68 / 120
商都ハーレン編
5-3 お約束的なヤラレキャラ
しおりを挟む
イリスさんと最初の個室で契約の確認事項を行っている。
「ガラ氏から許可が出ているので、狼と虎の分は先に支払うわね。今日の依頼分は剥ぎ取り後の魔石の状態を見て査定するからもう少し待っててね。あと、バナムの報酬もこっちで受け取るんだったね」
「それはやっぱりいいです。向こうで受け取ります。どっちにしろ行かないといけないので向こうの分はあっちで処理してもらいます」
「了解、他に何か聞きたい事はある?」
「バナム行きの護衛依頼を見繕ってください」
「実は3日後出発予定の護衛依頼をリョウマ君用に確保していたんだけどね……」
「ダメになったのですか?」
「いえ違うわ、ニコラス商会のガラ氏が指名依頼をしてきたの。2人に護衛をしてほしいそうよ。そっちの方が凄く条件が良いし、指名依頼で高評価がもらえると、ランクアップ時の査定ポイントがいいのよ」
「でも確か『灼熱の戦姫』が帰りも護衛するはずですよ? 彼女たちは解雇ですか?」
「勿論彼女たちも一緒よ」
「兄様! フェイはそれ受けたいです」
「フェイはソシアさんと仲良くなっていたからな。依頼料はどうなってます」
「それがね、1日1人5万ジェニーだそうよ」
「それって破格じゃないです? マチルダさんのところでも2万ジェニーとか言ってましたよ」
「実はこの依頼には条件があるのよ。よく分かんないのだけど、移動中の5日分の料理を頼みたいそうよ。料理人でもないリョウマ君になんでこんな依頼なのか不思議だけど、指名依頼は高ポイントなので、王狼の件と合わせてバナムに戻って依頼達成報告をした時点でシルバーランクに成れると思うわ。食事の提供対象は商人2名、御者2名『灼熱の戦姫』6名とあなたたちの分だそうよ」
「商人は4人と思っていましたが、2名は御者だったんですね」
「え? 5日も一緒に居て会話とかしてないの?」
「商人の方はガラさんとしか話してない気が……してないですね」
「御者は使用人だったり、奴隷だったりして基本的に身分が低いの。用が無い限りは御者の方から話し掛ける事は無いのよ。そう躾けられているから、リョウマ君の方から話しを振ってあげるぐらいの配慮はしようね」
「分かりました、アドバイスありがとうございます。旅の間、御者の人も商人と思ってましたよ」
「フェイは知ってたか?」
「フェイも商人の人と思ってました」
「だよな、フェイの狩った虎をじっと見て査定してたよな?」
「あの2人の御者はガラさんの所の見習なので、一応駆け出し商人って所かな。御者として連れ回しているぐらいなので、弟子としても優秀なんだと思う。いずれはどこかに支店を構えるようになる人たちかもね」
個室に行き、フェイとギルドカードを提示して、書類にサインをしたら、368万ジェニーも手渡された。
戦闘時フェイと俺との距離があったため、カードの判定ではどっちも個人討伐扱いになっていた。狼は俺の単独討伐、虎はフェイの単独討伐だ。配当は狼が100万から1割ギルドに支払い90万、虎が300万から1割引いて270万、計360万の計算だ。ちなみに8万はサクエラさんの5日分の護衛報酬ね。ヒャホー俺たち超リッチ。
しかもこれはあくまで依頼料であって、実際はこれから現物査定をし、その分の差額分がさらに入る。仮に虎が依頼時より暴落していて価格が300万より下だった場合でも先に受け取った270万の報酬は満額貰えるそうだ。もし、400万で売れたなら差額の100万程が更に手に入る。ガラさんが欲張って収益の半分とか言ってきたら貰える額は少なくなるのだが。今回魔石は売らないので、虎に関しては逆に返さないといけないかもしれないと思ってる。
「イリスさん、さっきのガラさんの指名依頼、受けようと思いますので手配お願いします」
「了解したわ、この契約書にサインお願い。ガラさんの方は後日来るそうよ、それでいいかしら?」
「信用してますので、後日のサインで結構ですよ」
「一応言っておくけど、初の人とか知らない人間との契約は絶対その場で当人同士でやるのよ。そして契約書は必ず3枚作り、1枚はギルドに預け、契約終了でお金を受け取るまでは1枚は自分で保管することを忘れないでね。人任せに先にサインして後で見たらいろいろ追加されてて中身が全然違ってたという事もあるのですからね」
「はい、気を付けます。ちょっと尋ねますが、北の湿地帯にいる水牛って、今、1頭当たり相場はどのくらいしてますか?」
