上 下
242 / 329
蒼空の日々

170.助け(オメガ視点)

しおりを挟む
 そんな時、性犯罪の被害者に対する過度な取材はセカンドレイプだという社説が大手新聞社から発表されたらしい。週刊誌の方にも何か圧力があったのか、僕に張り付いていた記者たちは渋々と引き上げていった。


 やっと外に出られる。蒼空は安堵した。
 地下オメガという立場から解放されて、せっかく外に出られる自由を謳歌していた。それなのに記者たちのせいでまたマンションの一室に閉じ込められるなんて、本当にストレスだった。


 しかも、誰かが勝手にクラファンで寄付を募り、久我くんへの慰謝料が支払えない僕の為に久我くんへの慰謝料を用意してくれたらしい。余った分は僕の生活費というか、僕に対しての慰問料にしてくれという事らしい。

 う~ん。今回予想外の事で注目を浴びてしまって、僕は複雑な気持ちだ。

 しかもお金なんて…有難迷惑もたいがいにしてほしい。僕は別に、誰かに助けて貰わなきゃ生きていけない様な、か弱いオメガじゃない。
 色々あって結局正吾さんに渡せていない保障金5千万円もある。
 地下に居た時と違って、これからは僕も働ける。正吾さんと肩を並べて一緒に働いて一緒に借金を返していこうと思っていた。もう養われるだけの僕じゃないから。だから、お金なんて別に要らないんだけど。

 でも、これは一応善意ではあるし、既に集められてしまったそれを一人一人の寄付者に返すわけにもいかないだろう。返金の時にクラファン手数料を負担するのもなんか癪だ。蒼空は諦めて渋々と受け取る事にした。その金額、なんと3億円超。

 こんな大金、久我くんに慰謝料としてあげると言っても、絶対に受け取ってくれないよ。
 向こうだって社長令息でお金持ちだし。この手切れ金の様な慰謝料は、きっと久我くんの矜持を傷つける。


 そうこうしているうちに、久我くんの方に婚約の打診が来た。久我君のお父さんの会社よりも何倍も大きな会社からだ。そのお宅にはオメガの社長令息と社長令嬢が居るらしい。

 なんでもその会社の社長が、多勢に無勢でもオメガを身を挺して守る久我くんの心意気に惚れて、家の娘でも息子でもどっちでも好きな方と結婚してくれという事らしい。

 それは良かった。僕には正吾さんが居るから、久我くんがもし他の人と結婚してくれるなら本当に助かる。


 久我君のお父さんは大喜びでその婚約に応じ、僕に心底惚れていたらしい久我くんは反発した。でも結婚は自分だけの事ではない。
 会社の将来を考えると番が居る傷物オメガを略奪婚をするよりも、大きな会社の社長令息や令嬢を伴侶に貰った方が良いということは言わずもがなだった。そして、僕の心が自分に無い事も本人が一番良く解っていた。

 僕は既に受け取ってしまったからと、クラファンから受け取ったお金を慰謝料として久我くんに払おうとしたが、それは当然拒否された。

 向こうの言い分としては、警察の警告を無視して勝手に現場に入った久我くんが100%悪いからだという事だった。でもそれじゃあ僕の気持ちが済まない。


 結局、久我くんの新しい婚約者に誤解されない様にと、久我くんが自力で歩ける様になるまではお手伝いさんを雇う事となり、その代金だけを僕が支払う事になった。


 こうして、僕と久我くんとの同居は解消され、僕は解放された。


 僕はまたオメガシェルターに戻った。2026年3月の事だった。
 これで予定通り久我くんの父の会社を辞めて、4月からは内定していた小さな信用金庫に第二新卒として入社出来る。

 良かった。これでまた平々凡々とした日常を送れる。
 本当に良かった。そう思っていた僕に、予想外の所からサプライズがあった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染から離れたい。

