 僕では、だめだった。
 ごめん。

 もう片方の手で、シーツに広がったキミの長い髪を追ってみた。
 頭皮から先にかけて時間をかけて追ってみた。
 確かめて、味わって、追いかけて。
 その先にあるものは何だろう?
 先のことはわからない。

 僕はキミの肩にキスをする。
 いつもの合図だ。

 そろそろ。

 そう、キミの時間が僕から離れていく合図。

 キミは僕の手を、乳房に導く。
 しっかり覚えておいて。
 キミの意志が僕に語りかけている。

 僕は無言でうなずく。
 シーツの擦れた音で、キミがそれを感じ取る。


 いずれはあなたと一緒になりたい。女はそう考えていた。考えると涙が出た。

 男は、なぜ女がはなをすすったのか、だいたいの察しはついた。

 男も、女と一緒に暮らしたいと考えていた。

 いっそ、浮気がバレてしまえばいいのに、女は最近、自暴自棄じぼうじきにそんなことを考えることがあった。
 もうこれ以上、偽りの生活を続けていくのはいや。

 男もそろそろ覚悟を決めなければならないと思っていた。

 将来のことはわからない。
 でも、今を粗末にすることはできない。

 女が迎えにいく子は、僕の遺伝子を継いだ子どもなのだ。 

 
 
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