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世界恐慌

82.地下オメガの価値の査定

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 これは今回の不動産売買に関係なく、昨今の金融危機に伴って、全ての地下オメガに対して行っている事らしいのだが、担保としての地下オメガの価値の査定をし直さなければならないらしいのだ。

 もしその査定で、今回の不動産売買による収益を繰り上げ返済した後の残代金の2億4千万円の価値が蒼空くんに無ければ、すぐに別の担保を探して差し出すか、場合によっては貸しはがしをしなければならないと言われてしまった。なんとも恐ろしい査定だ。

 というのも、今回の世界恐慌に伴う金融危機で、それなりの顧客が支払いが出来なくなり、いざ担保として地下オメガを押収したところ、もうかなり衰弱していたり、食事制限や酷使、それから鞭の痕などの拷問の痕によって美貌が損なわれてしまっていたり、極端な例では四肢が欠損していたりした為、転売しても借金分の金額にならない例が相次いだらしい。

 それを防ぐために、全ての地下オメガに対しての査定を順次行っており、前回蒼空くんが飢餓衰弱事件を起こしてしまったせいで、正吾は重点的にその査定を受けなければならない事が既に決まっていたらしい。


 ちょうど住み替えというタイミングならば、引っ越し等で他人が家に入る期間にそれを行う事にするという。

 内容は、オークション側で一旦地下オメガを預かり、医師の診察や通常の健康診断の項目で隠れた疾病が無いか探し、今後の寿命や美貌の維持を確認し、オメガとしての機能に問題は無いかの検査をするというものだった。


 ずっと地下室で太陽の光を浴びていない蒼空くんの健康状態は常に懸念していたから、健康診断はしてほしい。
 だが、オメガとしての機能とはなんだ?もしや実際に誰かが試すのか?と怒気を孕んで聞き返した正吾を、地下オークションの従業員はどうどうとなだめた。

 それは婦人科の診療の様なものだから、そんなに気にしなくていいと言われても、俺が居ないところで医師と言えども他の男に蒼空を触らせたくない。
 ましてや、大事なところを見られるなんて、絶対に許可できない。


 正吾は当然の様に立ち合いを望んだが、多くの地下オメガを集めている為、実施場所も秘匿しており、立ち合いは難しいとの事だった。

 じゃあ自宅で婦人科検診だけ受けさせたいと言っても、超音波検査グローブなどの大きな機械を使用するから、精密機械でいちいち動かしたり地下に運び入れる事も難しいし、他の地下オメガも皆行っている事だから特別扱いは出来ないとのこと。


 正吾は拒否したかったが、これは義務だと言う。従わなくても良いが、その場合には、残代金の2億4千万円分の価値がある担保を何か差し出す必要があると言われてしまうと、もうどうしようもない。


 しかし、この検査を不動産売買のタイミングで行う事で、正吾にとっても良い効果があるという。


 通常繰り上げ返済をしてしまうと、当然だが返済時期は短くなるが、毎月の支払い利息が減るだけで、毎月の元本の返済額は変わらない。今回の例だと7年間も短くなる予定だったが、毎月の支払いで減るのは利息分の10万円のみだった。

 しかし、もし今回の地下オメガ査定で蒼空の健康や保存状態に問題がなく、蒼空に当初の返済予定だった2041年1月までの担保としての価値があると判断されれば、返済期間を現在と同じ2041年1月まで伸ばした元金均等返済のローンを再度組み直す形にも出来るらしい。

 そうすることで、月の返済額が伸びた月数の分だけ希釈されるので、毎月の返済額は更に10万円減って、68万円となる。
 アルファが全てのバイトを辞めたとしても、正吾の手取り給与の80万円で充分生活できる金額となる。


 手元に予備費として200万円くらいは残した方が良いから、不動産売買収益を全額返済に充てる事は出来ないなと正吾は思っていたが、もし月々のローン返済額がトータルで20万円も減るならば、貯金は自分がバイトで稼いだお金で再度すればよいし、この先ずっとボーナスが出なくても問題はなくなるから、手元にお金を取っておく必要もなくなる。

 もうこの先一生返済に怯える必要はない。こんなに良い話は無いだろう。
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