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化け猫ちゃん
デートのお相手
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藤沢のアヤコちゃんの家まではけっこうな距離があった。
そこから上原さんの家までも1時間以上かかった記憶がある。
『いるかね、いきなり行って』
『大丈夫。休みの日は家で寝てるって言ってた』
『ああ、そうだった』
二人きりだとやたら意識して会話が続かない……なんてことはなかった。
仕事の話や、最近見た映画の話などをしながら、それなりに車の中では盛り上がった記憶がある。
会話が盛り上がると目的地までは遠くとも、なんだかすぐに着いてしまったような気がするから不思議だ。
上原さんの家はマンションの2階。
ボクらは階段を昇って、彼の部屋のチャイムを鳴らした……。
反応がない……。
何回かチャイムを鳴らしたが上原さんは出てこなかった。
休みで部屋の中にいるはずなのに出てこない。
『出てこないね……』
『おかしいなあ』
ピンポンを連打するアヤコちゃん。
『いやいや……そんな連打したってダメだって』
『どうせ寝てるだけなんだから、ガンガン押せば起きるよ』
『てゆうか、ヤバイって。近所迷惑だから……』
『あ……そうか』
結局……
上原さんは出てこなかった。
仕方ないのでボクらは帰ることにした。
『絶対に中にいたよ』
『寝てたんかな?』
『起きろよ――』
アヤコちゃんは車の中で言っていた。
確かにせっかく来たのだから、中に入れろとまでは言わないけど、家にいるのなら出てきてほしかったと今でも思う。
後日、上原さん本人から聞いたのだけど、実際に彼は家におり寝ていただけだったらしい。
ボクらが来たことにも気づいていたようだった。
まったくもってひどい話である。
『この辺……元カレの家の近くなんだ……』
藤沢市内を走っている時に唐突にアヤコちゃんが言った。
なんだか思いつめた感じの口調だった。
だけどボクは『へええ』としか言えなかった。
『あたしもいろいろあったんだよ』
『そうなんだ……。今はどうなの?』
『今? 今はがんばって正看護師にならないとね』
『あ、そうか。そりゃそうだね』
もちろん記憶は定かではないけど……こんな感じの会話をしたのを覚えている。
ボクはどこにも寄らずにアヤコちゃんを家に送った。
日が完全に沈み、すでに真っ暗になっていたので、実家住みだったアヤコちゃんが遅くなれば、両親も心配しているかもしれないと思ったので、どこかに寄ろうという発想がボクにはなかったのだ。
あの時、帰りに食事ぐらいしておけばよかったな……と今思えばちょっと後悔している。
デートという言葉を『恋人とどこかに行くこと』と定義せずに、『親族以外の異性と二人きりでどこかに行くこと』と定義するなら、ボクの人生初のデートのお相手はアヤコちゃんだったのである。
その後、アヤコちゃんは学校を卒業して、無事、正看護師になって藤沢のある大きな病院に就職したのだが……訪問入浴が楽しいと自分でも言っていたので休みのたびにバイトに来ていた。
しかし、それも彼女の仕事が本格的に忙しくなるにつれて少なくなっていき、ついに彼女は完全に訪問入浴を辞めて行った。
彼女と最後に話したのは、そのあと数年後のことであるが、実は、これにはちょっとしたこぼれ話があるのだ。
そこから上原さんの家までも1時間以上かかった記憶がある。
『いるかね、いきなり行って』
『大丈夫。休みの日は家で寝てるって言ってた』
『ああ、そうだった』
二人きりだとやたら意識して会話が続かない……なんてことはなかった。
仕事の話や、最近見た映画の話などをしながら、それなりに車の中では盛り上がった記憶がある。
会話が盛り上がると目的地までは遠くとも、なんだかすぐに着いてしまったような気がするから不思議だ。
上原さんの家はマンションの2階。
ボクらは階段を昇って、彼の部屋のチャイムを鳴らした……。
反応がない……。
何回かチャイムを鳴らしたが上原さんは出てこなかった。
休みで部屋の中にいるはずなのに出てこない。
『出てこないね……』
『おかしいなあ』
ピンポンを連打するアヤコちゃん。
『いやいや……そんな連打したってダメだって』
『どうせ寝てるだけなんだから、ガンガン押せば起きるよ』
『てゆうか、ヤバイって。近所迷惑だから……』
『あ……そうか』
結局……
上原さんは出てこなかった。
仕方ないのでボクらは帰ることにした。
『絶対に中にいたよ』
『寝てたんかな?』
『起きろよ――』
アヤコちゃんは車の中で言っていた。
確かにせっかく来たのだから、中に入れろとまでは言わないけど、家にいるのなら出てきてほしかったと今でも思う。
後日、上原さん本人から聞いたのだけど、実際に彼は家におり寝ていただけだったらしい。
ボクらが来たことにも気づいていたようだった。
まったくもってひどい話である。
『この辺……元カレの家の近くなんだ……』
藤沢市内を走っている時に唐突にアヤコちゃんが言った。
なんだか思いつめた感じの口調だった。
だけどボクは『へええ』としか言えなかった。
『あたしもいろいろあったんだよ』
『そうなんだ……。今はどうなの?』
『今? 今はがんばって正看護師にならないとね』
『あ、そうか。そりゃそうだね』
もちろん記憶は定かではないけど……こんな感じの会話をしたのを覚えている。
ボクはどこにも寄らずにアヤコちゃんを家に送った。
日が完全に沈み、すでに真っ暗になっていたので、実家住みだったアヤコちゃんが遅くなれば、両親も心配しているかもしれないと思ったので、どこかに寄ろうという発想がボクにはなかったのだ。
あの時、帰りに食事ぐらいしておけばよかったな……と今思えばちょっと後悔している。
デートという言葉を『恋人とどこかに行くこと』と定義せずに、『親族以外の異性と二人きりでどこかに行くこと』と定義するなら、ボクの人生初のデートのお相手はアヤコちゃんだったのである。
その後、アヤコちゃんは学校を卒業して、無事、正看護師になって藤沢のある大きな病院に就職したのだが……訪問入浴が楽しいと自分でも言っていたので休みのたびにバイトに来ていた。
しかし、それも彼女の仕事が本格的に忙しくなるにつれて少なくなっていき、ついに彼女は完全に訪問入浴を辞めて行った。
彼女と最後に話したのは、そのあと数年後のことであるが、実は、これにはちょっとしたこぼれ話があるのだ。
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