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水神殿への帰還
8-2 ハーレン領主の三女様
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ついさっき2日目の晩の野営地に到着したところだ。そう、例のぼったくり村のある所だ。
当然俺は行く気はないが、フェイは村に行きたそうにしている。
暫く放って置いたのだが、ソシアさんとサーシャさんが見かねてフェイを遊びに連れて行ってくれることになった。
「兄様、お土産です! 美味しそうなので買ってきました」
見ると嬉しそうにトウモロコシの焼いたものを2本持っている。夕飯前だと言うのに本当に困った娘だ。
「フェイ、夕飯前だがちゃんと食べられるのか?」
「はい、これは別腹です!」
「どこでそんな余計な言葉覚えたんだ?」
後ろでソシアさんがリスのようにトウモロコシをかじっている。犯人はお前か……。
オークの串焼きとかならちょっと怒ったかもだが、食べた事のない物だったのでまぁいいだろう。
俺はフェイが遊んでいる間に皆の夕飯の準備だ。
焼きトウモロコシは俺も好きなので、ちゃんとフェイにお礼を言って頂きましたよ。
本日の夕飯のメニュー
・水牛のサーロインステーキ
・生野菜のサラダ
・コンソメスープ
・パンもしくは米飯
・チョコとバニラのアイス
「リョウマ君、これ赤字だよね? 俺の出してる日当より確実に良い物使ってるよね?」
「昨日も言いましたが、全部『灼熱の戦姫』のメンバーと待機中に狩って来たものですので、末端価格の事は気にしないで食ってください」
「リョウマ君がいいなら俺としてはむしろ大感謝なんだけどね。いやー今日のご飯も凄く美味しいよ!」
またもやガラさんがエールを出してきた。それ売り物じゃないのかよって思ったが、本人は大はしゃぎでマチルダさんたちと飲んでいる。
まぁ、美人揃いの娘たちとお酒を飲めるだけでも本来お金が発生するような事案なのだ。
エールを振るまってご機嫌なのも分かるような気もする。
「メリル、今日から魔法の練習をするけど、頑張れる体力は残ってるか? 一応お風呂に入ってマッサージをやりながらの指導にする。その方が魔力の流れが解るからね」
「うん! リョウマお兄ちゃん、私、頑張る! サリエお姉ちゃんがリョウマお兄ちゃんに少し習っただけで凄く成長できたって言ってたよ。リョウマお兄ちゃんに教えてもらえるのは凄い事なんだって。だから私も頑張るね」
「ナシルさんも一緒に教えますね。素質自体はあるはずですので、オークぐらいは魔法で倒せるようになるはずです」
「私もご一緒してよろしいのですか? ありがとうございます」
「ソシアも来るか? 水系の指導だからソシアも役に立つはずだぞ」
「勿論行くわよ! 来るなって言っても行くからね!」
「いや、来るなって言った時は来るんじゃないよ!」
「あの、魔法の指導なら私もご一緒したいです!」
「私もお願いします!」
「コリンさんもサーシャさんも良いですけど、水系の指導がメインです。でも、【無詠唱】とかの指導もしますので見てるだけでも価値はあると思います」
「エッ!? 無詠唱を教えてくれるの?」
「うちは基本【無詠唱】です。詠唱なんかしていたらその間にやられちゃうじゃないですか」
「そうだけど、普通は詠唱するものでしょ?」
「普通じゃ負けちゃうじゃないですか。しなくていい詠唱をやる必要もないですしね。ただ神殿巫女でもちょっと【無詠唱】は習得に時間がかかっているようなので、教えてすぐ習得ってわけにはいかないと思います」
「やっぱりそうなんだ。でもコツだけでも参考になるわよね?」
「練習しない事には進歩しないからね。まずは理解して慣れるしかないよ?」
入浴後にお風呂場で魔法実習をする事にした。
「まずはマッサージで魔力の流れを感じる事。メリル解るか? 今どこを俺の魔力が通ってるか感じるか?」
「うーん、背中の真ん中から肩の方に流れてる?」
「お! 正解だ。じゃあこれはどうだ?」
「腰から肩の方に、さっきより早く流れてる?」
