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商都フォレスト編

3-1 司祭様?公爵様?

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 やっと商都に辿り着いた。

 門内に入ったのだが、神官風の人と身なりの良い貴族風の者が待っていた。『勇者様はどなたでしょう?』と訪ねてきたので、美咲先輩が前に出て話を聞く。

「勇者様、お待ちいたしておりました。私がこの街の司祭を務めさせていただいている、カールと申します。そしてこちらのお方が、この街の領主のフォレスト公爵様でございます」

「ふむ、この街の領主のマリウス・B・フォレストだ。長旅で疲れたであろう」

「この度、勇者召喚に応じた、柳生美咲と申します」

 あれ? 美咲先輩、随分かしこまった言い方知ってるな……俺そんな喋り方知らないぞ。申しますとか、生まれてこの方一度も言ったことないな。

「ヤギュ・ミサキと申すのか……」
「あ、いえ……ミサキ・ヤギュウになるのでしょうか? 姓がヤギュウ、名がミサキです」

「ヤギュウ殿でいいのかな? 今日は疲れていると思い、2カ所の宿と何カ所かの配下の屋敷に泊まれるようにしてある。勇者殿は我が領主館に招待するので、それ以外の方たちはそちらで話し合って、各々好きな所に泊まるとよいだろう」

「お待ちくだされフォレスト公、勇者殿は神が迎え入れた使徒様なのです。我が神殿にきて頂くのが道理でしょう」

 あらら、さっそく勇者争奪戦が始まったよ……待ってる間にそういう話し合いもしてないのか? それに『ヤギュウ』は発音しにくいのか、勇者殿と言ってるよ。

 美咲先輩は俺の方を見てきた……やっぱ美咲先輩は全く知らない地で、独自で判断するのは怖いんだろうな。俺や桜みたいにちょっと捻くれたラノベ知識がないと、直ぐにどこかの組織に取り込まれて、良いように使われそうだ。俺もこういう権力争いはよく解らないので、ここはナビーに頼る事にする。

『ナビー、この場合どっちを立てた方が良いんだ?』
『……公爵というのは、貴族の中では最上位、王家の直系です。マリウスは現王の弟にあたる方なので、顔を立てるなら領主館に先ず向かうのが宜しいですが、勇者召喚は主神のフィリア様が行われたので、神殿側の立場の方が上になります』

『で、結局どうするのがいいんだ?』
『……神殿は国に属さない機関ですので、マスターがどちらかに属すなら神殿側ですが、どっちに属すのも嫌なのですよね?』

『だな、どっちに利用されるのも嫌だ』
『……では、両方お断りするしかないですね。明日、こちらから訪問って事でどうですか?』


「ちょっといいですか? 折角用意してくださったのを申し訳ないのですが、俺たちはどちらにも泊まるつもりはないです。年長者に敬意は払うけど、この国どころか、この世界の者ですらないので、相手が誰であろうと平伏するようなことはしません。勇者がどこかに肩入れすると、いろいろ問題なので、あくまでも第三勢力として扱ってもらいます」

「君は?」
「俺はリョウマといいます。彼女の婚約者で、群がるハエから守るガーディアンでもあります」

「我々をハエと申すか……」

 語気は静かだが、表情から察すると、公爵様はちょっとお怒りだ。

「いえいえ、宿泊先まで手配してくださり、快くお迎えくださった領主様と司祭様をハエなどとは思っていませんよ」

「それならよいが、あまり不敬な事は申さぬ方が良いぞ……儂にも立場というものがある。儂をハエと申したのなら、名誉の為に戦わねばならぬでな」

 うわ~! 貴族めんどくせ~!

『……今の言い方はマスターが悪いですね。大影より酷い暴言です……口は災いの元ですよ。貴族に対しては十分気を付けてください。あれでは喧嘩を売っていると思われても仕方ありません』