「ここ1年狩られてないので、相当値上がりしてるわ。オークは常に供給されてるので屋台で串焼きで出されるほどなのに、牛肉は全く出て無いわね。ちょっと待ってね……討伐依頼が8件も出てるわね、10万~70万よ。10万は古い依頼だし安すぎるから却下ね。次が40万ね、この依頼もちょっと古いかな。要交渉だね、次が50万、大体この辺が妥当かな50万~65万が相場ね。70万のは期日指定の依頼なのでちょい高めなのね。誕生祝に欲しいからその3日前までの期日に持っていけばこの値段だそうよ」
「3日前というのは、熟成期間が要るからですね。でも50万以上が6件あるんですね。それとワニはどれくらいでしょうか」
「ワニって、キラークロコダイルの事かな? あれは言い値で売れるわ。魔石も大きいし相場は150~200万ほどしているわね。お肉も牙も魔石も何より皮が高値で取引されてるわ。あの湿地帯の中の魔獣では単体価格で言ったら一番ね。でもリョウマ君こんなこと聞いてどうするの?」
「狩りですよ、肉狩りイベント発生です!」
「何言ってるの! 無茶よ、そんな無謀な事受けさせないわよ!」
「そう言われると思って『灼熱の戦姫』とレイドを組んでいきます」
「それでも無茶よ! あそこはゴールドランク者20人規模で行くような所よ」
「正直に言いますと、俺一人で余裕なんですが、折角なので小遣い稼ぎにどうかと彼女らを誘っただけです。別に断られていたとしても、フェイと2人で行ってました。ほんとに余裕ですからイリスさん、変に気を使ってレイドPTを20人以上にしようとか考えて、他の冒険者に声掛けしたりしないでくださいね。超有難迷惑なので、もし余計な事をされたら2度とギルドを通して仕事をしませんよ」
「うっ、でも若い冒険者が無茶して死なないように配慮するのも受付嬢の大事な仕事なのよ?」
「キングと王狼を単独で瞬殺できるのですよ? フェイだってほらこの通り」
俺はフェイのサーベルタイガーの狩りシーンの動画を見せた。
「フェイちゃん強い! って言うかなにこれ! 素手で倒したの? 格闘家でもあるまいし! その細い足で信じられない!」
「言っておきますが、俺たち兄妹のメインはあくまで魔法ですからね。イリスさんが余計な事して、むさい冒険者が寄ってくるようになったら、もうここには来ないで、直接商人ギルドの方に狩った獲物を持込みしますからね」
「分かったわよ、でも十分気を付けてね」
「『命大事に!』が俺たち兄妹の方針なので安心してください」
契約も済み、小部屋を出て2階のラウンジに行ったら『灼熱の戦姫』が沢山の冒険者に囲まれていた。あの中に入って行きたくなかったが1時間程待たせてしまっている。
知らん顔して逃げるのもないだろうと思い声を掛けた。
「すみませんお待たせしました。ところで、この騒ぎはどうしたのですか?」
まさか、ガラさんに秘密にしてほしいと言われたのに王狼の事をしゃべったんじゃないだろうな。
「ん! いつもこんな感じ! うざい!」
「いつもなら報告とギルドカードの更新を済ませたらさっさとギルドを出るんだけど、今日はラウンジに腰を掛けたので私たちとお近づきになりたい人たちが声を掛けてきてるのよ」
疑ってごめんなさい! 俺たちが遅くなったせいですね。ほんとすいませんです。
「まぁ、綺麗な人が揃ってますから……気持ちは解りますが、逆効果でしょうね」
「何が逆効果なんだよ兄ちゃん……めちゃくちゃ良い女侍らせて、イイ気になってんのか! あぁ?」
うわー、アホが絡んできたよ。この手の奴はどこにでもいるんだな。しかも大抵ランクが低いやられキャラなんだよね。
やられキャラ、可哀想なので、今回は見逃してあげるよ。大金貰っておじさん機嫌がいいのだよ、良かったね。
「何、無視してんだ! それにしても嬢ちゃんの方は綺麗だな! この髪なんかサラサラしてシルクみたいだ! どれどれ―――
『あっ!』と思ったのだが時既に遅し……5mほど先の壁に激突してそのままうずくまって吐血。
あれ、なんかやばくね! いやマジやばいって! 瀕死じゃん! ほっといたら直ぐ死ぬよあれ……内臓破裂ってやつでしょ! 俺は慌てて上級魔法の【アクアガヒール】をかけた。ふぅ、どうやら間に合ったようだ。後ろを見たら『やってしまった』という顔をして泣きそうなフェイが居た。
