上 下
238 / 330
四章

二百二十六話 空白

しおりを挟む

 あれ?

 何処だここは?

 いや、というか何処かなのか?
 白い。ただひたすらに白い場所だった。上も下も、視界の果てまでもすべてが白い世界。
 真っ白ではあるが明るい訳ではないのか、足元を見ても俺の影すら見当たらない。どういう場所なんだここは。

 真っ白な空間に浮かんでいるのかと思ったら、どうやら水面のような足場があるらしい。あまりに白過ぎて全く気が付かなかった。
 しかしコレはどういうことだ? こんな場所に足を運んだような記憶は全くないぞ……

 そこでふと、今目を向けていた正面とは別、丁度視界の死角になってた位置に気配を感じた。何だ? 今の今まで気配なんて……そもそもこんななにも見当たらない場所で見落としてた?
 って、そんな事は今は良い。誰か、そこに――

「……!?」

 何だ、声が出ない? いや、声だけじゃない、手足も動かせない。どうなってるんだ一体?
 何かがそこに居るなら、早く確かめないと……!
 そう、強い焦りと共に考えた瞬間、視界が真横に向けられていた。
 なんだそりゃ!?
 相変わらず俺の身体は指一本動かせない。まるでリアルの俺の身体のようだ。意思があるのに身体がピクリとも反応しないあの感覚。
 ――なら何で今動くことが出来た?
 いや、それを考えるのは後でもできる。今は目の前のこの黒い靄だ。

 視界を動かすことが出来たおかげで、察知した気配の元を視界に収めることが出来た。
 相変わらず比較するべきモノがまるで存在しない為、あの靄が小さいのか遠くにあるのか判断が付きにくいが、もしアレが俺が立っているこの水面のような物の上に同じように立っていたと仮定すると、足元から広がる波紋と視線の先にある靄の高さから何となく遠くにあるというのは判る。
 ここからだと、ただ黒いガスのようなものがわだかまっているようにしか見えない。
 もう少し近づければアレが何なのか分かりそうなものなんだが……

「っ!?」

 そう思った瞬間、その黒い靄がハッキリと見える場所に立っていた。訳が分からない。まるで瞬間移動したような感覚だ。
 そういえば、さっき視界が変わった時もそうだった。横を向いたというよりも、唐突に視界が切り替わったような感じ。
 例えるなら、移動キーで自由に動き回れる最近のRPGではなく、大昔のダンジョンRPGの様に前に進むを選択すると1マス分シーン切り替えされるかのような……
 試しに、靄の反対側へ行きたいと強く思ってみる。すると――

 あ、ダメだ。なんか移動したような気はするが、靄以外に何もないせいで自分が移動したのか確かめられん。代わりにもう少し近づくように念じてみると、黒い靄のに近づくことに成功した。
 やっぱりだ。手足を動かそうとしてもまるで動かせないのに、そこへ行きたいと強く願うと身体ごとそこへ移動する事が出来るようだな。

 ……こんなのいくら何でもおかしいだろう。リアリティを異様なまでに追及するあのゲームとは根本から設計思想にずれがある。という事はつまりこれは夢か? それにしては認識がはっきりしすぎてる気がするんだが……いや、夢の中だからそういう風に不自然を自覚できてないだけとか?
 そもそもこれだけ夢という自覚を持っていてもまるで覚める気配がないという事は、コレが現実だろうが夢だろうが進むしかないって事か。おっかねぇなぁ。
 何にせよ、まずはこの黒い靄が一体何かを……

「……?」

 遠くから見た時は黒い靄の様にしか見えなかったのに、何か形を持った様に……いやこれは?
 意識して目を凝らしてみればまるであの黒い靄が晴れていくようにしてその姿が判るようになってきた。
 これは女の子……?
 いや背格好……それに身体つきからみても子供じゃぁねぇな。よくよく考えてみれば周りに比較するものが無いから身長も分からないのにどうして子供だと思ったんだ……?
 胸も出てるし手足もスラっとしている。冷静に見てみれば発育の良い十代後半から二十代ってところか? とても女の事言えるような年齢ではない。
 まだ顔を含めて靄が掛かっておりハッキリと見ることは出来ないが、チラリと見える口元の感じからもオバサンって感じでもないし、そもそも名も知らない訳だし便宜上ここは女の子という事で良いか。多分だが俺よりは年下っぽい感じがするし、何かその辺敏感そうな年ごろっぽく見えるしな。

「……、…………!」

 駄目だ、いくら出そうとしても声がまるで出ない。自由になるのは身体の位置だけか。
 視線の先に居る娘へと呼びかけることも、手を動かして触れることも出来ないらしい。

 まるで眠るように目を閉じた女の子は、こちらにまるで気が付いていないようで、ただじっとそこに佇んでいる。

 改めて周囲を確認してみる、やはり視界の続く限り何も見当たらない。ただ足元から広がる水面が、地平……いや水平の果てまで続くのみだ。
 であれば、水面以外何もないように見えるこの空間で、この女の娘は一人で何をしているんだ?
 そして何で俺はこんな所に連れてこられているんだ? いや、そもそもココはいったい何処なんだ?
 こんな場所、全く見覚えが無い……筈なんだが、何だこの既視感は。
 記憶にある限りこんな所へ来たことは一度もないはずなのに、どういう訳かこの場所を知っているという感覚がある。なんだこの記憶をつつかれる様なザワつく感じは?
 覚えてないだけで、俺はここに来たことがあるのか……?