「そうだ、流れは読めるようだな。魔力感知がちゃんとできるようになっている証拠だ。今度は魔力操作の方だな。自分でさっきの俺の流れをまねるように自分の魔力を流してみてごらん」
急にできなくなった。俺の魔素は感じられるのに、自分の魔素を循環できないのだ。
「メリル、魔法はイメージが一番大事なんだ。自分の中にゆっくりと水のような魔力が流れているのをイメージしてごらん。心臓が鼓動するタイミングで魔力も押し出されて、体の中を血液と一緒に流れるイメージだ。お! 流れ出したぞ。自分で解るか?」
「うん! 心臓の辺からなんか出てきてる感じがする!」
「実際は心臓で魔力が発生されるんじゃないんだけど、あくまで解り易くするためのイメージだ」
血液に例えたのが解りやすかったのか、魔力の流れができるようになった。
「魔素の流れるイメージは人それぞれだけど、メリルのイメージでいいからな。その心臓から出てるモノを今度は足の先に血液と一緒に流れているイメージで流してみてごらん。そうだ……いい感じだよ。足の先までちゃんと流せたね。今度はそれを頭のてっぺんに持って行ってみてごらん。いいね、頭まで行ったらまた心臓に戻してあげて」
「心臓に戻った! お兄ちゃんちゃんと出来てた?」
「ああ! 初めてにしては上出来だ! 今ので【魔力感知】と【魔力操作】は一応できるようになった。後は毎日繰り返すことでもっとスムーズにできるようになるぞ。やはりお風呂上りにマッサージしながらの方が解りやすいだろうから明日も行うな。これで魔素が体に溜まって怠いって事も解消されるからな」
「本当? 嬉しい!」
「まだ完璧じゃないぞ? ちゃんと多すぎる魔力をある程度消費しなきゃ滞ってしまうからな」
「うん、解った!」
「次は魔法の発動だ。メリルは水神殿の巫女に選ばれるだけあって、水系が一番のはずだから、まずは生活魔法の【アクア】から覚える事にする」
「お水を出す魔法だね。これ覚えたら水汲みいかなくていいようになるね!」
「そうだが、メリルの場合はヒールを覚えるのが目的だからな。水は出せて当たり前なんだぞ」
「うっ、頑張る」
「まず最初はイメージの練習だ。何度も言うけど、魔法はすべてイメージが大事だからな。まずは見ていろ」
メリルの前で【アクア】と略式詠唱を唱える、無詠唱で覚えさすつもりだが、発動タイミングを見せる為にあえて声に出して見せたのだ。
「この今のイメージは手の先からちょろちょろ水が湧き出るイメージだ。その時に冷たく美味しくイメージができればそんな水が出てくる。逆にイメージが下手な者が出した水はお腹を壊したり、まずくて飲めない場合もあるそうだ。すべてはイメージが大事なんだぞ。見てろよ、イメージ次第でほら、勢い良く出す事もできるし温かくして出す事もできる」
「ホントだ、暖かい! 凄いねお兄ちゃん!」
「じゃあ、メリルの番だ。さっきの魔力の流れを指先に持ってくるようにして、その魔力が水になってちょろちょろ出るイメージだ。詠唱なんかしなくていいぞ、イメージだけでできるんだからな」
「あ! 水、出た!」
「エエッ!? ウソでしょ! 【無詠唱】を1回で発動するなんて信じられない!」
騒いでいるのはソシアとコリンさん。
魔法学校に行って習った組からすれば、無詠唱で一発で出したのは衝撃的だったのだろう。
当のメリルは無詠唱の凄さが解らないから、ただ水が出たことに素直に喜んでいる。
「メリル一旦ストップだ。よしもう1回出してみろ。うん、出来るね。次は多く出したり少なく出したりしてみてごらん……おっ、いい感じだ。今日はこの練習だけにするから魔力が無くなるちょっと前まで頑張って続ける事。あまりやり過ぎると、魔力切れで気絶したり気分が悪くなったりするから、気分が悪くなった時点で止める事、いいね? 明日もう1回最初に見てみて、上手くできていたら初級魔法の【アクアボール】を教えてあげるね」
「リョウマお兄ちゃんホント! ヤッター! 頑張るね!」
うーん、この子もやっぱ天才肌だな。ナナ程じゃないが、それに近いものを持っている。ユグちゃんが気に掛けるだけの子なのだから当然なのかもしれないが……。
