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世界恐慌

83.陰謀と策略2

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 課題添削の内職の為にWi-fiが必要になるからと、最近は正吾が家に居ない時でも蒼空は日中を地上で過ごしていた。
 その正吾の不在を利用して蒼空は家中を探し回り、書斎に隠してあった書類からとうとう地下オークション組織の連絡先を探し出してしまったのである。

 そして課題添削の在宅ワーク用に正吾が貸し出してくれたインターネットが繋がるタブレットで、自分の身売りや貸出時の値段を地下オークション側に密かに打診していたのだ。

 正吾にアルファの怖さを”解らされた”時は相手が正吾でも怖かった。
 これがアルファに翻弄されるという事かと蒼空は身をもって知った。見ているだけと、実際に自分の身に降りかかってくるのとでは恐怖感が全然違ったのだ。
 だから、実際に売るかどうかの決心はまだついていなかったのだが、一先ず値段だけでも知りたいと蒼空は思ってしまったのである。


 最悪なのは、蒼空が経済苦から自分の売値をオークション組織に打診している事を、従業員を買収していた変態爺に知られてしまった事だった。それは変態爺に、そこに漬け入る隙があると自ら打ち明けてしまったに等しい。



 重点査定リストは、本来は虐待されているオメガの休息の為に設けられているリストだった。

 日本全国に散らばる何百人もの地下オメガに一人当たり二週間も時間をかけて査定なんてしていたら、全員が終わる頃には世界恐慌が終わってしまっているかもしれない。滞在費だって馬鹿にならないだろう。

 実際、通常の地下オメガの健康診断や担保価値の査定自体は半日もあれば終了するから日帰りとなっている。

 しかし虐待されているオメガはその限りではない。強制的に飼い主から引き離すことにより体中の怪我を治療し、傷が大体塞がるまでにかかる時間が大体二週間という事なのだ。


 査定額が借入金額を下回った場合に飼い主が新しい担保を入れるまで手元に帰さないというのも、地下オメガを大切にするようにというオークション側の精一杯の抵抗であった。
 これで何か価値があるものを担保に入れれば今まで以上に地下オメガを大事にするだろう。或いはもし地下オメガの事が別にどうでも良いのであれば、そのまま引き取りに来ないだろうからそのまま保護できると考えたのだ。


 このオメガ救済策を、今回は変態爺に逆に利用されてしまったのである。


 本来蒼空は、重点査定リストには入っていなかった。

 それは落札したオメガを大切にしたいという正吾の想いを支配人が知っていたことが一つ。それから、あの衰弱事件後の経過観察で、目覚めた蒼空に会った闇医者からも二人が互いを想い合っている事は報告がいっていた事がもう一つ。衰弱事件の件は行き違いによる不幸な事故だと支配人がきちんと内情を知っていた為、不問となっていたのだ。

 また、直近では不動産売買の買い手として、支配人と仲が良く、更に地下オークションのスポンサーでもある哲也が直接正吾に会って話をしている。
 それに加えて、蒼空の映像を見せると櫂が自分に甘えてくれるからと、哲也は結構な頻度で蒼空の様子を櫂に見せている。そんな哲也は正吾が本当に蒼空を大事に扱っている事を誰よりもよく知っている訳だ。


 しかし変態爺は子飼いの従業員を使い、人手不足の混乱に乗じて蒼空を重点査定リストに入れてしまった。


 不動産売買に同行したオークション側の担当者は、正吾が地下オメガの重点査定リストに載っているのを見て、てっきり正吾がオメガを虐待しているクズアルファだと勘違いしていたのだ。それでゴミを見るような目で正吾を見ていたのである。


 こうして正吾は、くれぐれも診察以外で蒼空に触れない様にとオーディション組織にキツく言い含めて、愛する蒼空を作業服を着た男達に引き渡した。
 蒼空はまた眠らされて洗濯機の箱に入れられて連れて行かれた。引っ越し直前のタイミングだったため、今回も何も疑う余地は無い完璧な偽装だった。


 しかしオークション組織で蒼空を待ち受けていたのは、その変態爺に買収されている職員のうちの一人だった。
 それが蒼空の不幸の始まりだった。
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