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三章

百四十話 協会Ⅱ

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 強者であればあるほど依頼に参加しないというのは、この街の協会にとっては頭痛の種だろう。
 だが、その場しのぎでも良いからある程度の収入がほしい俺にとってはかなり美味しい話ではある。
 どの程度の依頼があるかは確認してみないとわからないが、少なくともNPCの同業者すら殆居ないということは仕事が選び放題ということだからな。
 まぁ、住民の信頼がなくて依頼自体が少なくなったって話だから、美味しい稼ぎ話みたいなのは期待できないが、一攫千金を夢見てるわけじゃないしな。

「それじゃ、簡単そうな害獣駆除の依頼ってありますか?」
「今の話を聞いたあとで受けてくださるのですか?」
「え? だって他に仕事取り合いにならずにやれるんでしょう? 確かに大会に参加登録しましたけど、ソレは単なる腕試し的なもので、俺としてはコツコツと小銭を稼ぎつつ、経験を積みたいんですよ」

 レベル上げに来た俺にとっては、むしろこっちのほうが本命で、闘技大会は実力確認の為の参加に過ぎないんだよな。
 本当なら勝手にその辺のヤバそうな獣を退治するつもりだったが、仕事として金まで貰えるというのなら依頼を受けないという選択肢はないだろう。

「そういう事でしたらぜひお願いします」

 そういって一度奥に引っ込んだ職員さんは数枚の依頼票を見繕って持ってきてくれた。

「開店休業状態と言う割には、それなりに依頼が来てるんですね?」
「雑用じみた依頼はもう自己解決するような空気になっていますが、害獣駆除に関しては流石に自力でどうこうできる物ではないので、未だに依頼が集まるんです」

 それもそうか。畜産家に家畜を食い荒らしに来る狼を自力でなんとかしろとかは流石に無茶な話だ。
 いくら依頼を受けてもらい難いとっても、危険なものに関しては依頼せざるを得ないという訳だ。

「田舎から出てきたばかりということですので、まずは腕試しがてら、この辺りでは最もよく知られる害獣であるシュリガーラの駆除などがおすすめです」
「ふむ……シュリガーラってどんな獣なんですか?」
「犬や狐の間の子ような獣なんですが、小型の獣なんかをよく襲います」

 コヨーテみたいなもんだろうか?
 大型の獣というわけでは無さそうだが……

「屍肉食いでもあるのですけど、今回の依頼は小動物を襲うという方に問題があります。この街の近くに牧場があり、そこでランクック――食肉用の鳥を飼育しているのですが……」
「シュリガーラとやらに食い荒らされていると」
「はい。本来少数で群れて居るのですが、原因は判りませんが非常に大きな群れを作っているらしく、牧場主では手が負えなくなっています」
「どれくらいの規模かってわかります?」
「依頼者の話では20は居たそうです。本来シュリガーラは臆病で、人の姿を見かけると逃げ去るのですが、数が増えたことで気が強くなっているのか、追い払おうとした牧場主に飛びかかって来るほどだったそうで……」

 群れると気が強くなるのって人間だけじゃなかったのな。
 しかし20か……4人で行けるか?

「依頼内容はシュリガーラの駆除。10匹も狩れば大人しくなるだろうとの事で、10匹分の尾を持ち帰って頂ければ報酬と引き換えさせていただきます」

 なるほど、討伐したっていう確認の為のアイテムが必要な訳か。
 確かに尻尾が二本ある訳でもないだろうし、10本の尻尾を持ち帰ればつまり10匹狩った証明になる訳だ。

「じゃあ、お試しということでその依頼を受けてみます」
「はい、有難うございます。受注の担保の方はどうしますか?」
「手持ちが心もとないので、腕輪でお願いします」
「わかりました。では少々お待ちください」

 そういって取り出したのは……四角い箱? 腕輪って話じゃなかったっけか?
 俺の疑問をよそに、職員の人はその箱をおもむろに2つに割り開いた。
 その中には空洞があり、ちょうど腕を差し込める程度の隙間が空いていた。

「ここに腕を差し入れていただきますと、こちらの装置が追跡用の腕輪を生成する仕組みになっています」
「あぁ、なるほど。腕輪ごと持ち逃げされたらどうするのかと思ったら、こういう……」
「はい。これは物理的に腕に嵌められる訳ではなく、登録者の心拍から心の臓の位置情報を登録しています。腕輪に見えているのはその機能が働いているというシンボルでしかありません」

 うわ、思ったよりえげつない。
 要するにモニタリングできるペースメーカーを無理割植え付ける感じか。
 腕輪はあくまで視覚的にそういう処置が施されている人間だとというのを知らせるだけのもの……と。

「随分凄い技術ですね……こんなの作れるほど発展してるんですかこの街って」
「あぁ、いえ。これは旧天人の崩落遺跡から回収されたもので、我々がこれほどの道具を作り出せるわけではないんですよ」
「そうなんですか」

 天人というのがどういうものかは分からんが、語感からして神様とかそれ系の種族だろう。遺跡からの回収品というからにはこの手のゲームでお馴染みの、旧文明のアーティファクト的な奴だろうか?

