上 下
313 / 329
永遠の誓い

219.空正との邂逅

しおりを挟む
 空正との対面の日、蒼空と俺は酷く緊張していた。既に空正のことは数回遠目から見ていて、多分もう泣き出すことは無いだろうが、やはり感動を隠すことは不可能だろう。粗相をして空正に感づかれない様にと、震える手を重ね合った。


 お義父さまの車を認識して開かれた大門。俺たちが車から降りるが早いか、遠くからタタタタタと走り寄る音が聞こえ、息を切らして駆け寄ってきたのは空正本人だった。

「凛空おばさま!」

 その快活な様子に、目元が緩む。俺は蒼空の手を握り締め、滲む視界をなんとか保とうと踏ん張った。


 空正は大好きな凛空おばさまとの邂逅を待ちきれなかった様で、華奢なお義母さまに向かってタックルするかの様に笑顔で飛び込んできたのでぎょっとしたが、お義父さまが上手く支えている。お義母さまは笑顔で空正を抱きとめ、ニコニコ顔だった。

 空正もお義母さまに顔を擦り付けて、デレデレとしている。アルファの6歳だと20キロを超えているだろうか?もう既に大分重いだろうに。
 小さなお義母さまは物凄く孫が可愛い様で、重さを感じさせない軽い足取りでリビングまで空正を抱っこして運んでいた。

 空正が実の母の様にお義母さまに懐いているというのは話には聞いていたが、これほどまでとは思わなかった。
 男の子やアルファは得てして若い女性が好きでよく懐くものだが、童顔なお義母さまに好感を覚えているのだろうか。

 お義母さまも満更でもない様だ。これだけ空正を可愛がっているのなら、うっかり蒼空を妊娠させてしまった俺を詰れないな。


 空正はもうお義母さま以外視界に入っていないかの様な夢中ぶりだった。どうも空正がお義母さまの事を女性としてちやほやとしている気がして、見ていて座りが悪い。
 チラっとお義父さまの方を見たが、お義父さまはお義父さまで、目に入れても痛くない位孫を可愛いがっているらしい。特に気にしていない様だった。空正もアルファだったと大人たちが気が付く頃には取り返しがつかない事になっていないと良いが。


「空正。今日は、俺の息子も連れて来たんだ。蒼空だよ。」

 とお義母様が蒼空を紹介すると、空正の視線がやっと蒼空に向けられた。
 途端、空正は蒼空にくぎ付けとなり、全く動かなくなってしまった。

 ヤバい。何かに勘付いたのではと大人たちが全員氷像となる。


「きれい…。」

 空正が惚然としながら零した言葉を、その場の大人全員が拾った。

 今日の蒼空は確かに綺麗だった。やっと我が子に会って言葉が交わせるという内からあふれ出ている喜びのせいで、魅力が四倍増しだった。なんと、空正は蒼空に一目惚れしたらしかった。

 子と引き剥がされてからと言うもの倚門いもんの望だった蒼空は、自分の息子から向けられた純粋な賛辞に欣喜雀躍している。


「ふふふ。ありがとう。空正くんもカッコいいよ。」
 とニッコニコだ。

 一方の俺は、自分の息子だと解っていても、蒼空の事を異性として見ている空正につい苦虫をかみつぶしたような顔になってしまう。

 空正はお義母さまの膝から下り、両手を上げて蒼空に抱っこをせがんだ。蒼空は感動の面持ちで「可愛い~。」と零しながら空正を抱き上げている。

 あざとい…あざといぞ。6歳はもう抱っこの歳ではないだろうに。蒼空とお義母さまがアルファの自分とは異性であるという事をもう充分認識できる歳だ。自分の歳を最大限に利用している。確かに賢い子の様だ。

 蒼空のツガイが俺だとちゃんと認識しているのか。蒼空の腕の中から俺を流し見たその顔には、優越感が浮かんでいた。目尻の黒子が6歳児とは思えない程の色気を醸し出している。

 うぬぬぬぬ。悔しいが可愛いぞ。うぬぬぬぬ。


「こらこら。空正。お客様には座って貰わないと。こちらへどうぞ。」

 自分の養い子のあざとさに気が付いているのか否か。吉崎夫人は俺たちにも椅子を勧めたが、空正が蒼空の膝の上から下りる事は無かった。蒼空の膝の上で我が物顔でおやつを食べている。


 事情を知っている空正の乳母さんが空正を膝に乗せたままの俺達の写真を撮ってくれた。向けられたレンズに、空正がピースをする。
 空正のアルバムに、俺たちの写真が追加される。そう考えただけで、涙を堪えるのが困難になった。


