隣の二階堂さん

阪上克利

文字の大きさ
上 下
24 / 62

猫の独り言

しおりを挟む
 朝の陽ざしが眩しいので俺は少し目を細める。

 細めた目が眼光鋭い一癖も二癖もありそうな顔に拍車をかけていることは否まない。
 自分でも分かるのだが……俺はそんなにいい顔はしていない。
 目には昔やんちゃしてた頃の傷があるし、食べ物が見つからなかったときは残飯漁りからネズミを捕まえて食べることまでしていた。

 自己紹介するのを忘れていたが、俺は猫だ。
 
 俺の縄張りはなかなか広くて、夜遊びした後は縄張りの端にあるボロアパートの近くまで行く。
 ここにはカラスがよくやってくるから気をつけなければならないが……俺ぐらい身体が大きくて目つきも悪いと連中もなかなか手を出してこれない。

 それにしても人間と言うのはなかなか面白いものである。
 俺の顔つきや目つきは決していいものではない。
 毛並みだって最近では大分良くなったが、それでもそんなにいいものでもない。
 身体もやたらでかいし……可愛い要素などないはずなのだ。

 にもかかわらず……。
 毎朝ここのボロアパートの住民でもある小柄な女がオレをじーーっと見ているのだ。
 あれはもう羨望せんぼうのまなざしだ。
 オレのどこにそんな魅力があるのだ。
 そんなに見つめられるとさすがに照れる。

 ただ……油断はできない。
 羨望せんぼうのまなざしだと思っているのは俺だけかもしれないからだ。

 最初……この女はオレを捕まえて保健所送りにするつもりなのかと思っていた。
 油断なく相手から視線をそらさず、ゆっくりと間合いの外に逃げる。
 人間相手には造作もないことだが、たまに人間にも達人がいるので油断大敵だ。

 『ネコちゃん。今日も日向ぼっこしてるのかなあ』

 女が怪しい目つきでこちらを見ている最中に、同じアパートの住民らしき親子もここを通る。
 親子のうち幼い女の子が俺を見て『ネコちゃん、可愛い』というのだ。

 可愛いか?
 いや……嬉しいが……俺を可愛いと本気で言っているなら美的感覚がおかしいとしか考えられないぞ。

 それにしても子供はやはり可愛い。
 俺は子供が好きだ。
 こんな俺でも可愛いと言ってくれるからだ。
 この夕凪ゆうなと呼ばれている女の子は特に好きだ。
 猫である俺になにかできるとは思わないが、この子の身に何か危険があるのなら、絶対に守ってあげたい。

 そもそも子供たちを守るのは大人の役目だ。
 それは猫であっても人間であっても変わらないはずだ。

 『デューク、行ってくるね』

 二階堂と呼ばれたあの妙な女がこちらを見て言った。
 どうやらこいつは俺が野良猫だと思い込んでいるらしく……たまにめざしの干物などを投げてくれる。
 いや……ありがたいのだが、辞めてほしい。

 俺、飼い猫だし。

 外でなんか食べて帰ると怒られるんだよ。
 飼い主に。

 あと勝手に『デューク』と呼んでくれているが……。
 名前は……『ラルジュ』という立派な横文字の名前をもらっているのだ。

 特に実害はないが……正直迷惑なのでできればちゃんとした名前を憶えてほしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

都道府県物語

にゅうと
ライト文芸
西日本対東日本の対決 大阪を筆頭に福岡、愛知、兵庫、京都 それに対して 東京を筆頭に千葉、神奈川、埼玉、北海道 さあ日本全体を揺るがす対決が今始まる

推し活アラサー女子ゆっこのちょっと不思議な日常

日夏
ライト文芸
親友のなっちゃんこと結城那智(ゆうきなち)とその恋人麻生怜司(あそうれいじ)のふたりを一番近くで応援する、ゆっここと平木綿子(たいらゆうこ)のちょっと不思議な日常のお話です。 2024.6.18. 完結しました! ☆ご注意☆ ①この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは 一切関係ありません。 ②タイトルに*がつくものは、年齢制限を含む文章表現がございます。 背景にご注意ください。

ニューハーフな生活

フロイライン
恋愛
東京で浪人生活を送るユキこと西村幸洋は、ニューハーフの店でアルバイトを始めるが

An endless & sweet dream 醒めない夢 2024年5月見直し完了 5/19

設樂理沙
ライト文芸
息をするように嘘をつき・・って言葉があるけれど 息をするように浮気を繰り返す夫を持つ果歩。 そしてそんな夫なのに、なかなか見限ることが出来ず  グルグル苦しむ妻。 いつか果歩の望むような理想の家庭を作ることが できるでしょうか?! ------------------------------------- 加筆修正版として再up 2022年7月7日より不定期更新していきます。

嫌婚ー嫌いな人と結婚したバカ女ー

みほこ
ライト文芸
いつ別れを切り出そうか、悩みに悩んで10年以上も経過 好きでもない男と結婚をしてしまった その男は次第に本性を現す・・・

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男

湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。 何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。

【完結】社会不適合者の言い分

七瀬菜々
ライト文芸
※やっぱりタイトル戻します← 無駄に高学歴な引きこもりってよく居るけど、私の兄はまさにそれだ。 彼は毎日朝から晩まで、カーテンを閉め切った薄暗い部屋で牧場経営(ゲーム)をしている。 私が『クソニートが』と罵倒すると、兄は必ず『オンラインの牧場では一日18時間労働している』と言い返すが、それはむしろリアルで働くよりもブラックだろう。本当バカ。 私の兄はそんなどうしようもない男だ。 けれど、私にとっては大事なたった一人の兄。 だから私は今日も兄を外へと誘う。 毎度毎度お得意の屁理屈で返されようとも、めげずに誘う。 ------それが私の義務だと思うから。 これは根暗で偏屈で変態で不器用な兄と、何も知らない私の物語。 *** 読み進めると色んなことがつながります。

処理中です...