 考えを巡らしていた所で、ふと視線に気づく。

「!?」

 うお、びっくりした!?
 眠るように目を閉じていた筈の女の子の目がいつの間にか開いていた。
 というか相手の方も驚いてる……というか、何か怯えてる感じだな。これは、この娘が俺を呼び出したのかとも思ってたんだがどうやら当てが外れたか?
 しかし、どうしたもんか。
 完全にこっちに気付いて……というかお互い対面状態なんだが、コミュニケ―ション方法が判らんぞ。口がきけないだけでなく、身振り手振りすら封じられてるとなると、どうやって意思疎通すればいいんだ?
 そう考えていた所……

『■%&■■!’@■■%’■$|¥-&■■’%』
「……っ!?」

 何だ、今のは!?
 脳味噌の中に直接、大音量で意味不明の音を叩き込まれたみたいな……

『■・■%■■■¥■■@&■?』

 ぐ、また……今度はさっきより小さいが、これは頭に響くな。
 目の前の女の子は顔をしかめる俺をみて何かオロオロしている感じが。というかこの娘は俺と違って普通に動けるのか。見るからに『焦ってます』といった感じでオタついている。

 もしかして今のはこの娘の言葉……なのか?
 脳味噌に響くような……つまりテレキネシス的な念話で会話を試みてる? まぁ意味はサッパリ分からないんだが……
 しかし、念話か。念じたら動くことが出来たこの世界だ。もしかして強くイメージする事が重要なのか……?
 試しにこっちも何か念話を送ってみるか? と言っても送り方はサッパリ分からんが、女の子の頭に強く念じるようにして……そうだな、まずは『こんにちは』からどうだ?

 むむむむむ………………!!

 どうだ!?

「!!!」

 おお、なんかめっちゃ驚いた感じが……つまりこれは念話が通じた……!?

『■■!■¥&@■=■■%&■■!>■’@■■%’■@|¥-■&■■!!!』

 ぐわああああああああああ!?
 頭が!? なんかめっちゃ凄い勢いで頭の中に爆音が!?

 あ、やばい、衝撃で意識が……

「……! …………!」

 なんか、女の子がめっちゃ焦ってるけど、ごめん、もう無理……意識がオチる…………

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-

すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン] 何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?… たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。 ※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける 縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は…… ゆっくりしていってね!!! ※ 現在書き直し慣行中!!!

最強と言われてたのに蓋を開けたら超難度不遇職

鎌霧
ファンタジー
『To The World Road』 倍率300倍の新作フルダイブ系VRMMOの初回抽選に当たり、意気揚々と休暇を取りβテストの情報を駆使して快適に過ごそうと思っていた。 ……のだが、蓋をひらけば選択した職業は調整入りまくりで超難易度不遇職として立派に転生していた。 しかしそこでキャラ作り直すのは負けた気がするし、不遇だからこそ使うのがゲーマーと言うもの。 意地とプライドと一つまみの反骨精神で私はこのゲームを楽しんでいく。 小説家になろう、カクヨムにも掲載

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

最強スキルで無双したからって、美女達によってこられても迷惑なだけなのだが……。冥府王は普通目指して今日も無双する

覧都
ファンタジー
男は四人の魔王を倒し力の回復と傷ついた体を治す為に魔法で眠りについた。 三十四年の後、完全回復をした男は、配下の大魔女マリーに眠りの世界から魔法により連れ戻される。 三十四年間ずっと見ていたの夢の中では、ノコと言う名前で貧相で虚弱体質のさえない日本人として生活していた。 目覚めた男はマリーに、このさえない男ノコに姿を変えてもらう。 それはノコに自分の世界で、人生を満喫してもらおうと思ったからだ。 この世界でノコは世界最強のスキルを持っていた。 同時に四人の魔王を倒せるほどのスキル<冥府の王> このスキルはゾンビやゴーストを自由に使役するスキルであり、世界中をゾンビだらけに出来るスキルだ。 だがノコの目標はゾンビだらけにすることでは無い。 彼女いない歴イコール年齢のノコに普通の彼女を作ることであった。 だがノコに近づいて来るのは、大賢者やお姫様、ドラゴンなどの普通じゃない美女ばかりでした。 果たして普通の彼女など出来るのでしょうか。 普通で平凡な幸せな生活をしたいと思うノコに、そんな平凡な日々がやって来ないという物語です。

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

処理中です...