恐らく前回同様、蹴った事への後悔はないだろう。いつもの事だ、泣きそうな顔をしているのは俺に怒られると思っての事だろう。勿論怒りますよ……実際かなり怒ってます。人ひとり殺しかけたんですからね。
「フェイ! お前何てことするんだ! 死ぬとこだったぞ! 殺人者になりたいのか!」
「兄様ごめんなさい!」
騒ぎを聞きつけたイリスさんが来てくれたのだが、今回の場合フェイが圧倒的に悪い。殺す気はないだろうが、髪を触ろうとしたぐらいで殺しかけたんだ。フェイが繰り出した蹴り足が霞んで見えない程だった。
「この騒ぎは何ですか!? 何があったんです! ギルド内の喧嘩はご法度ですよ!」
「ん! こいつがフェイちゃんの美しい髪を無断で触ろうとした! 死んで当然!」
サリエさん、庇ってくれるのはいいのですが、発言が物騒ですよ。
「それは万死に値しますね! なんで此奴はまだ生きているのですか?」
「イリスさんまで何言ってるんですか!? フェイ、きちんと謝れ!」
「嫌です! 兄様がドライヤーしてくれた髪を汚い手で触ろうとしました! 謝りません!」
またそっちかよ! なんで俺を話に絡めるんだ!
「触ろうとした事に対して蹴った事を謝れって言うんじゃない。蹴って殺しかけた事を謝れって言ってるんだ。殺す程の事じゃないだろう!」
フェイは少しだけ考えた後、冒険者の側に行くとこう言い放った。
「蹴った事は謝りません、ですが力を入れすぎて殺し掛けちゃったことは謝ります。ごめんなさい」
「ふざけるな! 殺しかけておいて『ごめんなさい』で済むと思ってんのか!」
「あなたが悪いのでしょう? 自覚が無いのですか? 美少女の髪に触れていいのは、同じく美少年だけなのですよ」
「はぁ? 何言ってんだ? イリスさんもちょっと可愛いからっていい気になってると路地裏へ連れ込まれるぜ? 夜道には気を付けるんだな!」
アイツバカだとか、誰か止めてやれとか聞こえてくるが誰も止めようとしない。ソロなのかなこいつ。
「へー、この私を脅すのですか。いいでしょう」
イリスさんは、なにか黒い手帳のような物を出して、何か2、3行書き込んでから【亜空間倉庫】に戻した。なんだろうあれ、なにか恐怖を感じたのだが。周りの冒険者は、あいつ終わったーとか囁いてる。
「あの、イリスさん? そのさっきの黒い不気味な手帳は何なのでしょう? なにか只ならぬ気配がしたのですが?」
「何でもないですよ、只のメモ書きです」
ちゃんと答えてくれたのは、イリスさんではなくマチルダさんだった。そっと耳元で囁いてくれたのだがその内容は恐ろしい物だった。
「あれは、噂のブラックリストですね。あれに名が乗ってしまうと、受付嬢一同から冷たくあしらわれるようになるそうです。良い依頼は来なくなり、買取査定も厳しくなるそうです。評価以上に下げる事は無いのですが、これまで大目に見てくれていた多少の傷でも見つけて指摘されるそうです」
なにそれ怖い、美人の受付嬢たちに冷たくされるだけでもう泣いちゃいそうだよ。
「それからリョウマ君たちもギルド内は喧嘩はご法度です。やるなら外に出てからやりなさい」
「外だといいのですか?」
「ええ、ギルドは冒険者同士の諍いには感知しません。仲裁を依頼されれば別ですが、それ以外は自己責任です。但し、外での諍いは憲兵の管轄です。殺せば正当性が無ければ当然殺人罪が記録され連行されます」
「了解しました。と言う訳であんた、謝罪はするけどこれ以上は俺も面倒です。一方的に因縁を付けてきて髪に触れようとしたのは事実ですので、まだ文句があるなら外へ行きましょう。ここからは俺が相手をします」
「それからイリスさん、お手間をおかけしてすみませんでした。他の冒険者の方もお騒がせしました」
「イリスさんごめんなさい。兄様も、恥を掻かせてしまいごめんなさい」
「イリスさん、その、さっきのあれ許してください! 本気じゃないのです! ちょっと粋がってしまっただけです、許してください! それと嬢ちゃんも絡んで悪かった! 酒を飲み過ぎて、気がデカくなっていたんだ! すまなかった!」
イリスさんは、無言で手帳を取出し。シャシャット2重線を引いていた。どうやら許されたらしい。
フェイに絡んだ冒険者も、それを見て安堵の顔をしていた。よほどの危機感を抱いたのだろう。
俺は、冒険者と血ダマリができていた床に【クリーン】をかけ、もう一度フェイと皆に謝ってから『灼熱の戦姫』の皆とギルドを出るのであった。
