ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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四章

二百六話 初めてのダンジョンⅦ

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「大丈夫。近くに生き物の気配を感じない」

 エリスの索敵に胸をなでおろす。
 この場に、こんな何百年か何千年か知らないが、地中に埋まり閉鎖された空間に魔物が居たことから、生きとし生けるものはとっくの昔にすべて食い尽くされているだろうとは思ってはいたが、こと気配探知に関しては誰よりも信頼できるエリスに居ないと断言してもらうと安心できる。
 これ以上の魔物や野獣、はたまた虫のモンスターと遭遇することは無いという訳だ。
 なら、あとは暗く薄気味悪いだけで安全なこの遺跡の中をエスコートするだけの簡単な仕事だ。

 魔物の調査を終えたカイン達を引き連れて開かずの扉をくぐる。
 壁にデカい穴が開いていたり、天井がむしられていたりはするが、不思議と温かい。しかもこんな地の底に取り残された空間にもかかわらず空気が淀んでいない。それにこの耳につく微妙な音。もしかして扉のこちら側は空調が、電源が生きてる? 明かりはついていないが、そんな気がする。
 壁に空けられた大穴を使って遺跡内を自由に行き来できるはずの魔物が、この場所をねぐらにしていたのはこの環境のせいか。

 これだけ機能が残るような環境であればもしかしたら色々価値のあるものが残ってるかもしれないな。まぁ、魔物がぶっ壊してなければの話だが。

「ずいぶんと馴染みのある風景ねぇ。ファンタジーっぽくなくない?」
「昔からファンタジーとSFは地続きなもんでしょ。結構多いぜ? そういう作品」
「そう言われてみると、確かにそうかもしれないけど……ここまで随分とリアルなファンタジー経験してきたから違和感がすごいっていうか……βテストでもこういうのの匂いは全くなかったし」
「まぁ、その感覚は分かるけどさ」

 ハイナ村で予想していた以上に現代文明から遠ざかった生活を生活をしていた分、特に科学的なものに違和感覚えるんだよな。
 これが超絶発達した魔法文明とかならすんなり受け入れられそうなんだけど、ガチの科学文明だからな、この遺跡の見た目。

「何度見ても見慣れないわね」
「もはや別世界といった風情だからな。俺もここまで巨大な遺跡は初めて見たが、規模が大きくなるとまた感じ方も違ってくるな」
「そうねぇ。普通の遺跡は日常の中の違和感って感じだけど、ここまで巨大な遺跡になると自分が違和感の中に紛れ込んだような錯覚を覚えるわ」

 言いたいことは何となくわかる。スケール感が変わると、受けるイメージも大分変わるもんだからな。
 今まさに俺が感じている、ディスプレイで遊ぶビデオゲームと体感型VRMMOとで完全に別ものだと感じているのと同じようなものなんだろう。

「それにしても、これほどまでに異質で発達した文明でも滅んでしまうんスよねぇ。一体何があったのやら」

 これ系の疑問もお約束だよな。恐竜が絶滅したホントの理由は何だろう的なやつ。古代のなんか凄いのが滅んだ理由ってのは現代でもファンタジーでもやっぱり気になるものなんだろう。
 天変地異か、はたまた核戦争的な破滅なのか。理由は分からないが何かすごい事があって凄い文明が凄い滅び方をしたんだろう……的な事に想像を巡らせるともう夢が広がりんぐ。

 それにしても本当に広いな。ここは何かの研究所なのか?
 居住するような施設は見当たらない。大小さまざまな区画に会社のオフィスのような部屋が無数にあるだけだ。

「よし、それではここを拠点として探索を開始する」

 拠点を張ったのはひときわ大きなオフィスのような部屋だ。広いし全周を廊下に囲まれる形なので、いざという時の脱出もしやすい。キャンプにするには確かに良い場所だ。

「魔物を撃破したことでここでの危険は去ったと判断する。これから可能な限り周囲の探索と記録を行う。専門的な知識を要する機構を発見した場合は記録にとどめ手を出さない事」
「「「了解しました」」」

 あ、そうか。よくよく考えれば今回は本格的な探索のための露払いと事前調査が目的だった。さっきから魔物の記録や閉まった扉の開閉なんかもやったりしたから勘違いしていた。

「こちらとしてはまずは二刻程で区切って探索する予定だ。その間お前たちも暫く自由にしてくれて構わない。ただ出来るだけどちらかのパーティはここに居るようにしてほしい。これ以上何かに襲われるという事はないだろうが、不測の事態には備えておきたい」

 休憩か……正直助かるな。いい加減歩き詰めで疲れてきたところだ。

「そういう事なら一刻ずつ交代に休むという事でどうっスか?」
「ああ、こちらはそれで構わないですけど」
「それなら先に休ませてもらうっスけど、それでいいっスよね?」

 断定かよ。出来るだけ良いものを先にゲットしようって腹だな。まぁ良いけど。
 いろいろと役に立ちそうな知識も学べたし、授業料と思えばまぁアリだろう。それに持ち出せるのは一人一つ。これだけ広い未踏遺跡なら、お土産なんて三つどころじゃないだろうし、先に行かせても問題はないだろ。

「それでいいです。そちらの方が先輩ですしお先にどうぞ」
「えっ……ちょっ」

 自分から仕掛けておいて何を驚いてるのか……

「……先に煽っておいてこういう事を言うのもどうかと思うんスけど、そこはランク差を見て見ぬふりしてでももうちょっと食い下がってパーティの利益を守るべきっスよ?」

 え、そこでネタ晴らししちまうのか? ふつう『しめしめ』とか言った感じで権利持ってくのが普通だろ。
 もしかして、忠告的な感じでわざとやったのか? だとしたら何というか、随分後輩思いな連中だな。

「いえ、そこら辺を理解したうえで今回はそれでいいかな、と」
「そうなんスか?」
「ええ、自分の取り分がとり尽くされる危険があるような内容であれば俺も口を挟んでいたでしょうけど、今回はそういう訳でもないので。という訳で、お先にどうぞ」
「まぁ……そういうなら……」

 まぁ報酬の事は割り切った上での判断なのは間違いないが、それ以上に歩き通しで疲れたから休みたいってのが一番なんだなぁ。扉の解放の時に一度休みはしたが、その後魔物と戦い、さらに探索で二時間ほど歩き通しだったからな。流石に足が痛くなってきた。

「エリス、ハティ! ちょっとこっちゃ来ーい」
「何~?」
「ガゥ!」

 相変わらず仲が良いな。
 まぁエリスは他の大人と自分から話そうとしない所があるし、俺やチェリーさんが話している間自然とハティと一緒になるって感じか。
 大会の時も留守番中二人で仲良くしてたみたいだし。もう姉妹みたいなもんだよなあの二人。

「今から二刻の間は休憩だが、最初の一刻はこの部屋から出ないようにな」
「はーい!」
「ワン!」
「ハティも暫く移動は無いから好きな姿でいていいぞ……っと」

 俺が言うや否や、食い気味にハティは人型に変化していた。
 どうやら狼の姿よりも人の姿の方が気に入ってるみたいだな。エリスと一緒に居るからか?

「それじゃ、自由に休んでいていいけど、この部屋から出ない事。良いな?」
「わかったー」
「うん」

 これで良し。この二人なら好奇心に負けて勝手にフラフラ出て言ったりはしない筈。
 ハルドたちが戻ってくるまでゆっくり休ませてもらおう。

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