アリスと女王

ちな

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信じるからね

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低い草は足音を鳴らしません。ちいさく可愛らしい花を気遣う余裕もなく、凛は小鳥が鳴き喚く場所へと急ぎました。 

「…なにかあるの?」

二羽揃って床にちょこんと佇むそこは、床を覆う草のフローリングと何ら変わりはありません。試しにあちこち見渡して見ましたが、儚く美しい空間のごく一部なのです。
スポットライトみたいなキラキラした陽の光が差し込み、草や花の柔らかなコントラストと朽ちたフローリング、それから崩れた煉瓦がただ美しいばかりの空間の、影の部分です。
首を傾げるばかりの凛は、ごめんね、分からないと小鳥に囁きました。

二羽の小鳥は少し悲しそうにじっと凛を見つめます。それから囀ったり、ちょこちょこ跳ねたりと、一生懸命何かをアピールしました。

「……ここ?」

小鳥たちが跳ね回っている床の辺りに膝をつき、床下に向かって指さしました。

すると小鳥はぴちぴちと嬉しそうにおしゃべりし出しました。小さな羽を広げて見せ、凛を肯定しているように見えます。

凛は首を傾げつつ、背の低い草を掻き分けてみました。

朽ちたフローリングから生える芝に似た草は、柔らかく凛の手を刺します。爪が汚れることを厭わず浅い土を掘ると、指先に明らかな異質が触れました。

はっと目を見開いた凛は、その感触を慎重に確かめて、形をなぞります。

そのかたち通りに土を掘ると、四角い金属が現れました。

重厚な金属は取っ手が付いています。随分錆びていますが、少し持ち上げてみると、かちゃりと重たい音を奏でる割に、重さはそれほどなさそうでした。
ぐるりと四角い金属と、取っ手。もしかして、と小鳥に問いました。

「扉…?」

一見、床下収納のようなつくりです。
登ってきたのに下がるのか、それとも別の入口があるのか。小鳥のほうを改めて見つめると、彼らはとても嬉しそうに囀って、それから飛び立っていってしまいました。


開けてみるべきか、それともさっき見付けた扉から上を目指すべきか。

凛は悩みました。上を目指しているのに、下がる選択肢は果たして正解なのか。それとも、この扉の中は浅くて、もしかすると蓮が言っていた鍵が入っているのか。別の恐ろしいものが出てきたらどうしよう。逃げ場は下がるための階段しかないし、せっかくここまで来たのにみんなの思いが無駄になっちゃう…。
しかし、小鳥たちが凛を罠に嵌めるとも思えません。彼らは仲間を呼び、助けてくれたのです。今度も助けてくれたのでしょうか。

割れた窓からは相変わらず清新な風が緩やかに入り込み、ピンクや黄色の花がゆらゆらと風に遊びました。

どうすることも出来ず、ただ扉の取っ手を指に引っ掛けたり外したり、窓の外を見てみたりと落ち着かない凛は、今一度祭壇の方の扉に視線を送りました。

濃い緑色の葉は扉を隠すように絡まり合い、蔦があちこちと好き勝手に伸びています。大袈裟な音を立てて閉まったことを思い出すと恐ろしいですが、しかし上へ行くためには順当な道順とも思えます。

あれがもし順当な道順だとしたら、では何故小鳥たちが必死に訴えていたのでしょう。


凛は目を瞑り、息を大きく吐き出しました。

「信じるからね」

小鳥たちを思い浮かべ、床から生えるような取っ手をゆっくりと引きました。

    
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