「リョウマ、説明しなさいよ! いろいろおかしいでしょ! 何よあれ! あんなの学校で習ってない!」
「学校の授業は全部とは言わないけど、かなり嘘が混じってるよ。フィリアも驚いていたけど、魔法は実際はイメージだけでかなり融通がきくんだよ。同じ魔力の大きさで詠唱も一言一句正確に発音しないと発動しないとかあれ全部ウソだから」
学校組はかなり衝撃を受けていた。根底から間違っていると言われているのだからしょうがないのかもしれないが、事実なのだから仕方がない。
「コリンさんの初級の火魔法って発動しているものはLv4からLv6なんだよね。それ以上でもそれ以下でもないんだよ。理由はLv5の大きさや威力のイメージでコリンさんが毎回発動しているから。そう習ったからそうしているのだろうけど、本来はLv5でもLv10でもMP量は同じなんだからLv10で発動した方が良いよね? ちなみにこれがLv10の【ファイアーボール】ね。比べると解るけど倍ほど違うでしょ?」
「全然違う!」
「学校でLv5の魔力量でしか発動しないってすり込まれてしまってるから、そういうイメージになっちゃったんだよ。魔力を込め過ぎると発動しないって単純に思いこんでるんだ」
「先生が嘘を言ってたの?」
「いや、教師も若いころにそう習ったから単に思い込んでいるだけだね。まぁ、その辺は明日にまた説明するよ。今日は魔力感知と魔力操作の練習だから。次はナシルさんの番だよ。聞いてた通りにやればできるはずだからやってみて」
結果、ナシルさんは魔力感知まではできたが、魔力操作はできなかった。
普通はこんなもんだろうと思い、魔法講習は2時間程で終えた。
その後、俺はサリエさんから罠解除を1時間程教えてもらい就寝とした。
翌朝6時に起床し朝食を終え、7時に出発したのだが、ナビーが緊急を知らせてきた。
『……マスター、35km先で30人程の盗賊が貴族を襲うために待ち伏せしているようです。マスターが通る上街道ではなく下街道の方です』
『貴族なら騎士が護衛しているだろう? 盗賊30人なら問題ないんじゃないか?』
『……待ち伏せされているのがハーレンの領主の三女で、父親の公務の代わりにバナムに行っていた帰りのようですが、その公務と言うのがマスターが壊滅させた誘拐団の残務処理についてでした。生き残った残党が酒場でこの情報を聞きつけて、周辺の盗賊をかき集めて計画した模様です。三女の少女は器量が良く評判の娘ですので、その娘目当てに手練れの盗賊が数名混じっています。いくら騎士でも少数ですので恐らく凌げないと思われます』
『ナビー的に助けろって事か?』
『……マスター次第です。ですが彼女は大変器量が良く領民からも大変慕われています。信仰値も73もあるとても信心深い娘です。そんな可愛い子を盗賊ごときに襲わせるのですか?』
『今から行って間に合うのか?』
『……ギリギリかもですが。急いだ方がいいでしょう』
知ってしまったからには盗賊に襲われるのを見過ごすのは俺的にはできない。
「ガラさん! 下街道でハーレンの領主の娘が盗賊に待ち伏せされてるようだ。35km程先らしいので、俺の探索でも詳しくは解らないが、神の神託が下って助けてこいとの事なので悪いが行ってくる」
「神託って! リョウマ君、どういう事だ!?」
「悪いが時間がない! 帰ってから話す。フェイは皆を護衛してやってくれ」
フェイの頷きを確認して、下街道を全力で駆けた。もうチーターも真っ青なスピードで駆けたんだけどね。
『……マスター、襲撃が始まってしまいました。ヒーラーが多い今回の騎士パーティーでは火力不足でおされ気味です。このままだと間に合わないかもしれません。すみません、もう少し早くお知らせすれば良かったのですけど……』
『なんでそうしなかった?』
『……ユグちゃんと協議していました。ユグちゃんは助けたいとすぐに私に相談してきたのですけど、ちょっと私が迷ってしまったのでお知らせするのが遅くなってしまいました』
『なぜ迷ったのかは後で聞くことにする。今はとにかく急ぐ』
『……ハイ、申し訳ありません』
器量良しの娘だから助けろと言ったくせに、先にナビーが迷っていた? 何か事情があるのだろうけど、ナビーらしくなくて釈然としない……。
