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第42話 自殺

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 俺はナビーから妹の本当の気持ちを教えられ、その場に泣き崩れてしまった。
 今頃あいつは、俺に避けられたまま死なれてしまって、凄く後悔しているんじゃないだろうか?

 土日に良く来て掃除やら夕飯を作って帰ってたのは、やはり俺に好意を持っていたからだったのだ。
 それなのに俺は気持ち悪いと避けて逃げていたのだ……あいつはどんな気持ちでいたのだろう。

「ヤクモ?」
「八雲君?」

 すぐには返事できなかった。

「…………ナビーが言うには、やはり俺の事が好きだったみたいなんだ……グスン。俺は自分が理解できないからと、ずっとあいつを避けてたんだ。あいつはどんな気持ちでいたんだろう? 好きな相手に気持ち悪いとゲロまで吐かれて、おまけに避けて転居までして、誤解したまま死なれてるんだよ。あいつは謝る事もできず、一生後悔するんじゃないかな? そう思うと可哀想で……」

「そっか……ヤクモ優しいのね」
「そういうところを妹さんは好きだったんじゃないかな?」

『♪ マスター、大変申し上げにくいのですが、妹さんは現在22歳の大学4年生で、もっか大恋愛中です……』

「エッ!?……あ、そうか……ちーちゃんを引き込むために時間の流れを弄ったんだったね……でも大恋愛中なの?」

『♪ はい。お相手は少しマスターに似てる雰囲気のようですが……幸せそうですよ』

「なに? どうしたの?」
「八雲君? 私がどうしたの?」

「ナビーが、妹は現在22歳の大学4年生になってて、現在ちょっと俺に似た雰囲気の彼氏と大恋愛中だって……」
「あらら……でも、ヤクモはもう死んじゃったんだから、おめでとうで良いんじゃない? そう簡単に割り切れないかな?」

「八雲君的には複雑ね……素直には喜べないか。でも、私がその事で何か関係があるの?」
「ああ、それね。俺がこの世界に転生して、こっちでは2週間ほどしか経ってないんだよ。でも日本では7年が経過してるんだ……どうも俺のヒーラーが見つかるまで、こっちの時間経過を遅くしたようなんだ」

「それって、あなたの為だけにこの世界の時間を歪めたの? 私はそれにまんまと捕まっちゃったって事?」
「俺にも分かんないよ……ナビーも詳しくは分からないし、教えられないんだって」

「ふ~ん……」

 ちーちゃんはそう言って少しの間黙ってたのだが、急に語りだした。

「私が男性を怖がる理由も、やはりあなたたちには教えておくわね……」
「良いのか? 言いたくない事なんだろ?」

「ええ、やはり八雲君は気付いてたのね……私、皆と違って自殺したのよ」

「「エッ!?」」

「どうして自殺なんか……」

「私だって死にたくなかったわよ……順番に経緯を話すわね。友人が中等部の頃のクラスメイトに誘われてライブを見に行くからライブハウスに一緒に付いて来てほしいって頼まれたのが事の始まりなんだけどね」

「もうなんとなく読めた……」
「うん。八雲君、多分それで合ってる……」

「エッ? どういう事? わたくしにはさっぱりですわ?」
「じゃあ、一応ミーファの為に分かりやすく説明するわね」

「ええ、お願い」

「ライブハウスっていうのは何て言えばいいかしら……ちょっと危ない人たちもやってくる、歌を聞かせる小屋? 説明が難しいけど、ちょっと危険な場所なの。ライブが終わった帰りに、私の友人の中学の頃のクラスメイトの娘に誘われて、あるバンドグループのボーカルの家に行くって話になったのよね。私は勿論危ないから止めようって言ったんだけど、友人はファンだったらしく、どうしても行きたいって……まぁ、お約束通り、その元クラスメイトに騙されてたわけなんだけど。マンションに入るなり酒やマリファナなんか吸ってる奴が7人も居て、速攻で逃げようとしたんだけど捕まっちゃって、友人は3人の男にビデオを撮られながら、私の目の前でレイプされたわ。ビデオを撮ってたのが彼女の元クラスメイトの娘で、彼女も同じように最初はこういう風に連れてこられ、ビデオを撮られて……以降はそれをネタに脅して同じように誰かを誘って連れて来いという感じね」

