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元気のない主将
どうしたいのか?
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県立T高校では地域美化活動の一環として街の清掃をしている。
学校から駅前に続く一本道の清掃や、近隣の公園の清掃も定期的に行っている。
この美化活動だが、学校としては月に1日、学活の時間を用いて各学年が持ち回りで行なっている他に、放課後の部活動の一部として、所属する生徒が自主的に行ったりもしている。この美化活動のおかげでT高校のあるT市T町はゴミがない街として県内でも有名になっており、地元FM局のレポーターが取材に来るほどになっている。
何を隠そう、T高校の美化活動に関しての広報に関しては新聞部が一役買っており、地元FM局の名物レポーターでもあるF氏が来た時に取材を受けたのは、純の目の前でわとんのコロッケを美味しそうに頬張っている河合明日香なのである。
『ねえ、明日香。こっちのベンチで食べなよ』
純は言った。
明日香はコロッケを食べる時は立って食べると決めている。
なんとなくその方が美味しいような気がするからだ。学校帰りに寄り道して夕飯前に間食するコロッケはゆっくり座って食べるものではなく、立って食べた方が気分が出るのだ。
『え? あたし立って食べた方がいいから……』
『明日香がそこにいると道路が見えないから』
『道路?』
『そう。ここで待っていれば瞳ちゃんが通るでしょ』
『そっか……でも通ったとして、何か分かるかな?』
『分からないかもしれない』
『え――。そんなんじゃ意味ないじゃん』
不満を言いつつも明日香は純の隣に座る。
こじんまりとした純の隣は明日香にとってはどうにも居心地が悪い。
『でも何か分かるかもしれない……』
『そっか……でもまあ、確かにあたしたちにできることってこれぐらいだもんね』
『そゆこと』
純は明日香にから揚げを差し出す。
コロッケと同じく揚げたてだ。
いい匂いがする。
明日香はから揚げを一つ、口に入れる。
醤油の焦げた匂いとニンニクの香りが実に香ばしい。
『あのさ……前から気になってたんだけど……』
『ん? 何??』
純は明日香の方は見ず、まっすぐに表通りの道路を見つめながら言った。
『明日香はなんで新聞部に入ったの?』
『あたし? なんでって……だって面白そうじゃん』
『いや、でもさ。明日香だったら文化部じゃなくて何かスポーツしててもおかしくないのに……』
『何よ。でかいって言いたいわけ?!』
明日香は少し口をとがらせて言った。
別に純としてはそういう意味で言ったわけではない。
すらりと足が長く背が高い明日香が純はうらやましい。どうして自分のことを『でかい』と言って自分で揶揄してしまうのだろう……。
『違うの。明日香』
慌てて弁明する純。
さすがに道路は見つめずに明日香の方を見ている。
この間に瞳がやってきたらどうするのだ。
『うそうそ……純がそんなこと言わないことはこのあたしが一番知っているわよ。そうね。新聞部に入ったのは将来やりたいことがあるから……かな』
『将来?』
『うん。プロのアスリートなんか、なれる人間は一握りでしょ。なれても成功できるとも限らない。そして成功したとしても今度は年齢と闘わなければいけなくなる……現実を見るなら他の将来を探した方がいいでしょ』
『うん……そうだね』
『でも、あたしは身体を動かすのが好きなのよね。だから何らかの形でスポーツにはかかわりたいのよ』
『ああ、それで新聞部に……』
『そう。将来も記者になりたいの。スポーツの記事を書きたいのよね』
明日香はすごいな……
素直に純はそう思った。好きなこと、やりたいことを学生時代から見つけられる人が一体、何人いるというのだろうか。大半の人間がやりたいことなど見つけられず、ただ毎日を楽しく過ごすことだけに意識を集中して生きている。
学校を卒業すれば大学に進学し、大学を卒業したら就職する。
特にやりたいこととかは考えない。
いや。考えてもやりたいことを仕事にできるとは限らないし、やりたいことができない時にその代わりにやれることを探すのも容易ではないのだ。
純もやりたいことが見つからない大多数の人間の一人である。