『……あっ、1人殺されてしまいました……、間に合わないかもしれません……申し訳ありません』
地上経路では間に合いそうにないなら、空路でショートカットすればいい。
という訳で久々にオリジナル魔法の追加だ。
【魔法創造】
1、【飛翔】
2、・重力魔法の応用でリニアの様に反重力を利用して前に進む
・【レビテガ】を利用し前後左右全方位に移動可能
・飛翔中は【ウィンダラシールド】で風圧を防御する
・命にかかわるような制動はプロテクトされ発動しない
3、イメージ
4、【魔法創造】発動
早速【飛翔】を発動し、森を蛇行せずに目的地まで直進する事にした。
『ギャー! 怖い怖い怖い! ウソだろこれ! やばいって!』
『……マスター、もうすぐです! 少し落ち着いてください!』
『いや無理だって! マジ怖いって!』
想像してみてほしい。周りに覆う物も無く生身でマッハ2とかで飛んでいるのだ。
風圧こそないものの、落ちたら死ぬだろうこの速度は有り得ない恐怖を与えてくれた。ちなみにマッハ1は時速でいうと1200kmだ。マッハ2だと2400km……目的地の35kmなど1分少々の距離なのだ。すぐMAPに目的地の反応があらわれた。
上空500mから目的地に急降下を始めてすぐにブレーキを掛けたのだが、ミスった……止まらないのだ。
『ナビーやばい! 止まらない!』
『……「慣性の法則」ですね。あ! 最後のこれが発動中です。「命にかかわるような制動はプロテクトされ発動しない」』
『つまり現在命に係わるような事態が発生中なのか! 【プロテス】【マジックシールド】止まってー!!』
ズドンッ!!
1mほど地面を陥没させてやっと止まった。いや、止まったは正確ではないな、衝突事故だこれ。
シールド無かったら死んでたな。
顔を上げたら、トップレスでまさに今下着をもぎ取ろうとされてる美少女と目が合った。
周りの動きも静寂に包まれている。もぎ取ろうとしていた盗賊も下着に手を掛けた状態で固まってこっちを見ている。
俺は穴から這い出して言い放った。
「盗賊ども御用だ!」
『……マスター、泣きながら言っても締まらないです。はぁ、無様すぎて絵にならないです。今回のこれはボツですね。みっともなさすぎて使えません。折角神殿巫女に良い土産の動画が撮れると思いましたのに』
『俺、死ぬ程怖かったのに、お前冷静に何やってんの! 見ろまだ手が震えてる。対人で初めて人を刺した時より怖かったんだぞ! くそっ、もういい!』
「黙って投降しろ、さもなくば殺す!」
「「「ぎゃはは! やってみろよ小僧!」」」
【無詠唱】でそいつらの首を刎ねた。風魔法なので何が起こったか解らない者もいただろう。
この世界に来て初めての殺人だが、オークやゴブリンを殺しまくったせいか、あまり忌避感は無い。
「もう一度言う、黙って投降しろ! 俺は今、凄く機嫌が悪い! 会話する気もない! 投降しろ!」
剣を向け殺気を放ってきた順に首を落としていった。その間にも瀕死の騎士たちにヒールを掛けて回る。
残念だが既に息絶えている者も数名いた。
状況を見ると、必死で領主の娘を守ろうとして誰一人逃げずに戦ったようだ。魔法で殺された者や、矢が数本刺さって死んでいる者もいる。主に死んでいる者たちは遠距離から殺されたようだ。
どうやらこの半裸の美少女が領主の娘らしい。隣では同じように半裸のこれまた可愛い美少女が横たわっている。どうやら2人とも殴られてはいるが、かろうじて貞操は守れたようだ。
間に合って良かった……この世界の貴族の娘は貞操を守れなかった時点で、生き残れたとしても自害するのが習わしのようなのだ。生き恥を晒すぐらいなら死ぬというのが貴族の娘の矜持らしい。
俺はインベントリから毛布を出して2人にそっとかけてやる。
自分たちが半裸だという事にやっと気づいたのか、慌てて毛布で胸を隠したが、ごめんなさい脳内メモリーにしっかり保存しました。
現在盗賊側で生き残っている者は5名しかいない。誰も投降しなかったためだ。
生き残りはあえて殺していないのだが……気付いてないと思っているのか、地面に伏して死んだふりをしている。