「ガラ氏から許可が出ているので、狼と虎の分は先に支払うわね。今日の依頼分は剥ぎ取り後の魔石の状態を見て査定するからもう少し待っててね。あと、バナムの報酬もこっちで受け取るんだったね」
「それはやっぱりいいです。向こうで受け取ります。どっちにしろ行かないといけないので向こうの分はあっちで処理してもらいます」
「了解、他に何か聞きたい事はある?」
「バナム行きの護衛依頼を見繕ってください」
「実は3日後出発予定の護衛依頼をリョウマ君用に確保していたんだけどね……」
「ダメになったのですか?」
「いえ違うわ、ニコラス商会のガラ氏が指名依頼をしてきたの。2人に護衛をしてほしいそうよ。そっちの方が凄く条件が良いし、指名依頼で高評価がもらえると、ランクアップ時の査定ポイントがいいのよ」
「でも確か『灼熱の戦姫』が帰りも護衛するはずですよ? 彼女たちは解雇ですか?」
「勿論彼女たちも一緒よ」
「兄様! フェイはそれ受けたいです」
「フェイはソシアさんと仲良くなっていたからな。依頼料はどうなってます」
「それがね、1日1人5万ジェニーだそうよ」
「それって破格じゃないです? マチルダさんのところでも2万ジェニーとか言ってましたよ」
「実はこの依頼には条件があるのよ。よく分かんないのだけど、移動中の5日分の料理を頼みたいそうよ。料理人でもないリョウマ君になんでこんな依頼なのか不思議だけど、指名依頼は高ポイントなので、王狼の件と合わせてバナムに戻って依頼達成報告をした時点でシルバーランクに成れると思うわ。食事の提供対象は商人2名、御者2名『灼熱の戦姫』6名とあなたたちの分だそうよ」
「商人は4人と思っていましたが、2名は御者だったんですね」
「え? 5日も一緒に居て会話とかしてないの?」
「商人の方はガラさんとしか話してない気が……してないですね」
「御者は使用人だったり、奴隷だったりして基本的に身分が低いの。用が無い限りは御者の方から話し掛ける事は無いのよ。そう躾けられているから、リョウマ君の方から話しを振ってあげるぐらいの配慮はしようね」
「分かりました、アドバイスありがとうございます。旅の間、御者の人も商人と思ってましたよ」
「フェイは知ってたか?」
「フェイも商人の人と思ってました」
「だよな、フェイの狩った虎をじっと見て査定してたよな?」
「あの2人の御者はガラさんの所の見習なので、一応駆け出し商人って所かな。御者として連れ回しているぐらいなので、弟子としても優秀なんだと思う。いずれはどこかに支店を構えるようになる人たちかもね」
個室に行き、フェイとギルドカードを提示して、書類にサインをしたら、368万ジェニーも手渡された。
戦闘時フェイと俺との距離があったため、カードの判定ではどっちも個人討伐扱いになっていた。狼は俺の単独討伐、虎はフェイの単独討伐だ。配当は狼が100万から1割ギルドに支払い90万、虎が300万から1割引いて270万、計360万の計算だ。ちなみに8万はサクエラさんの5日分の護衛報酬ね。ヒャホー俺たち超リッチ。
しかもこれはあくまで依頼料であって、実際はこれから現物査定をし、その分の差額分がさらに入る。仮に虎が依頼時より暴落していて価格が300万より下だった場合でも先に受け取った270万の報酬は満額貰えるそうだ。もし、400万で売れたなら差額の100万程が更に手に入る。ガラさんが欲張って収益の半分とか言ってきたら貰える額は少なくなるのだが。今回魔石は売らないので、虎に関しては逆に返さないといけないかもしれないと思ってる。
「イリスさん、さっきのガラさんの指名依頼、受けようと思いますので手配お願いします」
「了解したわ、この契約書にサインお願い。ガラさんの方は後日来るそうよ、それでいいかしら?」
「信用してますので、後日のサインで結構ですよ」
「一応言っておくけど、初の人とか知らない人間との契約は絶対その場で当人同士でやるのよ。そして契約書は必ず3枚作り、1枚はギルドに預け、契約終了でお金を受け取るまでは1枚は自分で保管することを忘れないでね。人任せに先にサインして後で見たらいろいろ追加されてて中身が全然違ってたという事もあるのですからね」
「はい、気を付けます。ちょっと尋ねますが、北の湿地帯にいる水牛って、今、1頭当たり相場はどのくらいしてますか?」
