【完結】もう一度君に蒼空を見せたい〜奴隷オークションで高額な処女地下オメガを買ってしまったので借金返済に追われています〜

急変

108．複雑な想い（櫂 視点）

　＜櫂視点＞

　その日、俺と哲也は並んでテレビを見ていた。夜のニュースでは、連日連夜モールス摘発の映像が流れている。

　正直俺は、モールスが摘発されて良かったとは全く思えなかった。だから毎日複雑な想いでこのニュースを見ている。


　確かにモールスが摘発されれば、今モールスの手元に居て、これから売りに出される予定だった地下オメガは救われるだろう。
　二ヶ月に一回の開催だから、多くても20人位か？それくらいのオメガは救われただろう。だが、それだけだ。


　その代わりに犠牲になる地下オメガの数が余りにも多い。

　モールスの摘発なんて、まともな正義感を持っているやつならまずやらないだろう悪手だ。


　何故なら、モールスから既に地下オメガを購入済みの今正まさに地下オメガを飼育している富裕層は、販売元が摘発されたらどうすると思う？


　当然、自分への飛び火を恐れて今飼っている地下オメガを処分する。
　当たり前だろ？警察に一番見つかっちゃいけない証拠が、現に生存している地下オメガだ。


　それ以外の証拠が見つかったって、優秀な弁護士を雇えばワンチャン無罪にできるかもしれない。

　例えば、万が一捜査関係者に渡った顧客リストに名前が載っていたとしよう。でも、富裕層はどうせ落札も代理人に落札させている。出金だって別人名義だろう。地下室付きの家だって自分名義じゃ買っていない。
　そんな状況なら、名簿に載っているのは自分の商売敵が金を払って仕組んだネタで、自分は無関係だと言い逃れが出来るかもしれない。
　自分の代わりに自首する身代わりを仕立てる事も出来るかもしれない。

　そのオークションの場にいた監視カメラの映像が見つかったとしても、そういうオークションの存在を知って、証拠集めの為に行きました。今はまだ証拠が充分揃っていなかったので提出出来ていなかっただけで、自分も摘発しようと思って動いていましたと言い逃れする事すらできるかもしれない。

　何故なら、人身売買罪は買った者と売った者、後は仲介した者だけが罰せられる法律となっている。
　つまり、オークション開催の場に居たとしても、まだ地下オメガを買っていないのならば罪は無いのだ。

　そりゃあ、出入りしていた事自体がスキャンダルにはなるだろうが、警察や検事に法的に罪を問われる謂れはない。


　生きているオメガという最大の証拠さえ無ければ、弁護士の力量次第で言い逃れできる可能性がまだ充分にあるのだ。


　でも、地下オメガ本人が自分の事を飼い主だと証言したら、もうどうにもならない。

　だからどうするか。簡単だ。自分の顔を知っている地下オメガを処分する。その一択だろう。

　例えどんなにその地下オメガを可愛がっていたとしても、皆自分の身が一番かわいいのだから。


　長年築き上げてきたキャリアや、一族で先祖代々継承している職業や会社がある人間ならば、尚の事それを失う訳にはいかない。事は自分ひとりの問題ではないからだ。
　自分が失脚する事で路頭に迷う人間が多すぎる。迷惑をかける人間が多すぎる。失うものが多すぎる。


　だから、どんなに愛着があったとしても政治的判断で地下オメガを処分する。それ位冷徹な判断が出来なければ為政者足り得ないし、経営者足り得ない。立場がある人間にとっては当たり前の事だ。


　処分する暇も無かった初期の頃ならまだしも、一月ひとつき経った今警察に捕まっているのは、オメガを処分する事が出来ない程心底地下オメガに惚れてしまっている者か、処分する事すら思いつかなかった馬鹿か、もしくは裏社会とのつながりがなく綺麗に処分する手が無かったが為に、処分しても尚証拠を残してしまった素人だけだ。