5名うち2名は信仰値が65を超えている。犯罪履歴も無し……だから殺さず生かしたのだけど―――
さて、どうしたものやら……。
当然俺は行く気はないが、フェイは村に行きたそうにしている。
暫く放って置いたのだが、ソシアさんとサーシャさんが見かねてフェイを遊びに連れて行ってくれることになった。
「兄様、お土産です! 美味しそうなので買ってきました」
見ると嬉しそうにトウモロコシの焼いたものを2本持っている。夕飯前だと言うのに本当に困った娘だ。
「フェイ、夕飯前だがちゃんと食べられるのか?」
「はい、これは別腹です!」
「どこでそんな余計な言葉覚えたんだ?」
後ろでソシアさんがリスのようにトウモロコシをかじっている。犯人はお前か……。
オークの串焼きとかならちょっと怒ったかもだが、食べた事のない物だったのでまぁいいだろう。
俺はフェイが遊んでいる間に皆の夕飯の準備だ。
焼きトウモロコシは俺も好きなので、ちゃんとフェイにお礼を言って頂きましたよ。
本日の夕飯のメニュー
・水牛のサーロインステーキ
・生野菜のサラダ
・コンソメスープ
・パンもしくは米飯
・チョコとバニラのアイス
「リョウマ君、これ赤字だよね? 俺の出してる日当より確実に良い物使ってるよね?」
「昨日も言いましたが、全部『灼熱の戦姫』のメンバーと待機中に狩って来たものですので、末端価格の事は気にしないで食ってください」
「リョウマ君がいいなら俺としてはむしろ大感謝なんだけどね。いやー今日のご飯も凄く美味しいよ!」
またもやガラさんがエールを出してきた。それ売り物じゃないのかよって思ったが、本人は大はしゃぎでマチルダさんたちと飲んでいる。
まぁ、美人揃いの娘たちとお酒を飲めるだけでも本来お金が発生するような事案なのだ。
エールを振るまってご機嫌なのも分かるような気もする。
「メリル、今日から魔法の練習をするけど、頑張れる体力は残ってるか? 一応お風呂に入ってマッサージをやりながらの指導にする。その方が魔力の流れが解るからね」
「うん! リョウマお兄ちゃん、私、頑張る! サリエお姉ちゃんがリョウマお兄ちゃんに少し習っただけで凄く成長できたって言ってたよ。リョウマお兄ちゃんに教えてもらえるのは凄い事なんだって。だから私も頑張るね」
「ナシルさんも一緒に教えますね。素質自体はあるはずですので、オークぐらいは魔法で倒せるようになるはずです」
「私もご一緒してよろしいのですか? ありがとうございます」
「ソシアも来るか? 水系の指導だからソシアも役に立つはずだぞ」
「勿論行くわよ! 来るなって言っても行くからね!」
「いや、来るなって言った時は来るんじゃないよ!」
「あの、魔法の指導なら私もご一緒したいです!」
「私もお願いします!」
「コリンさんもサーシャさんも良いですけど、水系の指導がメインです。でも、【無詠唱】とかの指導もしますので見てるだけでも価値はあると思います」
「エッ!? 無詠唱を教えてくれるの?」
「うちは基本【無詠唱】です。詠唱なんかしていたらその間にやられちゃうじゃないですか」
「そうだけど、普通は詠唱するものでしょ?」
「普通じゃ負けちゃうじゃないですか。しなくていい詠唱をやる必要もないですしね。ただ神殿巫女でもちょっと【無詠唱】は習得に時間がかかっているようなので、教えてすぐ習得ってわけにはいかないと思います」
「やっぱりそうなんだ。でもコツだけでも参考になるわよね?」
「練習しない事には進歩しないからね。まずは理解して慣れるしかないよ?」
入浴後にお風呂場で魔法実習をする事にした。
「まずはマッサージで魔力の流れを感じる事。メリル解るか? 今どこを俺の魔力が通ってるか感じるか?」
「うーん、背中の真ん中から肩の方に流れてる?」
「お! 正解だ。じゃあこれはどうだ?」
「腰から肩の方に、さっきより早く流れてる?」
「そうだ、流れは読めるようだな。魔力感知がちゃんとできるようになっている証拠だ。今度は魔力操作の方だな。自分でさっきの俺の流れをまねるように自分の魔力を流してみてごらん」
急にできなくなった。俺の魔素は感じられるのに、自分の魔素を循環できないのだ。