「では、腕をここへ」
「はい」

 言われるがまま腕を差し出す。
 普段であれば罠を疑う所だが、理由が思い浮かばん。この街にはつい昨日来たばかりで、トラブるらしいトラブルは門番との諍いだけだ。
 それに列に並んでいる大会参加希望者や他の職員っていう目撃者がこれだけ居て、堂々と犯罪まがいの真似をするとは思えん。
 差し出した腕を挟むように、魔法の箱が閉じる。それで終わりだった。
 何か派手に光る訳でも音が鳴るでもなく、ただ閉じて、そして開けば腕輪のようなシンボルが既にハマっていた。
 何かもっと、キラキラした魔法陣みたいなのを予想していたが、ハマっていたのは焼き物のような質感の腕輪だ。
 手首にピッタリと密着していて、拳よりも直径が小さい。つまり外すことは出来ない。
 強度がそれほどあるようには思えないから、破壊することは出来るかもしれない。しかし、職員さんのさっきの言葉からするとそれに意味は無い。
 はめられた時点で心拍を記録しているっていうし、もしかしたらコレは本来なら罪人の管理とかに使われてたのかもしれないな。……ただの憶測だが。
 
「子の腕輪をつける事で担保払いは免除されますが、依頼失敗した時の違約金の支払い自体は発生しますので注意してください。と言ってもこの依頼には期限が設定されていないので、あなたが再起不能にでもならない限りは違約金の支払いが必要な事態にはなりませんけどね」
「あぁ、依頼によってはそういう事もあるんですね。そういう所も確認するのが大事って事ですか」
「はい。駆け出しは割と考えなしに受ける人が居たりしますが、これは依頼を受ける際の判断基準の中では特に重要な所ですね」

 確かに、討伐対象がクッソ弱くても討伐期間が激渋で、受けた時点で自分たちの戦力では既に間に合わないとか言う事態もあり得るな。
 詳細の確認は確かに大事だ。
 ……というか、まぁ普通はちゃんと確認するよな?
 なのにここまで念押しするって事は、ゲームだとよくある『とりあえず受けられるクエストは全部受けちまえ』的によく考えず依頼を抱え込む人が多いのか?

「依頼によっては依頼人と様々な交渉が必要な場合もありますが、今回は結果払いとなりますので依頼人とのやり取りは必要ありません」
「交渉が必要な依頼なんてあるんですか?」
「依頼期間だったり、報酬の交渉だったり、或いは依頼内容を一般には秘匿したい場合は現地で直接依頼主との依頼内容の確認だったりもありますからねぇ」
「公にできないような内容の依頼とかアリなんですかそれ?」
「公表……つまり依頼票に内容が張り出されないだけで、仲介請負の協会にはちゃんと依頼内容は事前に提示されますから。流石に犯罪なんかに使われたら困りますし、そこはちゃんと確認しています」

 ああ、ちゃんとそういう精査はされてるのね。
 異世界転生モノのお約束と言うか、ギルドで受けた仕事がトンデモな内容でトラブルに巻き込まれて~みたいな理不尽系は回避できるというわけだ。
 ああいうのって見てる分にはネタとしてアリだけど、自分が巻き込まれたらあまりに理不尽すぎて憤死しかねんだろ。俺なら間違いなくそんな仕事仲介したギルドにキレる。

「……ってあぁ、成程。そういった煩雑なやり取りが必要ないってのも含めて初心者用の依頼って事か」
「はい、そういう事です。ということで、まずこの依頼の遂行をよろしくお願いしますね」
「わかりました。ではやってみます」

 ギルド加入チュートリアル的なもんだと思って、ひとまず真面目にやってみよう。
 対象もそこまでヤベー奴じゃないっぽいし、ハイナ村の夜番で野犬追い払ったりとかも何度も経験してるし、おそらくなんとかなるだろう。
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