「ここ1年狩られてないので、相当値上がりしてるわ。オークは常に供給されてるので屋台で串焼きで出されるほどなのに、牛肉は全く出て無いわね。ちょっと待ってね……討伐依頼が8件も出てるわね、10万~70万よ。10万は古い依頼だし安すぎるから却下ね。次が40万ね、この依頼もちょっと古いかな。要交渉だね、次が50万、大体この辺が妥当かな50万~65万が相場ね。70万のは期日指定の依頼なのでちょい高めなのね。誕生祝に欲しいからその3日前までの期日に持っていけばこの値段だそうよ」
「3日前というのは、熟成期間が要るからですね。でも50万以上が6件あるんですね。それとワニはどれくらいでしょうか」
「ワニって、キラークロコダイルの事かな? あれは言い値で売れるわ。魔石も大きいし相場は150~200万ほどしているわね。お肉も牙も魔石も何より皮が高値で取引されてるわ。あの湿地帯の中の魔獣では単体価格で言ったら一番ね。でもリョウマ君こんなこと聞いてどうするの?」
「狩りですよ、肉狩りイベント発生です!」
「何言ってるの! 無茶よ、そんな無謀な事受けさせないわよ!」
「そう言われると思って『灼熱の戦姫』とレイドを組んでいきます」
「それでも無茶よ! あそこはゴールドランク者20人規模で行くような所よ」
「正直に言いますと、俺一人で余裕なんですが、折角なので小遣い稼ぎにどうかと彼女らを誘っただけです。別に断られていたとしても、フェイと2人で行ってました。ほんとに余裕ですからイリスさん、変に気を使ってレイドPTを20人以上にしようとか考えて、他の冒険者に声掛けしたりしないでくださいね。超有難迷惑なので、もし余計な事をされたら2度とギルドを通して仕事をしませんよ」
「うっ、でも若い冒険者が無茶して死なないように配慮するのも受付嬢の大事な仕事なのよ?」
「キングと王狼を単独で瞬殺できるのですよ? フェイだってほらこの通り」
俺はフェイのサーベルタイガーの狩りシーンの動画を見せた。
「フェイちゃん強い! って言うかなにこれ! 素手で倒したの? 格闘家でもあるまいし! その細い足で信じられない!」
「言っておきますが、俺たち兄妹のメインはあくまで魔法ですからね。イリスさんが余計な事して、むさい冒険者が寄ってくるようになったら、もうここには来ないで、直接商人ギルドの方に狩った獲物を持込みしますからね」
「分かったわよ、でも十分気を付けてね」
「『命大事に!』が俺たち兄妹の方針なので安心してください」
契約も済み、小部屋を出て2階のラウンジに行ったら『灼熱の戦姫』が沢山の冒険者に囲まれていた。あの中に入って行きたくなかったが1時間程待たせてしまっている。
知らん顔して逃げるのもないだろうと思い声を掛けた。
「すみませんお待たせしました。ところで、この騒ぎはどうしたのですか?」
まさか、ガラさんに秘密にしてほしいと言われたのに王狼の事をしゃべったんじゃないだろうな。
「ん! いつもこんな感じ! うざい!」
「いつもなら報告とギルドカードの更新を済ませたらさっさとギルドを出るんだけど、今日はラウンジに腰を掛けたので私たちとお近づきになりたい人たちが声を掛けてきてるのよ」
疑ってごめんなさい! 俺たちが遅くなったせいですね。ほんとすいませんです。
「まぁ、綺麗な人が揃ってますから……気持ちは解りますが、逆効果でしょうね」
「何が逆効果なんだよ兄ちゃん……めちゃくちゃ良い女侍らせて、イイ気になってんのか! あぁ?」
うわー、アホが絡んできたよ。この手の奴はどこにでもいるんだな。しかも大抵ランクが低いやられキャラなんだよね。
やられキャラ、可哀想なので、今回は見逃してあげるよ。大金貰っておじさん機嫌がいいのだよ、良かったね。
「何、無視してんだ! それにしても嬢ちゃんの方は綺麗だな! この髪なんかサラサラしてシルクみたいだ! どれどれ―――
『あっ!』と思ったのだが時既に遅し……5mほど先の壁に激突してそのままうずくまって吐血。
あれ、なんかやばくね! いやマジやばいって! 瀕死じゃん! ほっといたら直ぐ死ぬよあれ……内臓破裂ってやつでしょ! 俺は慌てて上級魔法の【アクアガヒール】をかけた。ふぅ、どうやら間に合ったようだ。後ろを見たら『やってしまった』という顔をして泣きそうなフェイが居た。
恐らく前回同様、蹴った事への後悔はないだろう。いつもの事だ、泣きそうな顔をしているのは俺に怒られると思っての事だろう。勿論怒りますよ……実際かなり怒ってます。人ひとり殺しかけたんですからね。
「フェイ! お前何てことするんだ! 死ぬとこだったぞ! 殺人者になりたいのか!」
「兄様ごめんなさい!」