「メリル、魔法はイメージが一番大事なんだ。自分の中にゆっくりと水のような魔力が流れているのをイメージしてごらん。心臓が鼓動するタイミングで魔力も押し出されて、体の中を血液と一緒に流れるイメージだ。お! 流れ出したぞ。自分で解るか?」
「うん! 心臓の辺からなんか出てきてる感じがする!」
「実際は心臓で魔力が発生されるんじゃないんだけど、あくまで解り易くするためのイメージだ」
血液に例えたのが解りやすかったのか、魔力の流れができるようになった。
「魔素の流れるイメージは人それぞれだけど、メリルのイメージでいいからな。その心臓から出てるモノを今度は足の先に血液と一緒に流れているイメージで流してみてごらん。そうだ……いい感じだよ。足の先までちゃんと流せたね。今度はそれを頭のてっぺんに持って行ってみてごらん。いいね、頭まで行ったらまた心臓に戻してあげて」
「心臓に戻った! お兄ちゃんちゃんと出来てた?」
「ああ! 初めてにしては上出来だ! 今ので【魔力感知】と【魔力操作】は一応できるようになった。後は毎日繰り返すことでもっとスムーズにできるようになるぞ。やはりお風呂上りにマッサージしながらの方が解りやすいだろうから明日も行うな。これで魔素が体に溜まって怠いって事も解消されるからな」
「本当? 嬉しい!」
「まだ完璧じゃないぞ? ちゃんと多すぎる魔力をある程度消費しなきゃ滞ってしまうからな」
「うん、解った!」
「次は魔法の発動だ。メリルは水神殿の巫女に選ばれるだけあって、水系が一番のはずだから、まずは生活魔法の【アクア】から覚える事にする」
「お水を出す魔法だね。これ覚えたら水汲みいかなくていいようになるね!」
「そうだが、メリルの場合はヒールを覚えるのが目的だからな。水は出せて当たり前なんだぞ」
「うっ、頑張る」
「まず最初はイメージの練習だ。何度も言うけど、魔法はすべてイメージが大事だからな。まずは見ていろ」
メリルの前で【アクア】と略式詠唱を唱える、無詠唱で覚えさすつもりだが、発動タイミングを見せる為にあえて声に出して見せたのだ。
「この今のイメージは手の先からちょろちょろ水が湧き出るイメージだ。その時に冷たく美味しくイメージができればそんな水が出てくる。逆にイメージが下手な者が出した水はお腹を壊したり、まずくて飲めない場合もあるそうだ。すべてはイメージが大事なんだぞ。見てろよ、イメージ次第でほら、勢い良く出す事もできるし温かくして出す事もできる」
「ホントだ、暖かい! 凄いねお兄ちゃん!」
「じゃあ、メリルの番だ。さっきの魔力の流れを指先に持ってくるようにして、その魔力が水になってちょろちょろ出るイメージだ。詠唱なんかしなくていいぞ、イメージだけでできるんだからな」
「あ! 水、出た!」
「エエッ!? ウソでしょ! 【無詠唱】を1回で発動するなんて信じられない!」
騒いでいるのはソシアとコリンさん。
魔法学校に行って習った組からすれば、無詠唱で一発で出したのは衝撃的だったのだろう。
当のメリルは無詠唱の凄さが解らないから、ただ水が出たことに素直に喜んでいる。
「メリル一旦ストップだ。よしもう1回出してみろ。うん、出来るね。次は多く出したり少なく出したりしてみてごらん……おっ、いい感じだ。今日はこの練習だけにするから魔力が無くなるちょっと前まで頑張って続ける事。あまりやり過ぎると、魔力切れで気絶したり気分が悪くなったりするから、気分が悪くなった時点で止める事、いいね? 明日もう1回最初に見てみて、上手くできていたら初級魔法の【アクアボール】を教えてあげるね」
「リョウマお兄ちゃんホント! ヤッター! 頑張るね!」
うーん、この子もやっぱ天才肌だな。ナナ程じゃないが、それに近いものを持っている。ユグちゃんが気に掛けるだけの子なのだから当然なのかもしれないが……。
「リョウマ、説明しなさいよ! いろいろおかしいでしょ! 何よあれ! あんなの学校で習ってない!」
「学校の授業は全部とは言わないけど、かなり嘘が混じってるよ。フィリアも驚いていたけど、魔法は実際はイメージだけでかなり融通がきくんだよ。同じ魔力の大きさで詠唱も一言一句正確に発音しないと発動しないとかあれ全部ウソだから」
