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永遠の誓い

215.確認

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 もう蒼空を迎えに行く時間になってしまったので、猫ちゃんセットはまたの機会にと考えて、蒼空を迎えに行く。

 家に帰ってから、今日街で偶然空正に会った事、空正が老夫婦に愛されてすくすくと育ち、元気だった事を蒼空に話すと、蒼空は泣いて喜んだ。その日は空正が健やかに育っている事を喜びながら、二人で抱きしめ合って寝た。

 早ければすぐ翌日にでも連絡があるのではと期待して待っていたが、数日経っても連絡は無かった。俺の方は老夫婦の連絡先を知らない。聞いても当然教えてはくれなかった。
 きっと、俺たちが無遠慮に家に押しかけるのではないかと警戒したのだろう。


 その週末、蒼空の実家にて。

 まずは蒼空に、お義父様の大学時代仲が良かった友人の事をそれとなく聞いて貰う事にした。すると出て来た、吉崎という苗字。有名な大企業の創業者一族の様だ。

 一応華族の流れは汲むものの、それほど伝統を重んじない柏木家とは違い、厳格な貴族教育を施された親友の吉崎氏。大学時代スポーツをすることを許されていたお義父様とは違い、吉崎氏は唯一の跡取りだったため、運動して何かあったら大変だからと大切に大切に育てられ、逆に少し身体が弱いのだそうだ。見るからに御曹司のお坊ちゃまという友人だったらしい。

「他に親友と呼べるほど仲が良い人は居ないなぁ。」
 と宮藤の事には一切触れずに話すお義父様。

 俺が会ったあの男性の穏やかな立ち振る舞いが思い起こされる。多分その人だろう。
 後は探偵に辿って貰えばきっと探し当てられる。

 もう逃げられる恐れはないと思った俺は、お義父様の大学時代の親友が俺たちの一人息子の空正を引き取っている可能性が高い事をお義父様に伝えた。

 お義母様の方は、蒼空が妊娠して子供を産んでいたという事すら知らなかったらしい。

「なんだそれは!!地下オメガが出産を禁じられていると解っていて、蒼空を孕ませたのか!!」
 と激高し、お義母様はもうすぐ還暦とは思えない身のこなしで、猫の様にしなやかにぴょんと机の上に乗り上げ、座っていた俺の胸元を掴んだ。それに関しては、全ての責任は俺にあるので、何も言い返さずただ『申し訳ございません』と俺は頭を下げるしかなかった。

 が、蒼空は自分の父が知っていた様な顔をしている事にかなり憤怒していた。

「今はそんな話をしている場合じゃないから!お父さん、知ってたの?
 空正が、僕の息子が自分の親友の家に居るって!!」

 お義父様の方はやはり前から知っていたらしい。先ほど唐突に大学時代の友人の話をされ、とうとう蒼空に所在が知られてしまった事を悟ったとの事だった。

「どうして教えてくれなかったの!!僕ずっと空正の事を心配していたのに!!」

 蒼空が本気で怒っている。蒼空が怒っているところを見たのは、俺が勝手に自首をして法廷で蒼空に会った時以来かもしれない。
 その蒼空の般若の様な剣幕を見て、お義母様はとりあえず蒼空の話を聞くことにしたらしい。相変わらず俺を睨んでいるが、席に戻り座り直した。

「蒼空がそんなに気にしていたのなら、悪かったね。この通り、出産した事を凛空にも話して居なかったから。
 もしかしたら蒼空にとっては忘れたい過去なのかもしれないと思ってしまって。」

「それは…母さんに話したら余計な心配をかけると思ったからで…。」

「そんな大事なことを話してくれていなかっただなんて。俺は寂しいよ。」

 お義母さまはそっぽを向いて大変ご立腹の様だ。

「ごめん。それを話したら、結婚を許可してくれないと思って…。」

「当たり前だ!!こんな無計画に俺の大事な蒼空を孕ませて傷つけた男に、蒼空をやれるか!」

 お義母様が机を両手で叩いて俺を睨みつけている。これでまた結婚の反対をされてしまうのは怖い…あぁ。空正の誕生日を待たずにプロポーズ直後に入籍しておけば良かった。


「母さん、ごめん。でも、今は父さんの話を聞きたいんだ。その話は後にしてくれる?
 じゃあ、父さんはずっと知ってたって事でいいんだね?」

「それは…済まない。知っていた。

 だがやっと二人で暮らせる様になったのだから、二人きりの時間を楽しむことも必要だと思ったんだ。
 子育ては一旦中止が出来ないから、一度親になったら一生親のままだろう?

