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「儲ける」から「稼ぐ」への架け橋。

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 前回は、仕事が遅い人がなぜそう思われてしまうのかを解説させてもらった。

 原因は個々人の能力差にではなく、仕事のアプローチが違うことで生じる誤差だと理解していただいたと思う。


 昨今の世の中は、労働者を金太郎飴のように型にはめたりしない。
 そんなことするとたちまちのうちに人材確保が難しくなって、経営がたちゆかなくなってしまう。
 企業も背に腹は代えられないのだ。

 見方によっては企業の譲歩ととれるだろう。
 そしてその視点は間違ってはいない。

 会社は生き残るために、一歩私たち労働者に道を譲ったのだ。

 だから時を同じくして「ワーク・ライフ・バランス」が叫ばれたのは偶然じゃない。
 起には因があるということだ。


 企業は生めよ増やせで製品を作らせ、利益の上昇曲線を限界まで高めてきた。
 効率が最大限に上がっていないと経営陣は気をむが、汗を流すことはない。

 片や鞭うたれ、追い立てられるようにがむしゃらにやらされるのはいつだって現場だ。

 ろくに考えさせてもくれないから、生き方の手本さえ企業に委ねた。

「儲けろ」
「儲けろ」
「数字を上げなきゃ、金やらないぞ」
「儲けるだけ儲けろ。いずれ訪れる『楽』のために」

 戦時下の、忍耐ばかりを強いる叶わない夢物語と同じだ。


 もちろん、いずれ来ると信じていた「楽」はいつまでたってもやってこない。
 手を伸ばせば消えてしまうリリィ・フェアリーみたいに、いつまでも目の前に幻をぶら下げられているだけだ。

 かのルイス・リカルド・ファレーロも声をあげていたではないか。

「緊張の腰を折るな。妖精は追いかけ続けていないと幻さえ消え失せてしまう」

 所詮しょせん、つかみとることなどできない絵に描いた餅。



 これまではそれでよかった。

 夢は膨らみ、そいつを喰らうだけでなんとなく幸せらしきものに浸ることができた。

 夢は現実的で、儲けることにほかならなかった。

 だけど、効率の悪い歯車を回すみたいに、どれどけエネルギーをつぎ込んでも、上前は上がらない。
 しまいには息切れて、歩みを止める。
 やってることの意味がよくわからなくなって、踏ん張って握りしてめていた拳から力を抜いてみたくなる。
 なぜ拳にこんなに力を入れていたんだ?
 疑問が波のように広がり、できた波紋が魂を揺さぶり始める。
 すると。
 早回しの開花みたいに五指を同時に開き始めていた。

 そこにあったのは?

「これっぽっち」


 企業だけが儲けていた。
 内部留保ないぶりゅうほという金庫にはたんまり貯まっていることはわかっている。

「楽」は見せるだけの与えられない餌で、すべては企業のためだった。




 ばからしくなった。

 隣を見ると、「ばからしくなった」とつぶやいている。

 向こうからも「ばからしくなった」が聞こえる。

 通知音が鳴り、画面が語りかけてくる。「ばからしくなった」



 このようにして、ライフ・ワーク・バランスの「ライフ」が掘り起こされ、担がれるようになったわけだ。

 だけどライフを立てるには、やはり金が要る。
 

 いつまでたっても堂々巡り?




 そう思われても仕方がない。


 だけど、がむしゃらだった「儲ける」の理想郷は、「ばからしくなった」時点に置いてきた。


 今は、馬車馬のようにゴールのない目標に向かうのではない。

 ゴールは自分の生き方を決めたところにあった。
 この手にあるのだ。


 生き方が決まれば、どれほど必要か、そろばんをはじくことができる。
 必要な金額を稼げばいい。

「自分のため」は、そこから始まる。
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