『分かった……』

「すみません、そういうつもりは全くなかったのです。そこの冒険者たちからしつこい勧誘を受けたもので、ついそういう発言をしてしまいました」

「ちょっと、リョウマ君! それって私たちがハエって事?」

『……さっき言ったばかりなのに……マスター、結構お馬鹿ですね……』

「違うんだレイラさん……ごめんなさい」

 片膝ついて公爵さまに平伏していたレイラさんがキレた。ミラさんとアーシャさんに押さえつけられて、再度公爵様に頭を下げさせられていたけどね。

 色々今回やらかしてしまった……。

 まず、婚約者宣言を聞いた美咲先輩が壊れた……顔を真っ赤にして嬉しそうにデレている。そして、嫁たちから冷たい視線が注がれている……以前に許可は得ているはずなのにな~。レイラさんも凄く怒ってた……そんなつもりはなかったんだけど……つい出た言葉が悪かった。三田村先輩や格技場の奴らからの視線も痛い。宝石商のバグナーさんも、公爵様に直で会い焦りまくっている。

「宿が要らぬと言っても、今晩どうするつもりなのだ? この寒空の下で野宿でもするつもりなのか?」

「領主様にどこかに空地を譲ってほしいです。街中になければ門の外でも結構ですが、できれば門の中がいいですね。ここの領地に100名ほど残りますので、頂いた空き地に仮設の建物を召喚します」

「建物を召喚? 建設なら分かるのだが……言っている事がさっぱり解らぬ……」

 百聞は一見にしかずって事で、門の直ぐ外の街道に、ログハウスを召喚してみせた。

「なななっ! どうなっておる!? まさか異界より家を召喚したのか?」
「ええ、拠点はこれより20倍ほど大きいのでそれなりのスペースが必要です」


 簡単に説明したら、なんと、貴族側にある土地を頂けることになった。

 この街中の移動中、至る所で糞尿の匂いがして臭かった。立ションなんか当たり前なんだろうな……衛生面はかなり悪いようだ。貴族側の領地に入ったらかなり緩和されたが、それでも【身体強化】や【嗅覚強化】がある俺には我慢できないレベルだった。ハティなんか尻尾も耳も項垂れてしまっている。

 早急に【クリーン】付きトイレを売り込んでやる!

「庶民側の土地では、コソ泥や平民が悪さをする可能性もあるのでな。貴族側の領内では、通行許可がないと平民は入れぬので、幾分安全だ」

「ご配慮ありがとうございます」

 早速もらった場所に大型拠点を召喚した。


 これには公爵だけではなく、司祭や護衛の騎士も口をあんぐり開けて呆けていた。

「この後、領主様のお屋敷で今後の予定を伝えたいと思いますが、お時間は宜しいでしょうか?」
「勿論構わぬ。そうしてくれないと領主として儂も顔が立たないので、有難いくらいだ」

「ごめんなさい。貴族に対してのそういう配慮は今後も致しません。俺たちは女神の意を汲んで行動しますので、国家間の勇者争奪戦や、神殿の派閥争いには一切関知も配慮もしません」

「ふむ、言ってる事は理解できるのだが、神殿や国の援護なしじゃ、いくら勇者様とて大したことはできぬだろう?」

「いえいえ、俺がその気になれば、この商都など10秒で更地になりますよ」

 俺は脅しもかねて、【無詠唱】で上級魔法の【ファイアガボール】を上空に100発浮かべた。勿論見せるために浮かべただけで、実際に発動はしないけどね。だが、その熱気だけで恐怖を感じた事だろう。

「幻ではなく……【多重詠唱】の100連発……恐ろしい」

 ちょっと脅しが効き過ぎたようだ……腰を抜かした衛士が数人いたほどだ。

 拠点に皆を残して、俺と美咲先輩、高畑先生、山本先生、美弥ちゃん先生そして三田村先輩に同行してもらう。皆、街に出たいと騒いでいたが、今日は外出禁止にした。

 拠点前に衛兵を数人置いてもらって、勝手に街に行こうとしたら捕縛してくれと頼んでおく。皆、ぶーぶー文句を言ってきたが、この国の法律も一般常識もないまま街に放つのは危険だと判断したためだ。

 地球でも唾を吐いたり、立ちションしただけでも罰金刑が発生する国も有るのだ。この世界の常識や法をある程度知らないまま出歩くのは危険だ。

 ウインクされてそれを返したら、即結婚成立とかあったら恐ろしすぎる……。


 ここで、バグナーさんやレイラさんたちと一旦別れる。アレクセイは部屋が足りないので、今日は宿代を渡してレイラさんのパーティーに預けることにした。お礼に今晩の酒代として1万ジェニーあげたら喜んで引き受けてくれた……アレクセイにも飲ませてくれるかは怪しいけどね。