 蒼空はまだ若い。二人はその…普通の恋愛が出来なかったのだから。普通の恋人同士みたいに、二人きりの時間が必要だと思っていたんだ。せっかく再会出来たのだから、辛い想い出に気を取られずに、今だけの二人きりの時間を思いっきり楽しんで欲しいと思ってしまって…。」

「それとこれは別でしょ!
 そうだよ。父さんが言う様に人は一度親になったら、一生親のまんまなんだよ!途中で辞めようと思って辞められるものじゃない!例え子どもを失っても、養子に出しても、一生親のままなんだよ!
 僕が、僕たちが我が子の事を、一瞬たりとも忘れるわけないじゃないか!

 正吾さんが僕に隠れてこそこそと探している事を知ってたから、僕は黙ってその結果を待ってただけで、僕だってずっと空正の行方は気になっていたんだ。
 酷いよ。知ってたんなら、一言言ってくれても良かったのに!僕の事を子供扱いしないでよ!僕だってもう、親なんだ!好きで空正と離れたわけじゃないんだ!」

 蒼空はいまだかつてない剣幕で怒っている。


「それは…本当に悪かったと思っているよ。」

「もし僕の事を考えていたんなら、少なくとも、父さんが大人だと認めている正吾さんに一言言う位、出来ただろうに…。」

 蒼空は顔を覆って泣いてしまった。
 そうか、俺が人を雇って空正の事を探していた事は知っていたのか。蒼空は本当に俺の事をよく見ている。今は家を空ける事も無いし、いつ家探しやさがししているんだろうか。俺の事は何でも知っているな。

 俺は蒼空の背中を撫でながら、蒼空の手を強く握って励ました。

「でも君たちは、空正をどうしたいんだい?連れて帰って自分の息子に戻したい?
 親だと名乗り出るだけで、そのまま吉崎家で扶養するのは構わない?
 それとも、親だとは名乗り出ずに会ってお話ししたい?」

 俺達はアイコンタクトを取ると、蒼空が口を開いた。

「空正はもうすぐ6歳だし、多分もう物心がつく頃だと思う。正吾さんから、今は吉崎さんご夫婦を空正は実の親だと思っていると聞いた。
 まずは、遠くからでもいいから空正の様子を見たいかな。正吾さんは見て安心したって言うけど、僕もこの目で見たい。

 もし見ても安心出来なかったら、先の事はそれから考えるよ。」

 お義父様は蒼空の目を見てしっかりと頷き、俺たちに約束をしてくれた。

「解った。私の方からも、吉崎に一言言っておくよ。」


 それから更に数日後。一日千秋の想いで待つ俺たちの元に、男性から連絡があった。

『子を想う親の気持ちは解る。だから一度会って決めたいと妻が言っている。まずは妻と会ってくれないか。』

 それは俺も納得が出来る答えだった。

 ―――――――――
 ちなみに櫂(お義父様)は、凛空りくが運命の番との子供を流産した事を知っています。凛空が自分であっけらかんとした様子で櫂に話したからなのですが、凛空の蒼空への愛情の深さを知っている櫂は、無理をして感情に蓋をしていないか心配していました。
 凛空に子供を失ったことを思い起こさせて、表面上は一見治ったかに見える凛空の病状が悪化するのも怖かった様です。
 親子三人で過ごしていた接近禁止命令中の4年間、柏木家では櫂と蒼空そらそれぞれの思惑で、子供という単語が話題に挙がらなかったようです。
 蛇足ですが、凛空りくのセックス依存症は快癒していません。夜は相変わらず櫂と二人で激しい夜を過ごしています。まだ日中に再発する事もありますが、蒼空そらが来ている時には気がまぎれるので問題は無い様です。
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