June
BL
アルファの朔に俺はとってただの幼馴染であって、それ以上もそれ以下でもない。 だけどベータの俺にとって朔は幼馴染で、それ以上に大切な存在だと、そう気づいてしまったんだ。 βの谷口優希がある日Ωになってしまった。幼馴染でいられないとそう思った優希は幼馴染のα、伊賀崎朔から離れようとする。 誤字脱字あるかも。 最後らへんグダグダ。下手だ。 ちんぷんかんぷんかも。 パッと思いつき設定でさっと書いたから・・・ すいません。

【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜

有島
BL
◆社会人+ドシリアス+ヒューマンドラマなアラサー社会人同士のリアル現代ドラマ風BL(MensLove)  甘いハーフのような顔で社内1のナンバーワン営業の美形、佐藤甘冶(さとうかんじ/31)と、純国産和風塩顔の開発部に所属する汐見潮(しおみうしお/33)は同じ会社の異なる部署に在籍している。  ある時をきっかけに【佐藤=砂糖】と【汐見=塩】のコンビ名を頂き、仲の良い同僚として、親友として交流しているが、社内一の独身美形モテ男・佐藤は汐見に長く片想いをしていた。  しかし、その汐見が一昨年、結婚してしまう。  佐藤は断ち切れない想いを胸に秘めたまま、ただの同僚として汐見と一緒にいられる道を選んだが、その矢先、汐見の妻に絡んだとある事件が起きて…… ※諸々は『表紙+注意書き』をご覧ください<(_ _)>

記憶の欠片

藍白
BL
囚われたまま生きている。記憶の欠片が、夢か過去かわからない思いを運んでくるから、囚われてしまう。そんな啓介は、運命の番に出会う。 過去に縛られた自分を直視したくなくて目を背ける啓介だが、宗弥の想いが伝わるとき、忘れたい記憶の欠片が消えてく。希望が込められた記憶の欠片が生まれるのだから。 輪廻転生。オメガバース。 フジョッシーさん、夏の絵師様アンソロに書いたお話です。 kindleに掲載していた短編になります。今まで掲載していた本文は削除し、kindleに掲載していたものを掲載し直しました。 残酷・暴力・オメガバース描写あります。苦手な方は注意して下さい。 フジョさんの、夏の絵師さんアンソロで書いたお話です。 表紙は 紅さん@xdkzw48

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子

葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。 幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。 一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。 やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。 ※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】人形と皇子

かずえ
BL
ずっと戦争状態にあった帝国と皇国の最後の戦いの日、帝国の戦闘人形が一体、重症を負って皇国の皇子に拾われた。 戦うことしか教えられていなかった戦闘人形が、人としての名前を貰い、人として扱われて、皇子と幸せに暮らすお話。   性表現がある話には * マークを付けています。苦手な方は飛ばしてください。 第11回BL小説大賞で奨励賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。

伸ばしたこの手を掴むのは〜愛されない俺は番の道具〜

にゃーつ
BL
大きなお屋敷の蔵の中。 そこが俺の全て。 聞こえてくる子供の声、楽しそうな家族の音。 そんな音を聞きながら、今日も一日中をこのベッドの上で過ごすんだろう。 11年前、進路の決まっていなかった俺はこの柊家本家の長男である柊結弦さんから縁談の話が来た。由緒正しい家からの縁談に驚いたが、俺が18年を過ごした児童養護施設ひまわり園への寄付の話もあったので高校卒業してすぐに柊さんの家へと足を踏み入れた。 だが実際は縁談なんて話は嘘で、不妊の奥さんの代わりに子どもを産むためにΩである俺が連れてこられたのだった。 逃げないように番契約をされ、3人の子供を産んだ俺は番欠乏で1人で起き上がることもできなくなっていた。そんなある日、見たこともない人が蔵を訪ねてきた。 彼は、柊さんの弟だという。俺をここから救い出したいとそう言ってくれたが俺は・・・・・・

処理中です...