【R18】アールグレイの昼下がり ー双子の姉・乙編ー

Deceive it.

Deceive it.4

騒がしい一日が終わり、乙が帰り支度をしている時だった。
神流かんなが乙を呼びに来た。

「何だよ、いそいそと支度なんかしちゃってさ」
「別に急いでいないが？」
「そうなのか？私はてっきり急いでるのかと思ったぞ。
乙を迎えに来た子がいたからさ。
なぁ、新しい彼女か？」

その言葉を聞くと乙は、思わずため息をつく。

「何だ、神流知らないのか？
新聞部の子と知り合いだったんじゃないのか？
号外も出していたみたいだから知っているのかと思ったが…」
「え？」
「あれ、輝李だぞ」
「えええ!!嘘だろ!!」
「…嘘言ってどうするんだよ」
「そうか!!だからあの子、私の名前知ってたのか」
「…お前の場合、顔見知りじゃなくても有名だから名前は知ってるだろ」

そう言うと鞄を持ち教室を後にした。
教室のドア際で乙にニッコリ笑う輝李と、優しく微笑み返す乙を見て、神流は少しだけ安らいだ気がした。

『あんな風に笑う二人を見るのは初めてだな。
乙は滅多に笑わない…
輝李ちゃんは作り笑い…
そんな二人が笑っている。
この間まですれ違っていたのに。
あれが本来の姿なのかもな…』


乙と輝李が廊下を歩いている時だった。
乙が急に立ち止まる。

「あ…」

輝李は思わずぶつかりそうになった。乙の体の横からチラリと様子を見ると反対側から瀾が歩いてくる。
瀾も乙と目が合うと気まずそうに目線を外す。
乙は目を伏せると急に輝李の手を握り、歩き出した。

「行くぞ…」
「ちょっ、ちょっと、乙!!
急にどうしたの？」

引っ張られるように輝李が、やっとの思いで引きずられながらも、瀾とすれ違う時に目があった。
まるでスローモーションのように感じるほどだった。

「あ…」
「……ｯ」

漠然と目を合わせる輝李と辛そうな眼差しの瀾。
各々の想いが交差するように…。