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 翌朝。
 宝物庫に戻された九曜は、生ける彫像として全裸のまま立ち尽くしていた。
 九曜は微動だにせず、思考をめぐらせる。
 凌雲山からの脱出する方法について。
 幻以によると、今回、孔雀の助けは望めないとのことだった。
 なぜなら、翼弦は事前に孔雀と取引をしたとはいえ、孔雀の弟子の九曜と幻以の恋愛を成就させるために、孔雀から不本意な労役を課せられた。孔雀には負い目があるということだ。
 神に等しい存在の翼弦は、元来気まぐれな性格だ。
 気分次第で、一度一緒にさせて祝福したはずの二人を簡単に引き離せる。幻以から九曜を取り上げてしまえる存在なのだ。
 よって、凌雲山から抜け出すには、九曜と幻以の二人が知恵を絞らなければならない。
 翼弦が凌雲山にましましている時は、山全体が彼の力に満ちていて、監視の目は網の目のようにはりめぐらされている。脱出は不可能に近い。 
 脱出の機会があるとすれば、翼弦が不在の時だ。
 翼弦は月に一度、仙人の会合のために山から下りる。
 翼弦の力が山から消失した時が機会だ。
 その時、宝物庫の外にかしましい声が近づいてきた。女官たちが掃除に訪れる時間だ。
 扉が開いて、数人が入室する気配がしたかと思うと、宝物庫のカーテンと窓が開け放たれた。
 光の中に現れた九曜の彫像に、女官たちが一斉に九曜に注目する。
 不躾な視線から身を隠す術がなく、九曜はひたすら屈辱に耐えた。
「さすがは、翼弦様から宝物として選ばれただけのことはあるわ」
 九曜の見事な裸身をひとしきり眺めた後、女官たちは作業に移り、他愛ない話を繰り広げる。
 新入りの下男、木龍という男について。
「木龍さんて、いい人よね」
「力持ちで、ちょっとした頼み事にも嫌な顔一つせずに快く応じてくれるし」
「おまけに顔もいいしね。今度声をかけてみようかな」
「抜け駆けはゆるさないわよ」
 女官たちの話を聞いた九曜は、にわかに心がざわめき始めた。
 木龍、こと幻以が、凌雲山で女性たちから熱い眼差しを注がれている。
 しかし、幻以は木龍に姿を変えているとはいえ、目鼻立ちや背格好など、特に魅力が増したわけではない。
 おそらく、接し方の問題だ。
(幻以の奴、親切が過ぎるんじゃないのか? そんなことでは、女人を寄せつけてしまうぞ……まさか、私の動きが封じ込められている間にあいつ、羽を伸ばしているんじゃないだろうな……)
 話に華を咲かせるその脇で、九曜の憤りは増す。
 思えば幻以は、昔から用事を言いわけにしては仙洞の外で女遊びにふけっていた。
(私だけでは不満なのか?)
 九曜は今すぐにでも幻以に問い質したいという思いに駆られた。



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