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学園ロワイヤル編 2日目

1-2-8 ミニキャロット?獣の足跡?

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 薬草採取の為に森に分け入るといってもすぐ側だそうだ……これはナビーに丸投げした。

『ではナビー先生よろしくお願いします』
『……マスターの為にならないので少しだけですよ』

 少しだけといいながら、俺のタブレットに薬草・魔力草・毒消し草・周辺で採れるキノコの写真と採取方法が詳細に記載されたものが表示される。web上で検索をかけたような表記の仕方だ。

 探索MAPに分布図まで詳細に表示してくれている。
 有難い、物凄くナビーの愛を感じる。

『本当にすぐ側にいろいろあるんだな』
『……元々学園の転移された場所が森の中ですからね。上に登っていくと、そのまま大森林の中に分け入ってしまいます。この辺はまだ山の麓、森の入口と言っていいでしょう。そのまま少し下ると平原が広がっています』

『今回は600m程離れた場所にある、沢の周辺に行けばいいんだな? 現物を見た事無いので、写真と採取法は助かる』

『……詳しい採取法はフィリア様にお聞きください。ご存知だと思います』


 沢の近くに行き、条件検索を指定して【周辺探索】を発動した。
 【詳細鑑識】との併用で指定の物だけ光点で表記させることができるのだ。

「フィリア、この薬草だが採取法とか分かるか?」
「ふむ、薬草の採取はそう難しくはない。こうやって少し土を掘って出てきた首を持って引っこ抜くだけじゃ。じゃが葉や根を傷つけてはならぬぞ、すぐにそこから傷んでしまう。優しくそっとゆっくり抜くのじゃ」

「龍馬君、これが薬草? どう見てもミニキャロットにしか見えないんだけど……」
「人参よりかなり細いけど色とか草の部分はまんまそうだな。美味しそうに見えるけど、このまま食えるかな?」

「薬草なのじゃ、当然食べられるが苦いぞ」

 桜は躊躇なく土を落としたかと思ったらパックリいった。次の瞬間何とも言えない渋い顔をする。
 それでも吐き出さずに咀嚼して飲み込んだ。

「見た目と味がまったくマッチしなくて衝撃的だったわ」

 俺も少しかじったが、少し苦い生の人参の味を想定してかじったものだから、少し体がブルッと震えてしまった。それほど強烈な苦みがあった。

「うげっ! これを抽出するとさらに苦くなりそうだな……桜、味の改善とかできないか?」
「このまま飲むのは嫌だわね……ベジタブルジュース感覚で少しいじってみるわ」

 味をいじって効能が薄れるならダメだが、桜に任せる事にしよう。このままの味はちょっときつい。

「ここは良い場所じゃの、かなりの密度で群生しておる。じゃが1カ所で採取し過ぎぬことが大事じゃ。大きいのも小さいのもダメじゃ、このくらいのサイズの物を間引くように採取すると良い」

「だそうだ。ある程度採ったら次は魔力草と毒消し草の採取にする。フィリアと俺と桜と岡村先輩の4人はキノコ採取をするから他の者は薬草を集めてほしい」

「龍馬君、キノコ組と分けたのはどうしてなのかな?」
「キノコはこっちの世界でも危険なんですよ。死に至る物もあります。フィリアは元々詳しいし、俺には詳細に調べられる鑑定魔法があるので問題ないです。桜は料理部なのである程度詳しいし、どうせ知りたがるだろうと思い、面倒なので先にメンバーに組み込みました。岡村先輩はそっち側に教える為にですね。迷いそうな似た種がある物は教えませんので、間違わないような安全種だけ採取しましょう」

「そうね、その方が助かるわ。微妙な違いとか判らないからその辺の品種の選定は任せるわね」

 舞茸、椎茸、平茸、冬山茸、榎茸、なめ茸、いろいろ沢山採れた。赤松が無いのに松茸も生えている。

「この辺が分かり易くて間違いの少ないものだ。松茸がごろごろあちこちで生えてるのはおかしいけど、異世界仕様なんだろうな」

「今晩は松茸で茶碗蒸しも良いわね。一品追加で作ろうかな」
「贅沢に食材を使うのは良くないけど、在庫の配分は料理部に任せるな」

「ええ、任せといて。葉材のかけらも無駄にしないから安心して」
「その辺は料理部がいると安心だな。薬草も結構集まったようだし、次は魔力草と毒消し草を集めるか」

「おーい! みんな1回集まってくれ!」

 各自そこそこの量を採取しているようだ。傷む前に俺の【インベントリ】に入れておく。

「皆、集合したみたいね」
「じゃあ、次は魔力草と毒消しだね。この辺にも結構あるみたいだけど、採取場所は少し沢の上の方に移動します。皆が散らばり過ぎて迷子とか出ても厄介だし、1カ所で群生してる場所があるのでそこに向かうね」

