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婚約破棄

18.監禁用住居の建築

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 既に設計が完了している上物うわものの設計図に、地下室を追加するだけの設計はあっという間にできた。


 さすが地下オメガを閉じ込める地下室を造り慣れている建設会社だ。
 きっといくつかフォーマットがあるのだろう。


 地層を調べるボーイング調査を再度行ったが、むしろ追加の作業はそれだけで、元婚約者が切望した一階のウォークスルーシュークローゼットの更に中にあるクローゼットの下。衣類収納ケースで隠ぺいできる様な位置に、床下収納風の蓋つきの階段を追加しただけ。たったそれだけで、その他の地上の設計は一切変えることなく、あっさりと地下室だけが追加された。

 一週間もかからない迅速な仕事だったとだけ伝えよう。




 そして年が明けた一月。地鎮祭を行い、着工開始。

 この家が着工する時は、もっと新婚生活への希望に満ち溢れたものになると思っていた。
 それが、こんな後ろめたい秘密を抱えての着工。

 隣には、共に居るはずだった人が居ない。一生を添い遂げる予定だった人が。


 建設期間中に親が見に来ると面倒だから、親には着工を知らせなかった。
 完工し、家財道具を運び入れて、地下室へ行く床下収納風の階段を隠ぺいしてから知らせる予定だ。

 地下室の存在は、例え親でも知られてはいけない。
 そういう規約だ。


 もし、家族の誰かに地下室の存在がバレたなら、地下オメガは買わない。
 もしかしたら、いっそそうなった方が、道を踏み外さずに済んで良いかもしれないとさえ思っている。


 運に任せて、自分の決断の責任を極力負わない様にしているんだな。
 とまた冷静な自分が分析している。




 地盤工事が終わり、一番最初に作るのは借囲いだ。

 一般的に一軒家の地盤工事の際には囲いは必要ない。
 しかし今回は、ツガイとなる地下オメガを一生監禁しておく為の地下室の建設を近隣に悟られない為に、目隠しを立てる必要がある。

 そんな新居の姿が、人に一生隠さなければならない秘密を抱えた自分と重なって見えた。




 翌年2023年1月末完工。


 この建設会社は裏会社と繋がっているのだろう。
 ワーカーは住み込みの外国人が多かった様に思う。

 守秘義務は大丈夫なんだろうか。
 何かあった際にはすぐ本国に帰すか、家族が日本に居なければ事故に見せかけて処分をしやすいのか、或いは彼らももしかして奴隷なのか、借金漬けなのか。
 と考えたところで、裏社会の闇を見た気がして、これ以上深くは考えてはいけない気がした。


 一般的な建設会社は年末年始に休むことが多いが、外国人部隊は文字通り盆も暮れも無く作業をしてくれた。地下室がある家としては、建設期間一年というのはかなり早い様に思う。


 建設期間の短さは、もしかしたら地下オメガを購入するにあたっての心変わりを恐れているのも多分にあるのだろうか。



 落成式に立ち会った時、俺を満たしたのは完工の喜びではなく、これで自分だけのオメガを迎えに行けるという不思議な高揚感だった。

 建設期間中も事故も何もなく、ここまでトントン拍子に進んでいる。
 この家の用途は、誰にも疑われていない。

 となれば、これは天の采配かもしれないななんて、俺は相変わらずの責任転嫁をしていた。




 その年の2月にあった祖母の三回忌では、両親と祖夫母の思い出の地で、ご先祖様に顔向けできない事をしようとしている孫をお許しくださいと必死に懺悔した。

 もちろん両親への新築披露も済ませた。

 念のため合鍵は実家に一つ置いておくが、事前の連絡無く急には絶対に来ない様にキツく言いつけてある。今は婚活をしていて、オメガを連れ込んでいるかもしれないからと言って。

 平日は両親も仕事やパート、習い事で忙しいだろうし、ちゃんとデリカシーがあって約束は守る人達だ。
 問題は無いだろう。




 こうして、2月24日。あの地下オークションの、敢えてこの言葉を使おう:の夜を迎えた。
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