 お屋敷を出せば良いのだけど、体育館組にパラサイトされそうなので、ここではまだ出したくない。

 例の穀潰し娘と盗人猫はバグナーさんに預けて奴隷商に売りに出してもらうことにした。
 水谷先輩が美少女2人を見て『可哀想だろうが!』とか騒いでいたが、1人5千万ジェニーで売ってやるって言ったら尻込みして大人しくなった。ここで借金してでも彼女たちを買い取ったらカッコイイのだが、結局騒いだだけで何もしない冴えなさが目立ってしまい、また女子に引かれていた。

 彼女たちに同情する女子も多かった……。

「俺に文句を言うくらいなら、誰でも良いので買い取って下さい。買ったらちゃんと面倒を見る必要が有るのを理解したうえで買ってくださいね」

 何故売るかの理由を言っているので、買い取ってまで庇うような者は1人もいなかった。

「俺には可哀想というのに、自分たちは結局口先だけですか……正直、俺はあなたたちみたいな人が一番嫌いです。自分で行動は起こそうとしないのに、人にはあれやこれやと不平不満ばかり……」

「「「!!…………」」」

『……また余計な一言を……嫌いと言った相手に良い感情を持つ人は居ないのですよ……』

 ナビーの言うとおりだが、こんな口先だけのやつらと仲良くしたいとも思わない。別にどう思われてもいい。


 ダリルPTには明日の朝、冒険者ギルドの案内と借用の為に一度拠点にきてもらうようになっている。根は良いやつらなので少し可哀想だが、女を犠牲にして自分たちのパーティーだけ逃げようとしたペナルティーは負ってもらわないとレイラさんたちが納得しないだろうからね。まぁ、護衛対象を放り出して女を盾にして逃げたパーティーというレッテルが付くよりは、払える金額で揉み消してやるのだからそっちの方が将来的な事を考えればずっと良いはずだ。

 護衛対象を置いて逃げるPTに、冒険者ギルドも条件の良い護衛依頼は二度と斡旋してくれないだろうし、商人もそういうパーティーは雇わないだろう……商人のネットワークは要注意なのだ。

 盗賊と馬は取り調べが済み次第、商業ギルドの方に適正価格で売ってくれるそうだ。

 魔獣のハティは、本来【従魔の首輪】というアイテムを付けないと街には入れないようだったが、明日でいいと今は免除されている。

 子犬だから危険はないだろうって事だが……王種になってるとかばれたら大騒ぎになるかもね。

 雑務が粗方片付いて、これで一息つけそうだ。



 拠点にもらった土地から領主屋敷までは、それほど離れていなかった。馬車移動だったし、5分程度で到着した。

「なるほど、では勇者一行のメインパーティーは明後日には商都を発って、王都の兄者に会いにゆくのだな?」
「ええ、その予定です。でも、聖女に会いに行くのであって、国王様に会うのはあくまで義理を通すためです」

「ふむ、だがそういう事は大事なのだぞ?」
「はい。なので、明日にでも拠点の方に色々この国の法律や規則を教えていただける方を派遣してくださいませんか? 何分そういう知識が全くないので、知らない間に犯罪者になっていたら大事ですからね」

「そうだな、了承した」
「指導員は女性でお願いします。それと、日はずらしても良いですが、冒険者ギルドと商業ギルドからもできれば指導員を1人ずつ寄こしてほしいです。こちらから行くと、人数が多いので大混雑するでしょうからね」

「それもあい分かった……いろいろ、配慮はしてくれているのだな……そうそう、山間に取り残されている者の救出に明日出立するが、案内に同行する者は決まっているのか?」

「ええ、この三田村のパーティーメンバーの者が4人行ってくれるそうです」
「龍馬、俺も案内について行くことにした……」

「そうですか、先輩が行ってくれるなら安心ですね」

 美咲先輩の事は諦めたみたいだな……その方が彼の為だ。逆の立場なら耐えられない……好きな女が目の前でいちゃいちゃされたら、嫉妬に狂いそうだ。

『……三田村の好きは、マスターで言えば井口程度ですからね。この世界に転移していなくて、元の世界で普通に学園生活をしていたとして、結局自分から告白する事もできず、そのまま卒業してお別れだったでしょうね』

