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蒼空の日々

169.爪を見せた鷹(オメガ視点)

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 僕を送迎してくれる人当人が怪我をしてしまったから、シェルターからの通いにする訳にもいかない。僕は久我くんの家に泊りがけでお世話をする事となった。
 会社や外はバリアフリーが行き届いているから、日中は車いすでも全く問題なく仕事も生活も出来る。逆に僕の助けは要らない。筋肉は偉大だ。アルファのマッチョの力があれば、大抵の事は解決できる。
 でも朝と夜の支度は車いすに慣れないうちは、やはり一人では難しい。マッチョの力で出来ない事も無いだろうが、もう一人居て必要な物を持ってきてくれたりした方が圧倒的に楽だろう。


 久我くんの方は、好きな人が毎日家に居てくれるとあって大喜びだったが、蒼空の方は居た堪れない。

 何故なら、前はひた隠しにされていたであろう自分への好意を久我くんからひしひしと感じるからだ。前までは綺麗に隠していたはずだが、もう隠すのは止めたらしい。
 能ある鷹は爪を隠すというが、能力がある分隠し方すらも本当に上手すぎて、僕は自分へのそういった意味の好意には全く気が付いていなかった。気の置けない友人だと思っていたのに、若干裏切られた気分だった。


 そう。だよね。
 例え男同士だとしても、アルファとオメガの間の友情は成立しないんだよね。

 早く車いす外れないかな~なんて不謹慎な事を考えてしまっている自分に更に嫌気がさす。自分のせいで将来有望な久我くんに障害を負わせてしまったのに。なんて薄情な事を考えているんだ自分は。と、自己嫌悪だ。



 一方で、一応経済界の大物だった男の逮捕と蒼空の救出は、センセーショナルなスクープとして、日本中を駆け巡った。
 片やそこそこ大きな企業グループの会長。片や、親の借金返済の為に地下オークションに売られた悲劇の社長令息。

 しかも、蒼空の方は最近の週刊誌の報道によれば、買われた先で大恋愛をしてツガイにまでなった飼い主のアルファに他のオメガが出来て、捨てられてしまった悲劇のヒロインでもある。
 その悲劇に、車で誘拐されて湾岸の倉庫で性的暴行を受けたという一節が新たに追加され、もう蒼空に対する同情はとどまる事を知らない。

 佐々木と林の中の家に引っ込んだが、すぐ同居を解消した事で、やっと火が収まりかけて2週間経った所に、更に燃料を投下してしまって、もう大変。

 しかも性的暴行事件の際に必死になって助けに来てくれたアルファの家に今僕は転がり込んでいる。更に事件のせいで車いす生活となってしまった彼のお世話を献身的にしているとなれば、もうそれを取り上げない手はないだろう。


 パパラッチに追われるのは、今度は僕の方だった。

 久我君は車いすで自由も効かないし、僕も新入社員だったからまだ主戦力では無かった。二人は療養と称して出社を免除された。一応在宅勤務という事になっているが、新入社員の僕らが先輩社員無しで出来る在宅の仕事なんて、高が知れている。
 実質的に僕たちは記者たちによって、久我君の一人暮らしの家に閉じ込められる事になってしまった。僕は一方的にギクシャクとした毎日を過ごす事を余儀なくされた。

 一人暮らしと言っても社長令息だから一応2LDKで、部屋は二つある。僕たちは別々の部屋に寝ている。でも、マンション自体は1LDKの部屋もある為、週刊誌はそこには触れず、『単身用がメインのマンション』との誤解を与える報道だった。


 蒼空は辟易としていた。今度は僕の方が正吾さんに誤解されるんじゃないだろうか。

 でも了承してしまった手前、久我君が車いすを使わないで生活できる様になるまで、無責任に放り出してオメガシェルターに戻る訳にもいかない。

 久我君の方はというと、全く週刊誌の報道を気にしていない様だった。「部屋も余ってるし、蒼空さんが作ってくれる食事は美味しいし、もうずっとここに住んでくれてもいいです!むしろ住んで下さい!!」と言われてしまった。

 全く、どうしたらいいんだろう。
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