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鳥のように。
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家の整理で、こぼれるように棚から落ちてきたくるりと丸められた1枚の絵。
広げてみると、そこには翼を力強くはばたかせるゼロ戦が描かれていました。
懐かしい。
僕の描いた絵。
父の影響で描き始めたものの、僕に才能がないことはじきわかりました。
その絵は、画家への夢も希望もあったころに手掛けたものでした。
絵にタイトルは書きこまなかったものの、僕はそれに「Like a bird」と名づけたことを覚えています。
鳥のように。
鳥のような翼があれば、どこにでも行ける。
僕の夢は、ふくらみきってもさらに大きくなっていく。そんな時期の作品です。
父が画家になる前のこと。戦争体験者であった父は、零戦にひとかたならぬ思いを寄せていました。ことあるごとに話して聞かせ、さらっと飛ぶ機体を線で描き、思いを貯めるためか、ときにゼロ戦のプラモデル作りに根をつめていた父からすれば、一心同体の盟友であったのかもしれません。
父が憧れたゼロ戦は、志願兵になったきっかけの飛行機です。
特攻で死んだ兄を父が追いかけようとしたのか、メカニカルな構造に魂をゆさぶられたのか、あるいは時代が国民を踊らせようとしたその策略にまんまとハメられてしまったのかは今となってはわかりません。
父の情熱は伝播し、今ではプロペラで飛ぶあの戦闘機は、カタチは違えども僕の自分史に刻まれたしまいました。
不思議なご縁で、僕は今アメリカ製空冷V型2気筒エンジンのオートバイに乗っています。
どしんと身をゆするような挙動に、度肝を抜かれます。
全身で受け止めていると、陶酔さえしてしまいます。
回転を上げるエンジン音を肌から吸収していると、奇妙な感覚に襲われることがあります。時空が歪み、相入れないはずのふたつの世界が交わるんじゃないの、といった交錯への錯覚です。
毎年8月になると、そんな不可思議な世界への扉が開きます。
8月は、1年で唯一1945に立ち返る時期。
単なる思い込みと笑われるかもしれませんが、1年に一度くらい、非現実的な夢想に浸っても咎められますまい。
時は2020年。
一生で(たぶん)一度しか経験できない最悪パンデミックの渦中を驀進しています。
誰もが家に閉じこもり、不自由を強いられているのです。
そんな折り、鳥のように。
好きなところに向けて、思いたったその瞬間に翼をはばたかせることができるなら。
両翼ならぬ両輪で。
ぶるん。
広げてみると、そこには翼を力強くはばたかせるゼロ戦が描かれていました。
懐かしい。
僕の描いた絵。
父の影響で描き始めたものの、僕に才能がないことはじきわかりました。
その絵は、画家への夢も希望もあったころに手掛けたものでした。
絵にタイトルは書きこまなかったものの、僕はそれに「Like a bird」と名づけたことを覚えています。
鳥のように。
鳥のような翼があれば、どこにでも行ける。
僕の夢は、ふくらみきってもさらに大きくなっていく。そんな時期の作品です。
父が画家になる前のこと。戦争体験者であった父は、零戦にひとかたならぬ思いを寄せていました。ことあるごとに話して聞かせ、さらっと飛ぶ機体を線で描き、思いを貯めるためか、ときにゼロ戦のプラモデル作りに根をつめていた父からすれば、一心同体の盟友であったのかもしれません。
父が憧れたゼロ戦は、志願兵になったきっかけの飛行機です。
特攻で死んだ兄を父が追いかけようとしたのか、メカニカルな構造に魂をゆさぶられたのか、あるいは時代が国民を踊らせようとしたその策略にまんまとハメられてしまったのかは今となってはわかりません。
父の情熱は伝播し、今ではプロペラで飛ぶあの戦闘機は、カタチは違えども僕の自分史に刻まれたしまいました。
不思議なご縁で、僕は今アメリカ製空冷V型2気筒エンジンのオートバイに乗っています。
どしんと身をゆするような挙動に、度肝を抜かれます。
全身で受け止めていると、陶酔さえしてしまいます。
回転を上げるエンジン音を肌から吸収していると、奇妙な感覚に襲われることがあります。時空が歪み、相入れないはずのふたつの世界が交わるんじゃないの、といった交錯への錯覚です。
毎年8月になると、そんな不可思議な世界への扉が開きます。
8月は、1年で唯一1945に立ち返る時期。
単なる思い込みと笑われるかもしれませんが、1年に一度くらい、非現実的な夢想に浸っても咎められますまい。
時は2020年。
一生で(たぶん)一度しか経験できない最悪パンデミックの渦中を驀進しています。
誰もが家に閉じこもり、不自由を強いられているのです。
そんな折り、鳥のように。
好きなところに向けて、思いたったその瞬間に翼をはばたかせることができるなら。
両翼ならぬ両輪で。
ぶるん。
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