騒ぎを聞きつけたイリスさんが来てくれたのだが、今回の場合フェイが圧倒的に悪い。殺す気はないだろうが、髪を触ろうとしたぐらいで殺しかけたんだ。フェイが繰り出した蹴り足が霞んで見えない程だった。
「この騒ぎは何ですか!? 何があったんです! ギルド内の喧嘩はご法度ですよ!」
「ん! こいつがフェイちゃんの美しい髪を無断で触ろうとした! 死んで当然!」
サリエさん、庇ってくれるのはいいのですが、発言が物騒ですよ。
「それは万死に値しますね! なんで此奴はまだ生きているのですか?」
「イリスさんまで何言ってるんですか!? フェイ、きちんと謝れ!」
「嫌です! 兄様がドライヤーしてくれた髪を汚い手で触ろうとしました! 謝りません!」
またそっちかよ! なんで俺を話に絡めるんだ!
「触ろうとした事に対して蹴った事を謝れって言うんじゃない。蹴って殺しかけた事を謝れって言ってるんだ。殺す程の事じゃないだろう!」
フェイは少しだけ考えた後、冒険者の側に行くとこう言い放った。
「蹴った事は謝りません、ですが力を入れすぎて殺し掛けちゃったことは謝ります。ごめんなさい」
「ふざけるな! 殺しかけておいて『ごめんなさい』で済むと思ってんのか!」
「あなたが悪いのでしょう? 自覚が無いのですか? 美少女の髪に触れていいのは、同じく美少年だけなのですよ」
「はぁ? 何言ってんだ? イリスさんもちょっと可愛いからっていい気になってると路地裏へ連れ込まれるぜ? 夜道には気を付けるんだな!」
アイツバカだとか、誰か止めてやれとか聞こえてくるが誰も止めようとしない。ソロなのかなこいつ。
「へー、この私を脅すのですか。いいでしょう」
イリスさんは、なにか黒い手帳のような物を出して、何か2、3行書き込んでから【亜空間倉庫】に戻した。なんだろうあれ、なにか恐怖を感じたのだが。周りの冒険者は、あいつ終わったーとか囁いてる。
「あの、イリスさん? そのさっきの黒い不気味な手帳は何なのでしょう? なにか只ならぬ気配がしたのですが?」
「何でもないですよ、只のメモ書きです」
ちゃんと答えてくれたのは、イリスさんではなくマチルダさんだった。そっと耳元で囁いてくれたのだがその内容は恐ろしい物だった。
「あれは、噂のブラックリストですね。あれに名が乗ってしまうと、受付嬢一同から冷たくあしらわれるようになるそうです。良い依頼は来なくなり、買取査定も厳しくなるそうです。評価以上に下げる事は無いのですが、これまで大目に見てくれていた多少の傷でも見つけて指摘されるそうです」
なにそれ怖い、美人の受付嬢たちに冷たくされるだけでもう泣いちゃいそうだよ。
「それからリョウマ君たちもギルド内は喧嘩はご法度です。やるなら外に出てからやりなさい」
「外だといいのですか?」
「ええ、ギルドは冒険者同士の諍いには感知しません。仲裁を依頼されれば別ですが、それ以外は自己責任です。但し、外での諍いは憲兵の管轄です。殺せば正当性が無ければ当然殺人罪が記録され連行されます」
「了解しました。と言う訳であんた、謝罪はするけどこれ以上は俺も面倒です。一方的に因縁を付けてきて髪に触れようとしたのは事実ですので、まだ文句があるなら外へ行きましょう。ここからは俺が相手をします」
「それからイリスさん、お手間をおかけしてすみませんでした。他の冒険者の方もお騒がせしました」
「イリスさんごめんなさい。兄様も、恥を掻かせてしまいごめんなさい」
「イリスさん、その、さっきのあれ許してください! 本気じゃないのです! ちょっと粋がってしまっただけです、許してください! それと嬢ちゃんも絡んで悪かった! 酒を飲み過ぎて、気がデカくなっていたんだ! すまなかった!」
イリスさんは、無言で手帳を取出し。シャシャット2重線を引いていた。どうやら許されたらしい。
フェイに絡んだ冒険者も、それを見て安堵の顔をしていた。よほどの危機感を抱いたのだろう。
俺は、冒険者と血ダマリができていた床に【クリーン】をかけ、もう一度フェイと皆に謝ってから『灼熱の戦姫』の皆とギルドを出るのであった。
0
お気に入りに追加
1,495
あなたにおすすめの小説
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
神様との賭けに勝ったので異世界で無双したいと思います。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。