「このお兄さんたちね、今度スロベニアで結婚式をするそうよ。」

「え…結婚式…?お兄ちゃん、ボクと結婚してくれるの?」

 どうやら空正は本当に蒼空のことを好きになっている様だ。蒼空はそれを微笑ましい「将来ママと結婚する」だと思ったみたいで、ニコニコと応じている。

「ふふふふ。可愛いね。空正くんも将来僕と正吾さんみたいに、大好きだと思える人にきっと出会えるよ。そしたら、僕に紹介してね。」

「えーーボク、お兄ちゃんも凛空おばさまもすっごく可愛くて大好きなのに!なんで二人とも僕以外の人と結婚しちゃうの?」

 空正が蒼空を抱きしめながら言う。

「ふふふふ。嬉しいなぁ。ありがとう。僕も空正くんの事、凄く可愛くて大好きだと思ってるよ。
 ねえ、正吾さん、空正くんが可愛い過ぎるよ。どうしよう。」

 蒼空が空正に頬ずりをしている。

「そうだね。可愛いね。
 蒼空は俺のものだからやらないが、空正くん。将来は蒼空みたいに芯が強くて心優しい美人を見つけて結婚するんだぞ。」

 俺もどさくさに紛れて空正の肩を軽く叩いてみた。こんな状況だが、久しぶりに触れた我が子に愛おしさが募る。


「むぅ…せっかくもっともっと一緒に居たい人を見つけたのに。
 父さんが、将来この人とずっと一緒に居たいと思った人を見つけて、結婚すると良いって教えてくれたのに。
 ボク、凛空おばさまとも蒼空お兄ちゃんともずっと一緒に居たいのに…。」


 その言葉を聞き、大人たちがまたピシリと音をたてて氷像になってしまった。その願いを叶えることは出来なくはないが、大人たちでも正解が解らない。
 でも、とても嬉しい言葉だという事だけは確かだった。蒼空は無言で空正をぎゅっと抱きしめていた。


「空正くん、今度うちに遊びに来てね。」

 俺はそう言うのがやっとで、吉崎夫婦も頷いてくれたから、きっとこのお誘いは達成できるだろう。


「空正、まだスロベニア行った事ないでしょう?だから、このお兄ちゃんたちの結婚式に行ってみない?」

 そう切り出してくれた吉崎夫人の優しさに、まさか、俺たちの結婚式に空正も?と俺と蒼空はつい顔を見合わせてしまった。


 空正は考える間も無く、
「行く!行く~~!やったぁ~~久しぶりのヨーロッパだぁ♪」
 と返事をしていた。

「久しぶりじゃないでしょ?半年前に行ったばかりじゃない。」

「えーー半年って随分前の事だよ。」

 6歳児の半年前は人生の十二分の一も前だ。それは確かに久しぶりの範疇だろう。


「空正は今国旗に嵌っていてね。ヨーロッパの国を回るのがお気に入りなのよ。スロベニアはまだ行った事が無いから、楽しみね。
 その後南下して、イタリアとクロアチアの近くまで行くんでしょう?凛空ちゃんから聞いているわ。全部空正がまだ行ったことが無い国だわ。楽しみね。」

 それは、その後のハネムーン、もとい家族旅行に空正も着いてきてくれるという事だろうか。

 空正と家族旅行が出来る。なんと贅沢なことなのだろうか。

 蒼空にプロポーズした時には想像もしていなかった事態に俺たちは揃って浮足立った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺の番が変態で狂愛過ぎる

moca
BL
御曹司鬼畜ドS‪なα × 容姿平凡なツンデレ無意識ドMΩの鬼畜狂愛甘々調教オメガバースストーリー!! ほぼエロです!!気をつけてください!! ※鬼畜・お漏らし・SM・首絞め・緊縛・拘束・寸止め・尿道責め・あなる責め・玩具・浣腸・スカ表現…等有かも!! ※オメガバース作品です!苦手な方ご注意下さい⚠️ 初執筆なので、誤字脱字が多々だったり、色々話がおかしかったりと変かもしれません(><)温かい目で見守ってください◀

捨てられΩはどう生きる?

