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再起

もういない人への謝罪 I

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 バーコード親父の店の奥の部屋。
 客室と思われる和風な部屋に、トラジとミィナやリーヤ達がバーコード親父とワカバの厚意で休ませて貰っていた。
 誰も何も言わない。
 ウリリの依頼を請け、ウリリと共に行動していたトラジとミィナの悲しみは深く今も泣いていた。
 その様子を見てどう声を掛けていいか分からずにその場の皆が口を噤んだ。

「・・・・・・ミィナちゃんにトラジちゃん」

 静かで重い空気の中、声を掛けたのはリーヤだった。
 目元にはアメリーに抱きつき泣いてしまった時の涙の痕が残っている。

「・・・・・・ごめんなさい。私・・・・・・、敵討ちをするよう言って余計に苦しい思いをさせちゃった。ミィナちゃんやトラジちゃんの気持ちを考えたら悲しくて辛い事だった筈なのに・・・・・・」
「リーヤだけの所為じゃないんだ。俺だって、リーヤの考えが正しいんじゃないかって思って行動した・・・・・・。みな子ごめんな」
「私・・・・・・何も出来なかった。ごめんね」
「グゥ、ググゥ・・・・・・」

 リーヤの謝罪の言葉を聞いてヤガタとアメリーとついでにセンニンが続いて謝る。
 ミィナは顔を上げて袖で涙を拭い答えた。

「リーヤちゃん達は何も悪くないです。・・・・・・悪いのは私。私がポンコツだからっ、私の所為で何日も無駄にして・・・・・・」

  違う・・・・・・。
  誰も悪くない。
  ダメダメだったのは俺なんだよ。
  出来もしない依頼請けたりしてさ。
  冒険者達かエリィにでもさっさとお願いして倒して貰えれば・・・・・・、こんな結果にはならなかった筈なんだ。
  バカなのは俺だ・・・・・・。

 トラジは自分を心の中で責め続け泣いていた。

  だが、泣いてばかりもいられない。自分よりも年下の子供達が何も悪くないのに謝っている。
  俺の所為で、ミィナ達が自分で自分を責め続けるような事にしちゃいけないよな。

 未だ心の中に重く苦しい物が渦巻いていたが、トラジは泣くのを止めてミィナ達を励ます事にした。

「リーヤにヤガタにアメリー。俺達に手を貸してくれてありがとう。それから、リーヤ達は何も悪くないし謝ることは何もない。だから自分を責めるような事はしないでくれ。ミィナもだぞ」
「・・・・・・は、はい」
「トラジちゃんはなんて?」
「リーヤちゃん達に、手を貸してくれてありがとうって・・・・・・。あと、何も悪くないから謝る事はない。だから自分を責めたりしないで欲しいって、言ってます」
「・・・・・・トラジちゃん」
「どうしたリーヤ?」
「トラジちゃんは大丈夫?」

 トラジは何かを見透かされたような気がしてドキンッと心臓が跳ねた。

「・・・・・・大丈夫だ!だから心配しなくていい」
「大丈夫だから心配しなくていいって、言ってます・・・・・・」
「大丈夫なら良かった・・・・・・」

 大丈夫なわけない。
 確かに体は無傷で健康だ。だが、心が苦しくて悲鳴を上げてる。足も僅かだが震えてしまっている。
 リーヤは空元気である事は察していたが、今はこれ以上出来ることはないと考えそれ以上何も言わなかった。
 そこにワカバとバーコード親父、それから冒険者がやってきた。

「どう?少しは落ち着いた?冒険者さん達が念の為にミィナちゃん達の話を聞いておきたいというんだけど大丈夫かな?」
「けっ!俺の証言だけで十分だろうに!子供に気を遣って休ませてやれってんだ!!」
「す、すまんな。死者が出たとなると、冒険者ギルドだけじゃなく他のとこにも報告したりしなきゃでな・・・・・・」

 それから、冒険者達に事の顛末と他の被害等がないかを聞かれそのまま答えて解散となった。
 いつの間にか居なくなっていたミィナ似の子や猫耳の人は謎のままだ。

「ご主人様~、お昼ご飯どうしますか?」
「ムリ。食欲がない・・・・・・」
「で、ですよね~・・・・・・。私も食欲がありませんしやめておきましょう」
「ミィナは食べておきな」
「え~・・・・・・」
「俺だけなら病気になろうが、ミィナが大丈夫ならなんとかなるがな。ミィナにまで体調崩されたらどうにもならないからな。少しは食べておくんだ」
「ご主人様~・・・・・・」
「どうした?」
「怒りますよ?」
「なっ・・・・・・」