そう考えると今日は明日香が輝いて見える純だった。
とりとめのない話を続けるうちに時間は進む……。
学校から駅前に続く一本道の清掃や、近隣の公園の清掃も定期的に行っている。
この美化活動だが、学校としては月に1日、学活の時間を用いて各学年が持ち回りで行なっている他に、放課後の部活動の一部として、所属する生徒が自主的に行ったりもしている。この美化活動のおかげでT高校のあるT市T町はゴミがない街として県内でも有名になっており、地元FM局のレポーターが取材に来るほどになっている。
何を隠そう、T高校の美化活動に関しての広報に関しては新聞部が一役買っており、地元FM局の名物レポーターでもあるF氏が来た時に取材を受けたのは、純の目の前でわとんのコロッケを美味しそうに頬張っている河合明日香なのである。
『ねえ、明日香。こっちのベンチで食べなよ』
純は言った。
明日香はコロッケを食べる時は立って食べると決めている。
なんとなくその方が美味しいような気がするからだ。学校帰りに寄り道して夕飯前に間食するコロッケはゆっくり座って食べるものではなく、立って食べた方が気分が出るのだ。
『え? あたし立って食べた方がいいから……』
『明日香がそこにいると道路が見えないから』
『道路?』
『そう。ここで待っていれば瞳ちゃんが通るでしょ』
『そっか……でも通ったとして、何か分かるかな?』
『分からないかもしれない』
『え――。そんなんじゃ意味ないじゃん』
不満を言いつつも明日香は純の隣に座る。
こじんまりとした純の隣は明日香にとってはどうにも居心地が悪い。
『でも何か分かるかもしれない……』
『そっか……でもまあ、確かにあたしたちにできることってこれぐらいだもんね』
『そゆこと』
純は明日香にから揚げを差し出す。
コロッケと同じく揚げたてだ。
いい匂いがする。
明日香はから揚げを一つ、口に入れる。
醤油の焦げた匂いとニンニクの香りが実に香ばしい。
『あのさ……前から気になってたんだけど……』
『ん? 何??』
純は明日香の方は見ず、まっすぐに表通りの道路を見つめながら言った。
『明日香はなんで新聞部に入ったの?』
『あたし? なんでって……だって面白そうじゃん』
『いや、でもさ。明日香だったら文化部じゃなくて何かスポーツしててもおかしくないのに……』
『何よ。でかいって言いたいわけ?!』
明日香は少し口をとがらせて言った。
別に純としてはそういう意味で言ったわけではない。
すらりと足が長く背が高い明日香が純はうらやましい。どうして自分のことを『でかい』と言って自分で揶揄してしまうのだろう……。
『違うの。明日香』
慌てて弁明する純。
さすがに道路は見つめずに明日香の方を見ている。
この間に瞳がやってきたらどうするのだ。
『うそうそ……純がそんなこと言わないことはこのあたしが一番知っているわよ。そうね。新聞部に入ったのは将来やりたいことがあるから……かな』
『将来?』
『うん。プロのアスリートなんか、なれる人間は一握りでしょ。なれても成功できるとも限らない。そして成功したとしても今度は年齢と闘わなければいけなくなる……現実を見るなら他の将来を探した方がいいでしょ』
『うん……そうだね』
『でも、あたしは身体を動かすのが好きなのよね。だから何らかの形でスポーツにはかかわりたいのよ』
『ああ、それで新聞部に……』
『そう。将来も記者になりたいの。スポーツの記事を書きたいのよね』
明日香はすごいな……
素直に純はそう思った。好きなこと、やりたいことを学生時代から見つけられる人が一体、何人いるというのだろうか。大半の人間がやりたいことなど見つけられず、ただ毎日を楽しく過ごすことだけに意識を集中して生きている。
学校を卒業すれば大学に進学し、大学を卒業したら就職する。
特にやりたいこととかは考えない。
いや。考えてもやりたいことを仕事にできるとは限らないし、やりたいことができない時にその代わりにやれることを探すのも容易ではないのだ。
純もやりたいことが見つからない大多数の人間の一人である。
そう考えると今日は明日香が輝いて見える純だった。
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