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二章

百五話 外の話Ⅰ

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「それでは、これで解散としましょう。次のイベントではよろしくおねがいします」

 21時終了予定の会議は、場が盛り上がった結果、気がつけば22時を回っていた。
 本鯖組の生放送後に合わせたという事情はわからないでもないが、ここまで伸びるのならならせめて会議は放送前に開いてほしかった。
 恐らく、この会議室を次に使う人が居なかったのだろうけど、誰も止めること無く話し合いが続いてしまったのだろう。
 今から帰宅しても間違いなく23時には間に合わない。
 キョウくんたちには悪いことをしたが、今夜の合流は諦めて、しっかり睡眠をとって朝方に宿舎の方で合流しよう。

「ああ、結城さんお疲れ様です」

 帰宅するため会議室を出たところで出くわしたのは、いつもは必ず顔を出していたのに今日は姿を見せていなかった田辺さんだった。

「お疲れ様です。今日は会議に出なかったんですね」
「ええ、私はシステムの責任者なので。今回のイベントでは新実装のシステムなどはないのでコミュニティチームがメインなんですよ」

 なるほど、言われてみればたしかにそうだ。
 アップデートが有るわけでもないので、田辺さんが関わる理由がないわこれ。

「ALPHAでの調子はどうですか? なにか不具合等は出ていませんか?」
「いえ、特に不具合といった感じのものは。ただ……」
「ただ?」
「意図したイベントが設定されているんじゃないんですよね? アレ」

 一応事前に説明は受けていたが念のために確認しておきたかったのよね、これ。

「ええ、我々が何かイベントを組むといったことはテストサーバでは行ってませんね。ネトゲ慣れした結城さんにであれば、NPC達のやり取りの中で自動生成されるイベント……とイメージしていただくとわかり易いかもしれません」
「だから……何でしょうけど、何というかこうボスを倒してスッキリ! 的な楽しみは中々ないですね。テストプレイなんだから仕方ないのかも知れないですけど」

 例えば、せっかく遭遇したボスが強すぎて、結局戦闘禁止ムードだったりとか!
 まぁ、城に向かう道中で対NPC戦とか、結構それらしいイベント事態はあったんだけどね。

「あははは、たしかにそれは。リアリティを追求した結果NPC間のやり取りもまた現実的なものが多くなってますからね。現実でも殺人事件なんてそうそう起きないでしょう?」
「まぁ、そうですよね」
「ただ、まぁ文明基準が違いますから、現実の日本よりも遥かに事件性の多い世界では有ると思いますよ」
「それはまぁ確かに。実際今も事件の真っ最中ですしね。ちょっとヤバすぎてあまり深くは関われてないですけど」

 あ、でも結構深くは関わってるかも?
 ボス戦がないだけで、話の内容からするに王様と謁見とか普通そう簡単にできるものでもないだろうし、そう考えると結構レアな体験してるのかも。

「お、早速なにか事件に関わってるんですか。幸先いい……んですかね? どんな事件に関わってるのか判らないので何とも言えないですけど」
「なにもないよりは刺激があって全然いいんですけどね。参加レベルが高すぎて、ボスを前にお預けって感じです」
「あぁ、なるほど。たしかにそれはスッキリしないかも知れませんね。ですが、テスターとして参加してすぐにそんな事件に遭遇するなんてなかなか無いですよ。何かと事件を引き寄せるキョウさんの恩恵かも知れませんね」
「それはあるかも!」

 今回のイベントの発端も、キョウくんが都へお呼ばれしたことから始まってるし。

 そう考えると、確かにゲーム的なプレイヤーが大活躍するイベントではないけれど、今あの街で起きてる事件、一般的なMMORPGであれば間違いなくメインシナリオレベルの大事件と言ってもいい。
 キョウくんが誘われた祭りと、NPC間の事件が合わさって起こったことなんだろうけど、そんな事件に居合わせる事ができたとか実はかなりラッキーだったのでは?
 田辺さんの言う通り、見方を変えれば、そんなイベントにテスター参加して早々に遭遇できるとか、かなり幸先の良いスタートなのかも知れない。
 

「ところで立浪さん……キョウさんとはうまく行ってますか?」
「ええ、まぁ今のところは仲良くやってます。ちょっと思うところがない事もないですけど」
「おや、なにかトラブルですか?」
「いえ、トラブルと言うかプレイスタイルの差というか……一番最初にキョウくんから説明は受けてたし、田辺さんからも彼の状況は伺っていますし、そこで文句をいうのは筋違いだとは思うんですけど」

 そう、これは筋違いな話だ。
 彼のプレイスタイルに合わせる事を条件に、彼との同行を認めてもらったのだから。

「プレイスタイルの差ですか……」
「彼がゲームが苦手で、クラフトとかに精を出すタイプであればまだ理解出来るんです。ですけど、彼はレベルで勝っている私なんかより遥かに強いプレイヤースキルを持っているのに、妙に臆病と言うか、必要以上に戦いを避けている気がするんですよね」

 公式イベントで見せたあの強さ、掲示板の方でもかなりの反響があったし、私の思い違いなんかじゃなく彼の強さは本物のはず。
 なのに、アレだけの力を持ちながらあそこまで慎重になる理由。

「私の筐体も、限定的にキョウくんのようにダメージ認識機能が拡張されているから、ダメージ表現のあの不快感は分かるつもりです。でも、攻撃を食らう事でプレイヤーまでもがダメージを受けるからこそ、バトルのリアリティが増す……それがこのゲームの最大の魅力なんじゃないかと思うんです」

 ダメージ数値だけが現れるディスプレイゲームと違う、そのダメージというデメリットが有るからこそ、必死でくらわないように対処する。
 HPとは別に、本体の受けるダメージによって判断力が鈍ったり、逆に研ぎ澄まされたりして戦いが面白くなるんじゃないの?
 それを彼にも気付いてほしい。
 恥ずかしいから本人には絶対に言わないけど私はオープニングイベントで見たキョウくんのあの強さに憧れたのだ。
 だからこそ、今すぐでなくていいから、彼とあのゲームでもっと一緒に戦いたい。

「ふむ……」

 私の偽らざる本音を伝えた田辺さんはそこで言葉を止めた。
 何かを考えているようだけど、私の発言から何か新しいシステムのアイデアでも思いついた……?

「プレイヤーのキョウさんと共に行動することを切望した理由、あの専用筐体を使いたがった理由は、彼と共に行動して彼が見ている強さの世界を自分も共有したいというあの言葉は、スタンスの差を感じたという今も変わっていませんか?」
「え? はい。さっきも言ったとおり彼とは仲良くやってるし、あのキャラ性能に頼らない強さの領域っていうのを見たいというのは一切変ってません」

 自分でも私の主張が筋違いなワガママだと思ってるし、それで彼と喧嘩したりしたことはまだ一度もない。
 ちょっと気持ちが先走って、戦いに突っ込みそうになることはあったけど、それをキョウくんに押し付けるような事を言ってはいないはず。

「なら……もしこの後時間があるようでしたら、彼が見ている世界の一端を体験できるとしたら、興味がありますか?」

 それは、そこらの悪魔のささやきよりも遥かに魅力的な提案だった。
 それがどういったものか知らないし、何故そんな提案を私に持ちかけてきたのかも解らない。
 今夜の合流はもう無理だと割り切っている。
 明日の合流に備えて早寝するつもりだったから特に用事もありはしない。
 ――なんて状況で、そんな提案を受ければ、私の返事なんて決まっている。

「はい、あります」
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