突然足元に魔法陣が現れる。
そして、気付けば神様が異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
もっとスキルが欲しいと欲をかいた悠斗は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―――
※チートな主人公が異世界無双する話です。小説家になろう、ノベルバの方にも投稿しています。
~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。
破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。
小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。
本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。
お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。
その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。
次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。
本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
Switch jobs ~転移先で自由気ままな転職生活~
天秤兎
ファンタジー
突然、何故か異世界でチート能力と不老不死を手に入れてしまったアラフォー38歳独身ライフ満喫中だったサラリーマン 主人公 神代 紫(かみしろ ゆかり)。
現実世界と同様、異世界でも仕事をしなければ生きて行けないのは変わりなく、突然身に付いた自分の能力や異世界文化に戸惑いながら自由きままに転職しながら生活する行き当たりばったりの異世界放浪記です。
異世界ハーレム漫遊記
けんもも
ファンタジー
ある日、突然異世界に紛れ込んだ主人公。
異世界の知識が何もないまま、最初に出会った、兎族の美少女と旅をし、成長しながら、異世界転移物のお約束、主人公のチート能力によって、これまたお約束の、ハーレム状態になりながら、転生した異世界の謎を解明していきます。
スキルが全ての世界で無能力者と蔑まれた俺が、《殺奪》のスキルを駆使して世界最強になるまで 〜堕天使の美少女と共に十の塔を巡る冒険譚〜
石八
ファンタジー
スキルが全ての世界で、主人公──レイは、スキルを持たない無能力者であった。
そのせいでレイは周りから蔑まされ、挙句の果てにはパーティーメンバーに見限られ、パーティーを追放させられる。
そんなレイの元にある依頼が届き、その依頼を達成するべくレイは世界に十本ある塔の一本である始まりの塔に挑む。
そこで待っていた魔物に危うく殺されかけるレイだが、なんとかその魔物の討伐に成功する。
そして、そこでレイの中に眠っていた《殺奪》という『スキルを持つ者を殺すとそのスキルを自分のものにできる』という最強のスキルが開花し、レイは始まりの塔で数多のスキルを手にしていく。
この物語は、そんな《殺奪》のスキルによって最強へと駆け上がるレイと、始まりの塔の最上階で出会った謎の堕天使の美少女が力を合わせて十本の塔を巡る冒険譚である。
修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す
佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。
誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。
また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。
僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。
不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。
他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる