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その後の二人

197.地下室で2

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 夜勤に慣れているから大丈夫……だと思っていたのに、朝起きたらあの男と同じベッドの上だった。
 少し身体が重い。なにか薬でも使われたか。不覚だった。コイツの目的は家の中のものではなく、最初から俺だったのか。


 しかもそれを覗き込んでワーワー言っている人影が一つと、その少し遠くに頬を膨らませて仏頂面をしている我最愛が一人。
 我最愛は、こんな訳の分からない朝でも可愛いな。あぁ~この拗ねている表情は初めて見たかもしれない。可愛いな。ちょっとした現実逃避にそんなことを考えてみる。

 
 俺の隣でグースカ寝ていた男がやっと起きた。
「ねぇ!!ホントどういう神経してんの??マジでその貞操概念、どうにかならない??」

「んあ?ごめんごめん。だって昨日は蒼空が煽るもんだからさ。我慢できなくなっちゃって。
 つい。ね。
 良かったよ。さすが肉体労働で鍛えた本物のアルファの男根は別格だったな。」

 後半は俺へ向けた言葉らしい。今日は昨日のチンピラみたいな態度からは一変、俺に向けて妖艶な顔で微笑み、口角と下唇を舌で舐めて濡らしている。
 そうか、このワーワー叫んでいる若い男がコイツ――勇樹の本命なんだな。そして、普段はこんな感じで貴公子然とした皮を被っているのか。これまた拗らせた面倒なヤツだな。


「はぁ?いけシャーシャーと何言ってんの??最っ低!!今度こそ慰謝料ぶんだくって逃げてやる」

 横で痴話げんかをしている二人は放っておいて、俺は何故か乱れてしまっている自分の服を素早く直し、蒼空の元に駆け寄った。

「蒼空、あの…。」

「大丈夫です。別に何も言わなくても、僕は正吾さんの事信じてるんで。
 佐々木さんと噂になった時も、誰がなんと言っても、僕、正吾さんの事信じてましたから。」

 これは相当怒っている。自分の脇の甘さに苦笑する。


「そっそうか。
 別に身体もベトベトしていないし、そう言う事は無かったと思う。
 どうしてこんな状況になったのかは解らないけど、とにかく心配させて済まなかった。」

 俺は蒼空に頭を下げ、抱き寄せておはようのキスをしようとした。いつもの日課だ。
 しかし、蒼空は俺の手をすり抜けてしまった。

「別に…。僕は心配なんてこれっぽっちもしてませんよ。」

 蒼空はそっぽを向いてしまっていて、これは絶対に怒っている…。
 まだ蒼空のご両親とのことも解決していないのに、次から次へと…本当に勘弁してくれよ。



「その浮気癖を直してくれないと!もう本当に出ていくからね!!!」

 バカップルは相変わらずありもしない事で喧嘩をしている。なるほどね。定期的にこうやって恋人の嫉妬を煽っているわけか。若い男の方も何も言わないで出ていけばいいのに、脅しているつもりになっているところがなんとも…まぁ、なんとも…。……バカップルだな。

 しかし、この若い男、アルファでも無ければオメガという訳でもなさそうだ。――ベータか。
 相変わらずこの親子は訳の分からない“良い”ご趣味をお持ちだ。


「そろそろ人の家で痴話げんかをするのは止めて貰おうか。俺とコイツとの間には何もなかった。全てコイツの自作自演だ。
 そしてここは俺と蒼空の寝室だ。部外者は歓迎しない。とりあえず、リビングに移動しようか。」

「はぁ??そんなのどうやって解るんだよ。どうせあんた眠らされてたんだろ?コイツがよくやる手なんだよ。」

 ベータ男が噛みついてくる。よくやる手とはなんとも聞き逃せない単語だが、そうなのか。

「解った。あんたも何時までもソイツに振り回されてたら可哀そうだから、説明してやる。

 分泌液が出るオメガとアルファは違う。ここは地下室だから匂いが籠るはずだ。この部屋に、アナルセックスした後の特有の匂いがするか?君と蒼空が入って来たときそういう匂いがしたか?
 それに俺の身体も綺麗だ。ローションを使ったなら拭き取ったくらいじゃそうはならない。コンドームを使っていても、毛などに匂いは若干残るからな。

 そこに転がっている使用済みコンドームもコイツの自作自演だろう。コイツにも立派なものが付いてるはずだからな。」

「そう…なのか??」

 ベータの男は疑い深い目で“恋人”を見ている。
 男は白旗を揚げた様だ。両手の平を上に向けて、首をすぼめた。

「ふぅ、流石先輩ですね。おっしゃる通りです。
 蒼空、心配させちゃってごめんね。蒼空のツガイとは何も無かったから。」

「別にそんなこと解り切ってるし。わざわざ言わなくても大丈夫だし。」


 蒼空はきっとまだ怒っている。あとで誠心誠意謝って、機嫌をとろう。
 誤解が解けてベータ男も納得したところで、一先ず一行は、リビングに場所を移した。
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