枝浬菰
BL
*あらすじ likeの意味ではなくloveの意味で璃亜武のことが好き、でも僕はβだからなにも叶わないしなにも生まれない。 そんな中転校生できたΩの瑠衣は可愛くていい匂いで璃亜武にはお似合いでいいなっていつも傍にいた。 僕ができることはそう【傍に一緒にいるだけ】それだけでいい。いつまでも璃亜武の傍にいたい。 散らばっていく僕の大切なもの……。 オメガバース作品です。 続きは本編にて………… -------------*-----------------------*-----------------------------*--------------------*---------- ★作品を書こうと思ったきっかけ 最近の妄想で一番よかったのを書いていこうと思ったからです。 好きかも、続きが気になるかもと思ったら【お気に入り】一票をお願いします。 ※性描写多く含みます。 ※文章の無断転載禁止。 ※オメガバース ※暴力・虐待表現あり ○21日で6ヶ月目 お気に入り208ありがとうございます❤ この度は長らく 【捨てられΩはどう生きる?】をご愛読頂きましてありがとうございました。予定では余命宣告編を書く予定だったのですが文学フリマ東京39の準備に慌ただしく日がすぎこちらの更新が遅くなってしまうことを懸念して本日で最終回という形にさせていただきました(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”続き、スピンオフは文学フリマ東京39又京都9にて販売しますのでよければお立ち寄りください。 2024/7/21記載 ○YouTub○にて朗読会公開してます! 聞きに来てください~~ ○表紙作成しました~意味ありげな感じに仕上がってよかった ○文学フリマ東京39と文学フリマ京都9に参加します~お近くの方はぜひ✨

恋のキューピットは歪な愛に招かれる

春於
BL
〈あらすじ〉 ベータの美坂秀斗は、アルファである両親と親友が運命の番に出会った瞬間を目の当たりにしたことで心に深い傷を負った。 それも親友の相手は自分を慕ってくれていた後輩だったこともあり、それからは二人から逃げ、自分の心の傷から目を逸らすように生きてきた。 そして三十路になった今、このまま誰とも恋をせずに死ぬのだろうと思っていたところにかつての親友と遭遇してしまう。 〈キャラクター設定〉 美坂(松雪) 秀斗 ・ベータ ・30歳 ・会社員(総合商社勤務) ・物静かで穏やか ・仲良くなるまで時間がかかるが、心を許すと依存気味になる ・自分に自信がなく、消極的 ・アルファ×アルファの政略結婚をした両親の元に生まれた一人っ子 ・両親が目の前で運命の番を見つけ、自分を捨てたことがトラウマになっている 養父と正式に養子縁組を結ぶまでは松雪姓だった ・行方をくらますために一時期留学していたのもあり、語学が堪能 二見 蒼 ・アルファ ・30歳 ・御曹司(二見不動産) ・明るくて面倒見が良い ・一途 ・独占欲が強い ・中学3年生のときに不登校気味で1人でいる秀斗を気遣って接しているうちに好きになっていく ・元々家業を継ぐために学んでいたために優秀だったが、秀斗を迎え入れるために誰からも文句を言われぬように会社を繁栄させようと邁進してる ・日向のことは家族としての好意を持っており、光希のこともちゃんと愛している ・運命の番(日向)に出会ったときは本能によって心が惹かれるのを感じたが、秀斗の姿がないのに気づくと同時に日向に向けていた熱はすぐさま消え去った 二見(筒井) 日向 ・オメガ ・28歳 ・フリーランスのSE(今は育児休業中) ・人懐っこくて甘え上手 ・猪突猛進なところがある ・感情豊かで少し気分の浮き沈みが激しい ・高校一年生のときに困っている自分に声をかけてくれた秀斗に一目惚れし、絶対に秀斗と結婚すると決めていた ・秀斗を迎え入れるために早めに子どもをつくろうと蒼と相談していたため、会社には勤めずにフリーランスとして仕事をしている ・蒼のことは家族としての好意を持っており、光希のこともちゃんと愛している ・運命の番(蒼)に出会ったときは本能によって心が惹かれるのを感じたが、秀斗の姿がないのに気づいた瞬間に絶望をして一時期病んでた ※他サイトにも掲載しています  ビーボーイ創作BL大賞3に応募していた作品です

【完結済】墜ちた将校、恩讐に啼く

譚月遊生季
BL
これは、異なる歴史を辿った世界の物語。 「魔術」の発展により、動植物の変異が相次いだ世界。変異種である「魔獣」を討伐するため、各地では専門の軍隊が組織されるようになった。 そんな中、魔獣討伐軍の一般志願兵であるジャコモ・ドラートは、美貌の将校フェルディナンド・ダリネーラに恋をし、劣情と苛立ちを持て余していた。 フェルディナンドはジャコモとの過去の因縁を忘れたばかりか、高慢かつ嫌味な態度で新兵たちを蔑み、嘲笑する。 フェルディナンドへの恋心ゆえに憎悪を拗らせていくジャコモだったが、ある日、フェルディナンドは作戦の失敗により触手型の「魔獣」に襲われ、その身体を弄ばれてしまう。 フェルディナンドを救出し、弱みを握ったジャコモは、彼を脅すことで支配しようと目論んだ。 殺伐とした淫らな関係が続く中、明かされる真実は彼らをどう変えていくのか──? 愛憎を拗らせた一兵卒×高慢なエリート将校の殺伐下克上BL。 ※暴力描写、流血表現多め。 ※倫理的にまずい表現もそれなりにありますが、作品の雰囲気を鑑みてのことです。ご了承ください。 ※受けが男ふたなり化しています。触手による孕ませや出産シーンもありますので、苦手な方はご注意ください。 ※虐待および毒親描写、近親姦描写があります。ご注意ください。 ※素敵な表紙イラストはミドリさんに描いていただきました! ミドリさん、ありがとうございます!