『好きでも、そう簡単に告白とかはできないか……俺も中学の時そうだった……好きな子はいたけど、告白なんて一度もできなかった……』



 公爵家で今後の予定や周辺の情報をいろいろ聞いていたが、この公爵様、意外と気さくで話しやすい。

『ナビー、この人結構いい人だよな?』
『……はい。善人ではないですが、悪人でもないですね……公爵という肩書に見合った人物だと思います。なかなか良い領地経営をされているので、領民からも慕われているようです』

『神父の方はどうだ?』
『……神父は勿論善人ですよ。なにせ神が選んだ人物です……教会に基本悪人は居ません』

『基本? 中にはいるって事か?』
『……神が選んだ神父にはいないですが、スポンサーの貴族が出入りしたり、神が選んでいないボランティアのシスターの中には、稀に性悪な娘が居るようです。信仰値の低い悪人は神殿には入れないので、あくまで性悪って程度です』


「司祭様、神殿には明日お伺いする予定ですが、宜しいですか?」

「そうですか……夕食をご用意していたのですが、残念です」
「それを言うなら、我が館も用意していた」

「美咲先輩どうします? どちらかで食べてから帰りますか?」

「いえ、私はやはり中立でいないといけない立場だと思いますので、情報提供以外ではあまり立ち寄らないほうがいいと思っています」



 そんなこんなで食事は辞退して、貴族街の外れの拠点に帰った。
 今日から美咲先輩、柴崎先輩、大影先輩が新たに加わって、ログハウスも大人数になった。


 夕食時、奴隷たちを見ていたのだが……セイラが中心にいろいろ世話をしているみたいだ。
 セイラは元商人の娘で、17歳だったかな。

「お前たちのリーダーはセイラみたいだな?」

 奴隷娘たちが美味しそうにバクバク食べながら頷いている。口の中いっぱいだから、返事できないんだね……。

「いえ、私、別にリーダーとかじゃないです!」
「でも、面倒見がいいから、皆に慕われてるように見えるが? ルフィーナの方が1つ年上みたいだけど、彼女は大人しそうだしね」

「ご主人様、ごめんなさい……」
「ん? ルフィーナ、別に大人しいからって責めてるんじゃないぞ。むしろそれくらいの方が良い。あまり騒がしいのは好きじゃないしね」

 俺の言葉を聞いてほっとしたようだ……そういえば彼女は幼少時からオッドアイって事だけで、ずっと虐められてたんだったな。おそらく下手に家族以外と喋ったら、それだけで罵られて虐められたんだろうな。

「アルヴィナ、ルフィーナ、お前たち2人は【奴隷紋】こそ残しているけど、庇護の為であって、扱いは奴隷じゃないからね。それに他の者もここじゃ奴隷扱いはしないので、不安がる事は全くない。性奴隷として売られたようだけど、俺には沢山可愛い嫁が要るので、性奉仕の必要もないから、そっちの心配もしなくていい」

 皆、一斉に安堵の顔をした……そこまで嫌がられると俺、傷ついちゃうよ? 敢えて性奉仕させちゃうよ?……桜たちにばれたら怖いのでしないけどね。


 うん?……ミーニャ、元気ないな……お母さん結構ヤバいのかな?

『……もって数日ですね……症状から、おそらくは癌ではないかと思われます』
『癌って場所によっては凄く痛むそうだよね……もう外は暗いけど、今から行ってやるか』


「ミーニャ、明日って言ったけど、お前の元気がないから、今からお母さんの治療に行ってやる。どうする? 行くか?」

 ミーニャの顔が、ぱーっと笑顔に変わった……か、可愛い!

「はい! ご主人様、お願いします!」

「ん、私も行きたい」
「兄様、菜奈も行きたいです」

「じゃあ、2人も行くか」
「あ、それなら私も行きたいな~」

 どんどん行きたい人が増えてくる……そりゃ早く異世界観光したいよね。

「大勢で行っても迷惑だから、今回は先着順という事で、雅と菜奈だけね。明日の夕方に全員で異世界観光しよう。この世界の洋服とかも買わなきゃいけないしね」

 俺たちの服は悪目立ちするのだ……下手に誰かから目を付けられる前に、早めにこの世界の服を用意した方がいいだろう。


 というわけで、食後にミーニャの案内で、彼女の実家に向かうことにした。
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