日陰者の暮らし

阪上克利

文字の大きさ
上 下
6 / 17

苦手な話

しおりを挟む
結局…康彦さんは体調がすぐれないということで部屋から出てこなかった。
本当に体調がすぐれないのかどうかは本人にしか分からない。
彼は何かあれば体調が悪いというが病院には行っていないのだ。

あたしがポータブルトイレの片付けとヘルパーが普段やれない部分を掃除している間に、サトエリちゃんは2階の部屋の前でがんばっていたようだった。

『結局さ、何言っても『はあ。すみません。』ばかりなのよ!!』

退室するときにはサトエリちゃんの目つきが怪しかったのであたしは帰りの運転をすることにした。
本人に自覚はないが彼女は興奮すると危険な運転になる。
感情が表にでる分かりやすい性格なのはサトエリちゃんといいところなのだが、車の運転とか電話での対応とか…もう少し抑えた方が良い時もあるとあたしは思っている。

『そうなんだ。煮え切らないもんね。あの人。』
『そうなのよ。てゆうかあたしらが来るまでエロ動画見てたことは知ってるんだから。あの変態男め!』
『え…。』
『あれ?きっこちゃん知らなかったの?』

もちろん知っていた。
ただ…あたしがあんなにショックで人には言うまいと思っていたことを、彼女はさらりと言ってのける。
それを聞いてあっという間に顔が真っ赤になるのを感じた。
そもそもあたしはその手の話があまり好きではない。

この業界は女性の方が多いのだが、何気にこの手の下ネタを平気で言える子が多いようにあたしには感じるが気のせいだろうか…。ある程度、年齢を経たヘルパーならそういうことにも恥じらいがある様子で、もっとオブラートに包んだ言い方をするのだが、あたしたち30代後半から40代ぐらいの職員はあけっぴろげにそういうことを言っているように聞こえる。
何度も言うけど…気のせいだろうか。
気のせいならいいのだけど…。

『え…いや…ん…まあ…うん…。知ってた…。』

あたしは動揺を隠すように前を見て運転した。

『きっこちゃんはこういう話、苦手だからなあ。』
『ん…うん…。』
『でもまあ…あいつが2階で何しててもそれはいいよ。それよりももう少しあいつがお母さんの介護するようになってくれないと…。あいつ、なんとかしないとねえ。』
なんとかしないと…と言ってもなんともできない部分でもあるのだが、だからと言ってほっておくわけにもいかないのだ。
『そうだね。あれだけなんにもしないとなるとねえ。』
『しかしなんでなんもやらんかねえ。』

サトエリちゃんは助手席で背伸びしながら言った。
信号待ちであたしはサトエリちゃんを見た。

…。
また太った?
サトエリちゃんのお腹はいい感じに大きくなっている。
もちろん妊娠ではないだろう。

『ちょ…ちょっと!あまりお腹見ないでよ!!』

こちらの心の声が聞こえたのか…それともあたしの視線に気づいたのか、サトエリちゃんはファイルでお腹を隠して言った。

『あ…断っておきますが、あたしは別に妊娠を疑ってるわけではありませんからね。』
あたしはさっきの仕返しとばかりに軽く冗談を言った。

『そ…そんなに…太ってる??』

まあ…。
同じサトエリでもモデルの佐藤江梨子に比べたら…ねえ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

近所のサンタさん

しらすしらず
大衆娯楽
しらすしらずです!クリスマス短編小説を書きました!働く社会人にとってクリスマスは特別感が少ない!というところを題材にしたほっこりする話です。社会人とサンタさんというあまり絡みそうにない人間が出会う3日間の物語となっています。登場人物は、主人公の隆也(たかや)と後輩の篠川(しのかわ)君、そして近所のサンタさんと呼ばれる人物です。隆也は忙しい日々を送る会社員で、クリスマスの季節になると特別な雰囲気を感じつつも、少し孤独を感じていました。そんな隆也の通勤路には、「近所のサンタさん」と呼ばれるボランティアで子供たちにプレゼントを配る男性がいます。ある日、偶然電車内で「近所のサンタさん」と出会い近所のクリスマスイベントのチケットをもらいます。しかし、隆也は仕事が忙しくなって行くことができませんでした。そんな隆也がゆっくりとほっこりするハッピーエンドに向かっていきます。 本当はクリスマス前に書き上げたかったんですけどねー、間に合わなかった! 恥ずかしながらこれが初めて最後まで書き上げることができた作品なので、ところどころおかしなところがあるかもしれません。 この作品で皆さんが少しでもほっこりしていただけたら嬉しいです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

タケノコドン

黒騎士
大衆娯楽
七夕の夜の奇跡 願い 怨念   大地を割り現れた巨大怪獣が日本を席巻する その目的は人類根絶か世界の破滅か、それとも… とあるYouTubeチャンネルから生まれたマスコット怪獣を元にした創作群像劇三部作――始まります!

兄の悪戯

廣瀬純一
大衆娯楽
悪戯好きな兄が弟と妹に催眠術をかける話

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...