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分かたれた道

128.夜這い

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 その日の深夜。俺は寝ていたのだが、ふと目を覚ますと、そこには煽情的な姿の佐々木が居て、俺の息子を舐めしゃぶっていた。
 しかも、発情期の濃厚なフェロモンを身に纏っている。


「お願い。身体が熱いんだ。発情期の間だけでいいから、抱いてくれないか。」


 そう言いながら、服を脱ぎ捨てて全裸で迫ってくる佐々木に、俺はどうして良いのか解らず、とっさに飛び起きて佐々木を引き剥がし、とにかく地下室の檻の外へ逃げた。


 確かに佐々木には昼食すら食べられなかった金欠の時に毎週奢って貰っていた恩もある。蒼空との愚痴を延々と聞いて貰っていた恩もある。今回の件で佐々木のキャリアをめちゃくちゃにしてしまったという罪悪感もある。

 でも、蒼空を裏切る事だけは絶対にしたくなかった。


 佐々木は発情期なのに俺に拒絶されたことが意外だったのか、最初はぽかんとしていたが、俺が鉄格子の扉をガチっと閉めて自動施錠の音が聞こえると、全裸のままで俺に詰め寄った。


「どうして!お願い!抱いて!!安藤が好きなんだ!!発情期で苦しいんだ!!抱いてくれよ!!」


「ごめん。佐々木。蒼空を裏切りたくないんだ。
 本当に、すまない。」

 そうだったのか…佐々木はやはり、俺のことが好きだったのか。キャリアをめちゃくちゃにしても尚怒らなかった事で、さすがの俺も薄々そう感じていた。だが、気づいたのが遅すぎた。もう記者たちに外堀埋められていて、佐々木を突き放せる時期では無かった。


「なんで!もう日本中の人が俺たちは出来てると思ってるのに、どうして抱いてくれないんだよ!!

 あと4年半だぞ?
 これだけ週刊誌で騒がれて、その人がまだお前の事待っているとでも思ってるのかよ!

 現実をみろよ!!

 相手はまだ若いんだ。これから幾らでもいい出会いがある!!
 でも俺は?俺にはもうお前以外居ないんだよ!!!
 俺ももう40だ。お前に夢中になっているうちに、ずるずるともうこんな歳になっちまった。こんな薹がたったオメガを貰ってくれる人なんてもう居ないだろ?

 俺は、ずっとお前が好きだったんだ!お願いだ!お願いだから、発情期の間だけでもいいから、俺を抱いてくれ!

 俺に一生の想い出をくれ!!

 できれば子供も欲しい。
 そしたらお前にはもう迷惑かけないから、遠くでひっそり育てるから、情けをかけてくれよ!!!頼むよ!!」


 佐々木の悲痛な叫びは、俺の心を締め付ける。身近にこんなに長い間自分を、自分だけを想ってくれていたオメガが居たのに、俺は道を踏み誤ったんだな。とんだ間抜けだ。
 でも、蒼空と出会えた事は後悔していない。佐々木、すまない。本当に済まない。もし蒼空と出会う前だったら、その可能性もあったかもしれない。でも、今はもう、そんな事は微塵も考えられない。どうか解ってくれ。


「佐々木、ごめん。
俺、お前の事オメガだと意識してなかったんだ。」


「あぁ知ってる。お前は週刊誌に書かれるまで、オメガと同居している事を意識してなかったんだろ?知ってる。

 でも今は?俺が番が居ないオメガだって今はちゃんと解ってるよな?そんな俺と同居をしてるってことは、周りからどう見られるのかも解ってるよな?

 結婚してくれとは言わない。でも、発情期に抱いてくれる位いいだろ?

 日本中の人間が、俺たちは出来てると思ってるんだ。
 お前がここで俺を抱いても抱かなくても世間はみんなお前と俺がこういう事してるって思ってる!

 お前も寂しいだろ?あと4年半だぞ?一時の気の迷いでもいい。寂しさを紛らわすだけでもいい!現実逃避でもなんでもいいから、お願いだから抱いて!俺に想い出をくれよ!

 もし接近禁止期間が明けて、お前とそのお相手が上手く行くんなら、もう二度とお前らの前には顔を見せないって誓うから!!
 一生のお願いだ!!」


 そう言っている間にも、佐々木の発情期のフェロモンが正吾の理性を蝕む。

 正吾は、何とか理性を総動員して檻の前に正座して、深く頭を下げた。
 寝る前に飲んでいた抑制剤がまだ辛うじて効いている。


「佐々木。本当にすまない。
 そこのチェストに抑制剤がたくさん入ってるから。食料も、もしかしたらちょっと賞味期限が切れているかもしれないけど、食べれない事は無いと思うから。

 それでなんとか凌いでくれ。本当に申し訳ない。」


 そして、佐々木の方を見ずに、振り切る様にして一気に階段を駆け上り、地上の蓋をバタンと大きな音を立てて締めた。
 元々が地下オメガを監禁する為に作られた地下室だ。そうなると、もう佐々木は追ってこれないと知っていた。


 俺は、佐々木の発情期のフェロモンに当てられて、もう理性が限界だった。土下座しながらなんとか自分の腕を噛み、その痛みで理性を保っていただけだ。


 地上に出たら、すぐにアルファの抑制剤をとにかく大量に出して口に入れた。経口の抑制剤は、蒼空を抱き潰してしまわない様に、寝室に行く前に良く使ってたから保管場所が身体に染みついている。

 でも、普段使わないペン型の即効性の抑制剤の方はどこだったか場所を思い出すワンステップが必要で、今の俺にはそれをするだけの理性すら無かった。
 気を抜くと地下に引き戻して佐々木を抱いてしまいそうだった。


 俺は、そのままリビングで蒼空を想いながら沢山自慰をした。
 蒼空。蒼空。俺には蒼空だけだ。他の誰も要らないと何度も蒼空に約束した。

 例え蒼空が俺の傍に戻ってこなかったとしても、何故か蒼空が接近禁止命令を取り消してくれないにしても、この先一生涯絶対に他のオメガに手を出すわけにはいかなかった。
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