 30分ほど沢を上った辺りに沢山反応が出る。ナビーの分布MAPどおりだ。

「じゃあ、フィリア、また採取法をお願い」

「ふむ、まずはこの魔力草じゃが、地上にはあまり出ておらぬ。このちょろっと生えとるニラのようなものが目印じゃ。魔力を溜め込んでおるのは土の中に隠れておる根の部分じゃ」

 自然薯を掘るように大きく周りの土を掘り、根を傷つけないように周りからごっそり掘り出す。

「これ、なんか根の部分は高麗人参みたいだね、色とか形はそっくりだ」
「地面から出ている部分はニラっぽいけどね」

「魔力草は夜間に花を咲かせ、その花が魔力を取り込むのじゃ。だから魔素の濃い場所にしか生えておらぬ。薬草と比べたらかなり希少な物ゆえ、冒険者も新人組では買えぬほどに高価なものじゃ」


 5mほど離れた場所に移動する。

「これが毒消し草じゃが、この種だと中級解毒剤までのモノが作れるかの」

「ちなみに、薬草と魔力草の等級は?」
「素材で言えばどっちも中級までじゃが、中級と言っても10段階までの等級があるゆえ、其方らの道具次第じゃな。やってみぬことには分らぬ。素人が作るんじゃ、初級のものでも出来れば上出来ではないかの」

「それもそうか……無いよりマシ程度に考えないとな」

「でもこの毒消し草って浜薊(はまあざみ)みたいだね……食べたら美味しいかも。浜薊の天婦羅美味しいのよ」
「桜はなんでも食材に見えるんだな……イテッ! うわこいつ棘がある、イガイガが一杯でてるぞ!」

「この毒消し草は葉の部分は使わぬ。根だけ使うのじゃが、葉の割には根は細くて短い。棘もあるので採取が面倒で多少怪我もする。厄介じゃが草原や森には毒持ちの蛇や毒草もあるので、多めに採取しておくがよい」

「あ! このゴム手袋があった! 皆、これを付けて採取して」
「兄様、いいの持っているのじゃないですか! 最初から出してくれていれば爪が傷まなくて済んだのに!」 

「ごめんよ、忘れてた」

 女子から冷やりとした視線を感じる。手荒れとか気にしますよね。すみませんでした。
 15分ほど固まって上に移動しながら採取していたのだが、桜が制止してきた。

「龍馬君、ここちょっと危険かも!」
「どうしたんだ?」

「熊と猪の足跡があるの! どっちも新しいものよ! ここを水飲み場にしているみたい。すぐに離れた方が良いわ! どっちもかなりの大物よ!」

 何かあったらナビーが警告してくれるから心配はしていないが、念のために調べておく。

「あ、ホントだどっちも居るね。熊は900m離れてるけど、猪は300mほどの所にいるみたい」
「龍馬君、急いで離れよう!」

「え? なんで?」
「何でって、危険じゃない!」

「今の俺たちめちゃくちゃ強くなってるんだよ? 剣も魔法もあるんだよ? 熊も余裕じゃないかな?」

「あ! 強くなっているの忘れてた!」
「兄様! 牡丹鍋食べたいです!」

「菜奈ちゃん! それ良いわね! キノコも一杯採れたし、夕飯は牡丹鍋にしましょう!」

「龍馬君! うちにも猪肉を分けてもらえないかな?」
「まだ狩ってもいないのに、岡村先輩まで何言ってるんですか……分かりました。皆で行くと逃げられるので、俺が狩ってきます」

「あ! 私も行きます! 【隠密】はLv5です。足手まといにはならないと思います」
「じゃあ、大丈夫だね。2人で行くので他はここで待ってて」

 女子寮組の斥候担当の娘が付いてきた。少しでも係わって、女子寮側の肉の取り分を多くしたいのだろう。独自の判断ですぐに参加意思を伝えてきたこの娘は頭が切れる。取り分の事で後で文句を言うやつらより、こういう娘は好感が持てる。

「後100mほどなので、俺たちの周りに音消しの魔法を張ります。俺が首を落として終わりでしょうが、もし逃がした場合を考えて、反対側の方からこっち側に向かって攻撃をしますので、目視できる位置に移動したら別れましょう」

 20mまで近づいたのだがデカい猪だった。日本猪だと100kg程度のはずだが、こいつは300kgぐらいありそうだ。ロシアの方だと500kg以上のもいるそうだが、それ猪かよってぐらいのものだ。こいつもかなり大きい。秋なので冬に備えてかなり肥え太っている。う~ん、こいつ美味しいのかな?