学校組はかなり衝撃を受けていた。根底から間違っていると言われているのだからしょうがないのかもしれないが、事実なのだから仕方がない。
「コリンさんの初級の火魔法って発動しているものはLv4からLv6なんだよね。それ以上でもそれ以下でもないんだよ。理由はLv5の大きさや威力のイメージでコリンさんが毎回発動しているから。そう習ったからそうしているのだろうけど、本来はLv5でもLv10でもMP量は同じなんだからLv10で発動した方が良いよね? ちなみにこれがLv10の【ファイアーボール】ね。比べると解るけど倍ほど違うでしょ?」
「全然違う!」
「学校でLv5の魔力量でしか発動しないってすり込まれてしまってるから、そういうイメージになっちゃったんだよ。魔力を込め過ぎると発動しないって単純に思いこんでるんだ」
「先生が嘘を言ってたの?」
「いや、教師も若いころにそう習ったから単に思い込んでいるだけだね。まぁ、その辺は明日にまた説明するよ。今日は魔力感知と魔力操作の練習だから。次はナシルさんの番だよ。聞いてた通りにやればできるはずだからやってみて」
結果、ナシルさんは魔力感知まではできたが、魔力操作はできなかった。
普通はこんなもんだろうと思い、魔法講習は2時間程で終えた。
その後、俺はサリエさんから罠解除を1時間程教えてもらい就寝とした。
翌朝6時に起床し朝食を終え、7時に出発したのだが、ナビーが緊急を知らせてきた。
『……マスター、35km先で30人程の盗賊が貴族を襲うために待ち伏せしているようです。マスターが通る上街道ではなく下街道の方です』
『貴族なら騎士が護衛しているだろう? 盗賊30人なら問題ないんじゃないか?』
『……待ち伏せされているのがハーレンの領主の三女で、父親の公務の代わりにバナムに行っていた帰りのようですが、その公務と言うのがマスターが壊滅させた誘拐団の残務処理についてでした。生き残った残党が酒場でこの情報を聞きつけて、周辺の盗賊をかき集めて計画した模様です。三女の少女は器量が良く評判の娘ですので、その娘目当てに手練れの盗賊が数名混じっています。いくら騎士でも少数ですので恐らく凌げないと思われます』
『ナビー的に助けろって事か?』
『……マスター次第です。ですが彼女は大変器量が良く領民からも大変慕われています。信仰値も73もあるとても信心深い娘です。そんな可愛い子を盗賊ごときに襲わせるのですか?』
『今から行って間に合うのか?』
『……ギリギリかもですが。急いだ方がいいでしょう』
知ってしまったからには盗賊に襲われるのを見過ごすのは俺的にはできない。
「ガラさん! 下街道でハーレンの領主の娘が盗賊に待ち伏せされてるようだ。35km程先らしいので、俺の探索でも詳しくは解らないが、神の神託が下って助けてこいとの事なので悪いが行ってくる」
「神託って! リョウマ君、どういう事だ!?」
「悪いが時間がない! 帰ってから話す。フェイは皆を護衛してやってくれ」
フェイの頷きを確認して、下街道を全力で駆けた。もうチーターも真っ青なスピードで駆けたんだけどね。
『……マスター、襲撃が始まってしまいました。ヒーラーが多い今回の騎士パーティーでは火力不足でおされ気味です。このままだと間に合わないかもしれません。すみません、もう少し早くお知らせすれば良かったのですけど……』
『なんでそうしなかった?』
『……ユグちゃんと協議していました。ユグちゃんは助けたいとすぐに私に相談してきたのですけど、ちょっと私が迷ってしまったのでお知らせするのが遅くなってしまいました』
『なぜ迷ったのかは後で聞くことにする。今はとにかく急ぐ』
『……ハイ、申し訳ありません』
器量良しの娘だから助けろと言ったくせに、先にナビーが迷っていた? 何か事情があるのだろうけど、ナビーらしくなくて釈然としない……。
『……あっ、1人殺されてしまいました……、間に合わないかもしれません……申し訳ありません』
地上経路では間に合いそうにないなら、空路でショートカットすればいい。
という訳で久々にオリジナル魔法の追加だ。
