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わとんのコロッケ

謎は謎のまま?

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『わとんのコロッケはすでに原価割れしてるのよ』
『原価割れ? え?? どういうこと?? だったら商売にならないじゃない』
 明日香は目を丸くして言った。
 彼女の瞳は二重ではないがパッチリとして大きい。
 明日香自身は二重の目が良いと思っているが、その大きな瞳が彼女のチャームポイントになっていることを彼女自身は知らない。
『だって考えてみなよ。あれだけ美味しいコロッケが100円もしないのよ』
『でもコロッケって大体100円ぐらいじゃない。『わとん』のコロッケは確かに安いけど特別安いという訳じゃないわよ』
『そう。大体100円ぐらいよね。でも『わとん』のコロッケは70円。つまり30円も安いわけ』
『そうね。そんなのは少し小さめにして作るとかでなんとかなるんじゃないの?』
『『わとん』のコロッケは他で売ってるコロッケに比べて小さい?』
『さあ……比べたことないわね』
『ここからはあたしの推理だけどね。大きさはそんなに変わらないと思う』
『なんで?』
『だって30円分コロッケを小さくしようと思ったらそれなりに小さくなると思わない?なのに、今、あたしが明日香に『わとん』のコロッケと他で売ってるコロッケを比べてどう?と聞いたら『さあ……』って答えたでしょ。つまり、明らかに『わとん』のコロッケが小さい場合は、意識しなくても『そういえば小さいわね』ってなるじゃない』
 すみの説明に、明日香は少し不満気な顔をした。

 確かに意識しなくても明らかに大きさが違えば分かるのかもしれないが、それはあくまでこういう形でコロッケの大きさを意識していないから、違いが分からないにすぎないのかもしれない。
『検証してみない?』
 すみは言った。

 そう。
 こういう話は検証してみるのが一番なのだ。
『いや……その前に聞きたいことがあるんだけど』
『何?』
『コロッケのからくりよ。なんであんなに安いのか』
『あたしの推理はこう。つまりあのコロッケは原価を超えた上質の材料を使っているはずなのよ』
『いや……てゆうか原価割れなんかしたら商売にならないんじゃないの?』
『注目すべきは実はその商売の部分よ』
『商売?』
『そう。コロッケで原価割れしても、他の商品が原価よりもはるかに高くてコロッケとセットで売れるとしたら?』
『なるほどね……』
 すみの言っていることは確かにその通りかもしれない、と明日香は思った。
 ただ、コロッケの他の商品で原価よりはるかに高い値段設定でコロッケとセットで売れるものなどあるのだろうか。

『今、一瞬、コロッケとセットで売れそうなものを考えてたでしょ?』
 すみは明日香を見た。背の高い明日香と背の低いすみ。デコボココンビである。すみが明日香を見るとどうしても見上げるような形になってしまう。
『ま……まあね……』
 明日香は考えを見透かされたので照れ隠しのようにすみから視線を外した。
『コロッケとセットで売れそうなものまでは分からないわよ』
『え――。それじゃ意味ないじゃん』
『いいのよ。謎は謎のままの方が面白いのだから』
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