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暗転

97.ギクシャク2

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 本来カップルの仲直りに言葉なんて必要ない。肉体言語で会話するという方法もあるはずだ。
 だが、本当の好きな人の前ではヘタレにチェンジフォームしてしまう俺にはそれすらも出来なかった。

 最初は蒼空の全身の傷が治るのを待っていたから蒼空に手を出していなかっただけだったはずだが、蒼空の傷が治った後も俺は愛し合う事を再開させるタイミングが掴めなかった。


 いつもは慎重に隠されている俺のアルファ性の凶暴性が牙をむき、また蒼空を傷つけてしまうのではと怖かった。

 結局あれから一月以上経っている今でも、まだ蒼空と俺は身体を重ねられていない。


 だから俺は今日もガラス張りの浴室に貼った印刷用紙の隙間から蒼空を覗き見しながら、一生懸命に自慰をしている。無意識に蒼空を襲ってしまわない為だ。

 蒼空に疑われない入浴時間に留める為に、急がねばならない。おかげで肝心の入浴の方はカラスの行水だ。

 まるで振り出しに戻ったかの様だ。
 せっかくと一緒に暮らしているのに、なんてことだ!!


 セックスレスの問題なんて番なら発情期が来れば一発で解決するはずだった。ヘタレな俺はそれも待っていた。
 しかし本来三月に来るはずだった蒼空の発情期は、売春時に使用された発情促進剤で疑似発情期を迎えてしまったせいか三月には来なかった為、俺たちはスキンシップで仲直りするタイミングすらも失ってしまっているのである。




 それに蒼空を外の世界に出してあげられないという事は、二人の思い出や直近の話題は全て家の中の出来事に限られる。

 お金持ちのボンボンだった蒼空と一般家庭出身の俺は元々の育ちからして違った。
 その上、社会人経験も無く年も離れている蒼空とは元々共通の話題が少ないのだ。

 二人はもう一年も一緒に居るし、今まで半年以上も蜜月を楽しんできたから、二人の幼少期の頃の話や趣味の話はもうそれなりに話し終わってしまっていた。
 新しい話題と言っても、蒼空が見た恋愛ドラマの話位しか無いし、俺の方は当然仕事で見ていないから全くわからない。一緒に見ようと思っても、今の俺は蒼空と無言で並び座るという空気感に堪え切れない。


 いざ勇気を出して蒼空と何か話そうと思っても話題が全く無い。ギクシャクするなという方がおかしいだろう。
 せっかく番になれたというのに二人は今日も目を逸らして会話を続けている。なんとも情けない話である。

 俺の気まずさは当然蒼空にも伝わっており、二人のぎくしゃくとした関係は、双方から見ても明らかだった。



 最近俺は、平日は相変わらず仕事を理由に遅くに帰ってきて、土日は資材運びをしている。

 でも今までと違ってきたのは、金銭的に余裕が出来た為、俺が酒に逃げ、酒を飲んでから帰る事が増えたことだろう。ダメなアルファの典型だ。自分でも解っている。でもどうにもできない。


 俺はこのヘタレが!と自分を罵りながら酒に走り、夜毎損益管理課の課長の佐々木と飲みに行っては、好きな人が居るんだが何も出来ない自分はヘタレなんだ。しかもその人に対して酷い事をした人が居て、それに対する怒りを抑えられないとの愚痴を聞いて貰っている。
 佐々木も良い迷惑である。
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