【魔法創造】
1、【飛翔】
2、・重力魔法の応用でリニアの様に反重力を利用して前に進む
・【レビテガ】を利用し前後左右全方位に移動可能
・飛翔中は【ウィンダラシールド】で風圧を防御する
・命にかかわるような制動はプロテクトされ発動しない
3、イメージ
4、【魔法創造】発動
早速【飛翔】を発動し、森を蛇行せずに目的地まで直進する事にした。
『ギャー! 怖い怖い怖い! ウソだろこれ! やばいって!』
『……マスター、もうすぐです! 少し落ち着いてください!』
『いや無理だって! マジ怖いって!』
想像してみてほしい。周りに覆う物も無く生身でマッハ2とかで飛んでいるのだ。
風圧こそないものの、落ちたら死ぬだろうこの速度は有り得ない恐怖を与えてくれた。ちなみにマッハ1は時速でいうと1200kmだ。マッハ2だと2400km……目的地の35kmなど1分少々の距離なのだ。すぐMAPに目的地の反応があらわれた。
上空500mから目的地に急降下を始めてすぐにブレーキを掛けたのだが、ミスった……止まらないのだ。
『ナビーやばい! 止まらない!』
『……「慣性の法則」ですね。あ! 最後のこれが発動中です。「命にかかわるような制動はプロテクトされ発動しない」』
『つまり現在命に係わるような事態が発生中なのか! 【プロテス】【マジックシールド】止まってー!!』
ズドンッ!!
1mほど地面を陥没させてやっと止まった。いや、止まったは正確ではないな、衝突事故だこれ。
シールド無かったら死んでたな。
顔を上げたら、トップレスでまさに今下着をもぎ取ろうとされてる美少女と目が合った。
周りの動きも静寂に包まれている。もぎ取ろうとしていた盗賊も下着に手を掛けた状態で固まってこっちを見ている。
俺は穴から這い出して言い放った。
「盗賊ども御用だ!」
『……マスター、泣きながら言っても締まらないです。はぁ、無様すぎて絵にならないです。今回のこれはボツですね。みっともなさすぎて使えません。折角神殿巫女に良い土産の動画が撮れると思いましたのに』
『俺、死ぬ程怖かったのに、お前冷静に何やってんの! 見ろまだ手が震えてる。対人で初めて人を刺した時より怖かったんだぞ! くそっ、もういい!』
「黙って投降しろ、さもなくば殺す!」
「「「ぎゃはは! やってみろよ小僧!」」」
【無詠唱】でそいつらの首を刎ねた。風魔法なので何が起こったか解らない者もいただろう。
この世界に来て初めての殺人だが、オークやゴブリンを殺しまくったせいか、あまり忌避感は無い。
「もう一度言う、黙って投降しろ! 俺は今、凄く機嫌が悪い! 会話する気もない! 投降しろ!」
剣を向け殺気を放ってきた順に首を落としていった。その間にも瀕死の騎士たちにヒールを掛けて回る。
残念だが既に息絶えている者も数名いた。
状況を見ると、必死で領主の娘を守ろうとして誰一人逃げずに戦ったようだ。魔法で殺された者や、矢が数本刺さって死んでいる者もいる。主に死んでいる者たちは遠距離から殺されたようだ。
どうやらこの半裸の美少女が領主の娘らしい。隣では同じように半裸のこれまた可愛い美少女が横たわっている。どうやら2人とも殴られてはいるが、かろうじて貞操は守れたようだ。
間に合って良かった……この世界の貴族の娘は貞操を守れなかった時点で、生き残れたとしても自害するのが習わしのようなのだ。生き恥を晒すぐらいなら死ぬというのが貴族の娘の矜持らしい。
俺はインベントリから毛布を出して2人にそっとかけてやる。
自分たちが半裸だという事にやっと気づいたのか、慌てて毛布で胸を隠したが、ごめんなさい脳内メモリーにしっかり保存しました。
現在盗賊側で生き残っている者は5名しかいない。誰も投降しなかったためだ。
生き残りはあえて殺していないのだが……気付いてないと思っているのか、地面に伏して死んだふりをしている。
5名うち2名は信仰値が65を超えている。犯罪履歴も無し……だから殺さず生かしたのだけど―――
さて、どうしたものやら……。
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