 猪は穴を一生懸命鼻と足を使って掘っている。掘っているところの上を見たら、黄色いハート形の葉をした蔓が木をつたって上に伸び上っている。どうやら自然薯を食べるのに穴掘りしているようだ。

 穴掘りに必死なのでこちらに気付く様子もない。

「今がチャンスなので、先輩はここで待機していてください。俺は逆側に回って魔法で攻撃しますので、しくじった時はお願いします」 

「あの、予想以上に大きいのだけど大丈夫かな?」
「多分大丈夫でしょう。行きますね」

「多分……」

 不安げにボソッとつぶやいたが、逃がすと桜と菜奈に顰蹙を買いそうなので確実にいくつもりだ。
 猪の首に【ホーミング】魔法で狙いを付けて中級魔法の【ウィンダラカッター】を発動した。

 ザシュッと空気を切り裂く音と同時に首が落ちた。まだピクピク痙攣しているこの間に血抜きをしろと茜に言われているので【魔糸】で近くの大きな木に吊り下げる。【身体強化】MAX状態なので【フロート】で重力操作をしなくても簡単に吊り下げる事ができた。

 桜たちに無事狩れたと連絡を入れ、血抜きをする間はその辺で採取をして待っててくれと伝える。
 血抜きの待ち時間に、一緒にきていた先輩と少し話をした。

「なんかあっけなく簡単に仕留めたけど、龍馬君凄いのね。首に正確にスキルを当ててたけど、【精密】とかも上げているのかな?」

「ちょっと違うけど、似たようなものですね」
「これも秘密なんだ……まぁいいけど。生き物を殺すことに忌避も無いようね」

「オークを殺したとき最初は俺も手が震えましたよ。人型なので疑似的殺人の気分でした。あいつ等にも子供や家族がいると考えたら躊躇しますよね」

「私はオークに対しては憎しみしかないわね。クラスメイトや部活の後輩も一杯殺されたから……まだ猪の方が可哀想だわ」

「そうですか……俺もスポーツハンティングとかは好きになれないですけど、食材として狩る分には平気ですね」

「狩りとかにはあまり興味ない?」
「そんな事はないですよ。元々日本人の祖先は狩猟民族ですし、俺も嫌いじゃないです。でも釣ったり狩ったりするなら、ちゃんと食って供養しろよとは思いますね」


 年上のお姉さんと、そんな感じの取り留めのない会話を楽しんでるうちに、猪から血の滴りがなくなった。

「もういいようですね、戻りましょう」

 【インベントリ】に入れる前にお姉さんと吊った状態の猪と写メを自撮る。別に記念撮影とかではない。
 すぐに茜に写メを送り、この猪の解体の準備をしてもらう。大きさが分かるように俺たちも写真に入ったのだ。

 1分もしないうちに茜から歓喜のメールが返ってきた。すぐに帰ってこいと息巻いている。 
 とりあえず皆と合流だ。



「ただいま。無事狩れたよ」
「兄様お帰りなさい! 早く猪さん見たいです!」

「龍馬君おかえり、怪我はなさそうね。茜から連絡があって、早く帰ってこいってうるさいのだけど、そんなに凄いの狩れたの?」


 【インベントリ】から出して皆に見せてやる。

「「「大きい!」」」

「魔力草も毒消し草も結構採れましたね。キノコも沢山採ったんですね」
「キノコは時期ものじゃからの。今の時期しか採れぬものも多い。確保しておく方が良かろう」

 鑑識魔法で一応確認し、全部食用と出たので【インベントリ】に収容する。


 拠点に戻るとすぐに茜がやってきて桜と解体を始めた。女子寮からも解体を習いたいと数名がきていて、一緒にああでもないこうでもないと楽しそうに捌いている。俺は血の匂いでウッてなるのに……。

 猪の肉は、桜たちの協議の結果、女子寮にも半分あげると決まったそうだ。狩ったのは俺だがへタレな俺は分配を自分で決めかねたのだ。女子寮の方が人数が多いので6:4とかにしたら料理部が文句言いそうだし、判断を桜に委ねたのだった。

 俺たちがいない間に、小規模なオークの集団が何回か来たそうだが、B班で撃退してレベルが皆1つ上がっているそうだ。雅がいるから心配はしてなかったけど、皆、頼もしくなったものだ。



 肉の熟成はされてないけど、牡丹鍋美味しそうだね。
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