槇村焔
BL
□■□あらすじ■□■ 僕の好きな人は、まるで狼みたいな人だった。 彼の名前は、館野仁。 彼は僕の身体のことを知っていても、偏見なく平等に扱ってくれる誰にでも公平で切実な人だった。 そんな彼は、僕の姉・まりんと付き合っていた。 ある日、まりんは仁さんを振って、新しい男の元へと出て行ってしまった。 捨てられて、自暴自棄になった仁さんは、身体を壊し入院してしまった。 このままでは駄目だと思った僕は、仁さんの家に乗り込み…。 Bloveさんのお題で、妊娠がありまして、謎のお題消化したい病に陥り、執筆しました。 今回は攻めは堅物。 受けはふたなりです。 妊娠要素有。苦手な方はご注意を 攻めの本命以外の絡みあり 50話完結。 完結しているので、完結まで毎日更新 ※当初は包容攻め予定でしたがあまり包容攻めっぽさはないかもしれません。 溺愛はしているはず。 堅物×一途ふたなり。

【本編完結】おじ様好きオメガは後輩アルファの視線に気が付かない

きよひ
BL
番犬系後輩アルファ(24)×おじさま好き鈍感オメガ(26)のリーマンボーイズラブコメ。 オメガ性の藤ヶ谷陸は、父親くらい年上のおじさまアルファが大好きな営業マン。 だが番のいるアルファに憧れを抱くせいで、取引先とトラブルになることも。 その度に、仕事の後輩でありアルファである杉野誠二郎に「自覚が足りない」と叱られてしまう。 本人は至って真面目に恋愛したいだけだというのに。 藤ヶ谷と杉野がバーで飲んでいたある夜、理想のおじさまアルファが藤ヶ谷に声を掛けてきた。 何故か警戒している杉野が幾度も水を差すが、舞い上がった藤ヶ谷はどんどんおじさまに惚れ込んでいく。 そんな中、藤ヶ谷にヒートがやってきて……。 不器用な2人が一進一退しながら両思いになりたい物語。 ※なかなかくっつきませんが、ハピエンです。 ※R18シーンは、挿入有りの話のみ★をつけます。挿入無しは⭐︎です。 ●第11回BL小説大賞応募作品です。応援・感想よろしくお願いします!! *オメガバースとは* 男女性以外にアルファ、オメガ、ベータという第二性がある世界 ・オメガには発情期(ヒート)があり、甘いフェロモンを出してアルファをラット(発情期)にさせる。 ・ヒート中、アルファとの性交行いながらオメガがうなじ(首周り)を噛まれることで番関係が成立する。 ・番関係にあるオメガのヒートは番のアルファ以外には分からなくなる。 ・アルファは何人でも番を持つ事が可能だが、オメガは1人しか番えない。 ・アルファから番解消することは出来るが、オメガからは基本的には解消することは出来ない。

俺の専属精神科医の治療法は身体!?

ちろる
BL
ゲイである八神 春は恋人の御浜彰成に浮気され 不眠と食欲不振の症状に悩み精神科を尋ねる。 現れた先生は見目麗しく自分もゲイだと告白され──。 表紙画はミカスケ様のフリーイラストを 拝借させて頂いております。

落ちこぼれ元錬金術師の禁忌

かかし
BL
小さな町の町役場のしがない役人をしているシングルファザーのミリには、幾つかの秘密があった。 それはかつて錬金術師と呼ばれる存在だったこと、しかし手先が不器用で落ちこぼれ以下の存在だったこと。 たった一つの錬金術だけを成功させていたが、その成功させた錬金術のこと。 そして、連れている息子の正体。 これらはミリにとって重罪そのものであり、それでいて、ミリの人生の総てであった。 腹黒いエリート美形ゴリマッチョ騎士×不器用不憫そばかすガリ平凡 ほんのり脇CP(付き合ってない)の要素ありますので苦手な方はご注意を。 Xで呟いたものが元ネタなのですが、書けば書く程コレジャナイ感。 男性妊娠は無いです。 2024/9/15 完結しました!♡やエール、ブクマにコメント本当にありがとうございました!

処理中です...