「ビデオっていうのは? ああ、動画が記録できる機械の事ね?」

「ええ、それで合ってるわ。彼らの狙いは、私の友人じゃなくって、私だったのよね……私の友人を散々犯した後、『さぁ、本日のメインディッシュだ』とか言って私を犯そうとしたの……玄関側は何人か居て逃げられないようにしてて、結局ベランダに出て叫んで助けを呼ぼうとしたんだけどね……」

「バンドやってる奴らが借りてるとこだ、防音が完璧にされてる所だったんだろ?」
「ええ、そのとおりよ。サッシは2重サッシで音なんか殆ど聞こえないの、あんな屑な奴らにみすみす犯されるくらいなら死んだ方がマシと思って、16階から飛び降りちゃった」

「チホ! あなたのその気丈さは、貴族の誇りと同じものです。立派ですよ!」

 俺はミーファの言ってることが理解できない。

「何ですヤクモ? 何か言いたそうね……」
「俺はミーファの言ってることが理解できない。ちーちゃんの気持ちは解るんだけど。残された家族は居た堪れないだろうな……死んだ人間は死んでそれまでだろうけど……残された家族は一生そいつらを恨んで過ごさないといけなくなる。ちーちゃんの恋人はどんなにショックだっただろう? 今も君を想って悲しんでるんじゃないかな? 体は穢されても、きっと生きていてほしいと願ったと思う……」

「ヤクモの考えも解らないではないけど……貴族は生き恥晒すより、誇りある死を尊びます」
「ちーちゃんは貴族でも王族でもないんだよ? それに、ミーファがそんな事で死んじゃったら、俺は凄くやるせないし悲しい……」

「ヤクモの優しさは嬉しいけど……ごめんなさい。もしそんな目に遭ったら迷わず死を選ぶわ。もし死んでほしくないなら、ヤクモがわたくしをそんな目に遭わないように守って頂戴」

 ミーファの貴族的思考は理解できないが、なら守れってか……勿論可能な限り守るよ。

「そうだね……頑張って守るようにするよ。ちーちゃんが男性を極度に恐れる理由も解ったので、できるだけ近寄らせないようにするね」

「ありがとう八雲君、でも私は女子高だったので、彼氏なんか居なかったわ。家族には申し訳ないとは思ってるけど、どうしても嫌だったの……」

「そっか……でも、それなら俺とこうやって同じ部屋とか嫌なんじゃないか?」

「そうなんだけどね……冒険者云々を聞いてると、これから先も何度もこういう事はあると思うの」
「ヤクモは美人な2人と同じ部屋で寝られて、素直に喜びなさいよ」

「素直にね……正直に言うと、嬉しいが半分……吐きそうなのが半分」
「「失礼な人!」」

「一種のトラウマなんだから仕方ないだろ! その原因を作った妹は、とっくに違う男作っちゃってるようだけどね」

「7年も経っているのなら仕方ないんじゃない?」
「どうだろう……俺の母さんも父さんが亡くなって3年ほどで違う男を好きになってたしね。女なんか元からその程度の愛情しかないのかもね」

「それは人それぞれじゃないかな? 八雲君の主観で言っちゃダメだと思うよ」

『♪ マスターの妹さんも、最初の1年間は酷い状態だったようですよ。只々後悔と自責の念に囚われて泣くばかりだったようです。大学に入って、例の彼と知り合ってから、やっと元の状態まで回復できたのです。マスターの言ったとおり、死んだ人間の方が残された者より楽で幸せですよ』


「じゃあ、ヤクモがオイタしないように、簡単に決め事をしましょうか」


 着替えを覗かないとか、寝顔を見ないとか……そんな事のようだ。
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