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初めての朝
25.鉄格子のジレンマ
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正吾は朝早くに目が覚めてしまった。
早く俺のオメガに会いたいと気が急いて、ついつい早く起きてしまったのだ。
監視カメラのモニターを見ると、蒼空くんはまだ寝ている様だ。
蒼空くんに早く会いたいと逸る心を押さえつけて、なんとか身支度を行った。朝ご飯は温かいものを食べさせてあげたいから、ソーセージと目玉焼きとパンを焼く。
しかし、彼は待てども暮らせどもなかなか起きなかった。
モニターを1分おきに見ていると言っても過言ではない程に正吾はそわそわしていたが、地下には窓が無いので、時間の感覚が解らないのかもしれない。
これは、電気を付けに行った方が良いのでは?と思った頃、そういえば点灯時間を設定できるシーリングライトだったことを思い出した。
そこは高級品にして良かった。グッジョブ俺だ。
説明書はどこだっただろうか。
明日からは朝7時に点灯する様に設定しよう。
確か曜日ごとに設定できるから、平日は6時に設定して、朝は一緒に朝食を食べてから会社に行きたいな。なんて自分勝手な事を考えてみる。
時刻はもう10時。面接の時間を14時に設定しているので、出来ればそろそろ朝食を食べて、蒼空くんの服を買いに行きたい。今はパジャマ以外地下に服が一枚も無いから、一応ワイシャツとズボン位は持っていこう。七部丈のズボンなら長さはちょうど良いかな。
ワイシャツにしたのは完全に男としてのエゴだ。俺の服が着たいかは解らないが、パジャマを着続けるよりは良いかもしれない。パジャマだと若干心許ないかもしれないからな。
シーリングライトの説明書と服、それから温め直した朝食を持って、正吾は地下に降りた。
蓋を開けてすぐに一か所。階段を下り終わって、鉄格子を開ける前に一か所。鉄格子を開けた後にも一か所。お盆が載せられる大きさの台を設置している。
これはオプションで付けて本当に良かった。
お盆を一旦置いて、扉の開け閉めが出来る。いい買い物だった。
なんて思いながら、鉄格子の前に来た。
階段を一歩一歩下がる毎に、蒼空くんの甘いフェロモンの香りが濃くなっていく。
そうか、地下だと換気が余り良くないから、香りが籠るのか。
この香りは困る。慣れないうちに沢山吸い込むと、自分を制御できなくなってしまうかもしれない。
正吾は一度地上に戻って、アルファ用の抑制剤を飲んだ。
念には念をいれておかないと。心を許すまでは待つと言った昨日の今日で襲い掛かってしまったら、さすがに一気に信用を無くすだろう。
地下へ続く階段の電気は自動点灯だ。
地下室内は足元の常夜灯のみが点灯していた。
この常夜灯は壁にはめ込んであり、光度センサーで自動で電源がON/OFFするが、電源を切ることは出来ない。
地下が真っ暗闇になると、中の様子が伺い知れなくなるからだ。
万が一、首元の鎖をつけ忘れた際に、オメガが鉄格子の前に陣取っていて、開けた瞬間逃げ出てきてしまわない様にという事だろう。
この幾十もの安全策のおかげで、地下オメガが何十年間も世に知られずに存在出来ているのだろう。金持ちのリスク管理には頭が下がる。
この鉄格子を見ると若干気が滅入る。
大切にしたいのに、ここから外には出してあげられないのが申し訳ない。
しかし一方で、この鉄格子があるからこそ、彼を俺だけのものに出来るという薄暗い喜びもあって、自分の心に戸惑う。
アルファの本能として、番を自分だけのものにして周りから隠したいというものがある。ベータ家庭育ちで、母親も別に家に篭っておらず、バリバリパートに出ていたのを見ていた自分は、比較的オメガが外に出て働くのにも理解があるのだと思っていた。
少なくとも、理解がある夫のふりをしたいとは思っていた。
実際、元婚約者を海外駐在時に帯同しなかったのも彼のキャリアを邪魔したくなかったからだ。
そして、結婚して番になったとしても、彼が働きたいと言うのは解っていたので、専業主夫になってくれとは終ぞ言い出せなかった。
今なら解る。それは理想の自分であって、本当の自分では無かった事を。
本当の自分は、人一倍自分だけの番に憧れていたし、番は誰にも見せずに隠したいと思っていた。
薄い壁を隔てた先に他のアルファが居ると考えるだけで嫌だった。郊外の一軒家に閉じ込めたいと思っていた。
きっと、俺はもともと独占欲が強かったんだろう。それを、表に出さない事が美徳だと理性で解っていただけで。
そんな''理解ある''先進的なアルファが、アルファの本能を剥き出しにして、地下にオメガを囲う日が来るなんて…人生は本当に解らないものだな。
と、この鉄格子を見るだけで、これまた何度もした感慨に浸ってしまう。
早く俺のオメガに会いたいと気が急いて、ついつい早く起きてしまったのだ。
監視カメラのモニターを見ると、蒼空くんはまだ寝ている様だ。
蒼空くんに早く会いたいと逸る心を押さえつけて、なんとか身支度を行った。朝ご飯は温かいものを食べさせてあげたいから、ソーセージと目玉焼きとパンを焼く。
しかし、彼は待てども暮らせどもなかなか起きなかった。
モニターを1分おきに見ていると言っても過言ではない程に正吾はそわそわしていたが、地下には窓が無いので、時間の感覚が解らないのかもしれない。
これは、電気を付けに行った方が良いのでは?と思った頃、そういえば点灯時間を設定できるシーリングライトだったことを思い出した。
そこは高級品にして良かった。グッジョブ俺だ。
説明書はどこだっただろうか。
明日からは朝7時に点灯する様に設定しよう。
確か曜日ごとに設定できるから、平日は6時に設定して、朝は一緒に朝食を食べてから会社に行きたいな。なんて自分勝手な事を考えてみる。
時刻はもう10時。面接の時間を14時に設定しているので、出来ればそろそろ朝食を食べて、蒼空くんの服を買いに行きたい。今はパジャマ以外地下に服が一枚も無いから、一応ワイシャツとズボン位は持っていこう。七部丈のズボンなら長さはちょうど良いかな。
ワイシャツにしたのは完全に男としてのエゴだ。俺の服が着たいかは解らないが、パジャマを着続けるよりは良いかもしれない。パジャマだと若干心許ないかもしれないからな。
シーリングライトの説明書と服、それから温め直した朝食を持って、正吾は地下に降りた。
蓋を開けてすぐに一か所。階段を下り終わって、鉄格子を開ける前に一か所。鉄格子を開けた後にも一か所。お盆が載せられる大きさの台を設置している。
これはオプションで付けて本当に良かった。
お盆を一旦置いて、扉の開け閉めが出来る。いい買い物だった。
なんて思いながら、鉄格子の前に来た。
階段を一歩一歩下がる毎に、蒼空くんの甘いフェロモンの香りが濃くなっていく。
そうか、地下だと換気が余り良くないから、香りが籠るのか。
この香りは困る。慣れないうちに沢山吸い込むと、自分を制御できなくなってしまうかもしれない。
正吾は一度地上に戻って、アルファ用の抑制剤を飲んだ。
念には念をいれておかないと。心を許すまでは待つと言った昨日の今日で襲い掛かってしまったら、さすがに一気に信用を無くすだろう。
地下へ続く階段の電気は自動点灯だ。
地下室内は足元の常夜灯のみが点灯していた。
この常夜灯は壁にはめ込んであり、光度センサーで自動で電源がON/OFFするが、電源を切ることは出来ない。
地下が真っ暗闇になると、中の様子が伺い知れなくなるからだ。
万が一、首元の鎖をつけ忘れた際に、オメガが鉄格子の前に陣取っていて、開けた瞬間逃げ出てきてしまわない様にという事だろう。
この幾十もの安全策のおかげで、地下オメガが何十年間も世に知られずに存在出来ているのだろう。金持ちのリスク管理には頭が下がる。
この鉄格子を見ると若干気が滅入る。
大切にしたいのに、ここから外には出してあげられないのが申し訳ない。
しかし一方で、この鉄格子があるからこそ、彼を俺だけのものに出来るという薄暗い喜びもあって、自分の心に戸惑う。
アルファの本能として、番を自分だけのものにして周りから隠したいというものがある。ベータ家庭育ちで、母親も別に家に篭っておらず、バリバリパートに出ていたのを見ていた自分は、比較的オメガが外に出て働くのにも理解があるのだと思っていた。
少なくとも、理解がある夫のふりをしたいとは思っていた。
実際、元婚約者を海外駐在時に帯同しなかったのも彼のキャリアを邪魔したくなかったからだ。
そして、結婚して番になったとしても、彼が働きたいと言うのは解っていたので、専業主夫になってくれとは終ぞ言い出せなかった。
今なら解る。それは理想の自分であって、本当の自分では無かった事を。
本当の自分は、人一倍自分だけの番に憧れていたし、番は誰にも見せずに隠したいと思っていた。
薄い壁を隔てた先に他のアルファが居ると考えるだけで嫌だった。郊外の一軒家に閉じ込めたいと思っていた。
きっと、俺はもともと独占欲が強かったんだろう。それを、表に出さない事が美徳だと理性で解っていただけで。
そんな''理解ある''先進的なアルファが、アルファの本能を剥き出しにして、地下にオメガを囲う日が来るなんて…人生は本当に解らないものだな。
と、この鉄格子を見るだけで、これまた何度もした感慨に浸ってしまう。
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