 ミィナが眉の端を上げて頭にトラジを睨んだ。
 本気で怒っているようだ。

「ご主人様が病気になったら、私が大丈夫なわけないです!ご主人様が大丈夫じゃないと私が大丈夫じゃないんです!」
「悪かった・・・・・・。なら、俺も少しは食べておかないとな。ミィナ一緒に食べるならいけるか?」
「ご一緒させてもらいます」

 トラジとミィナは量は少なめだが、いつもと同じ安い肉や安い野菜を炒めただけの節約料理を食べた。

  俺達、毎日同じもの作って食べてるよな。
  お金に余裕さえ出来ればもっと色んな料理をミィナに教えてやりたいな。今のとこ切って焼くだけだが、煮たり、蒸したり、レンジで・・・・・・、は無理だから・・・・・・かまどかな?あーでも無理か、俺が使い方知らんな。お金があればもっと色んな食材だって・・・・・・。
  そういえば、お金といえばスライムでするくん(仮)を登録しに行かないと・・・・・・。ウリリにも手伝って貰ったんだ。無駄にしたら怒られるよな・・・・・・。
  ウリリ・・・・・・。

 トラジは目の前のご飯を食べるのを止めて、涙を流してしまっていた。

「ご主人様・・・・・・」

 そんなトラジを見ながらミィナは私がなんとかしないとという思いで、食欲がなくてもいざという時動けるように口に食べ物を運んだ。

  ゴンゴンゴンっ!

 そんな時玄関からノックをする音が響いた。

「誰か来たみたいだな・・・・・・」
「私が~、行きますからご主人様はご飯を食べててくださいね!」

 ミィナが玄関の方に向かい戻ってくると、エリィと黒猫も一緒だった。

「昼飯中にすまないね。こっちも一段落したから様子を見に来たさね。・・・・・・猫スケ大丈夫かい?」
「ああ、体は怪我もないし問題ないよ・・・・・・」

 ミィナは顔を曇らせる。怪我はないのは分かっているが、トラジに明らかに元気がなかったからだ。
 そんなミィナの様子を察して黒猫が通訳する事にした。

「ご主人様。体に怪我はないし問題ないと言ってますね」
「問題なのは心の方って訳かい。ま、黒猫からどういう状況だったかは聞いてるし、予想はしてたさね」
「えっと~、黒猫さん状況を知ってたんですか?」
「ん?黒猫まさか・・・・・・」

 エリィは黒猫を疑いの目で見ると、黒猫は素早く顔をそらした。

「はぁ・・・・・・。どうにも面倒くさいねぇ。もっと素直になればいいのにねぇ・・・・・・」
「わ、私にも色々あるんです!」
「えっと~?」
「こっちの話だから気にしなくていいさね。さて、本題だけど、あたしらが来た理由は3つ。一つはあんたらの様子を見に。二つはライン引きだったかい?必要になったから取りに。三つはあんたらが作った物のレシピを組合に登録申請する話をしに。ま、そんな所さね」
「・・・・・・登録」
「そうよ。トラジとミィナさんが作ったのは間違いなく、新しいアイテムだもの。申請が通ればお金が出るし、有用であれば後から追加で報酬が出ることもあるの。相当失敗もしたはずだから、ちゃんと得る物は得ておくべきだわ」
「ま、申請せずに自分達だけの秘密って事もできるけどね。私も申請しといた方が良いと思うさね」
「わかった。申請はどうすればいい」
「ご主人様。申請するにはどうすればいいと、言ってます」
「あんたらは疲れてるだろうからね、面倒な申請はこっちでやっておくさね。必要な材料をあれば貰えるかい?」
「わかった。ミィナ、材料をエリィに渡してやってくれるか?」
「了解です~」
「ああ、あと言い忘れてたけどね。明日は祭りだから猫スケもミィナもちゃんと参加するんだよ?」
「・・・・・・祭り?」

 エリィと黒猫は帰って行った。

「すっかり忘れてましたけど~、もうそんな時期だったんですね」

  祭りか。エリィや黒猫には悪いがとてもそんな気分にはなれねぇな。

 そして次の日、祭りの日がやってきた。

「あの~、ご主人様行かないんですか?」
「ああ。とても祭りなんて気分にはな・・・・・・」
「でも~、エリィさんは参加するよう言ってたじゃないですか・・・・・・」
「ミィナ、ごめんな。そのな・・・・・・、俺の代わりに行って来てくれるか?」
「ダメです~。ご主人様がいないと私も祭りなんて気分になれませんから」
「困った使い魔だ・・・・・・」
「困ったご主人様です~」
「でも、こんな俺と一緒にいてくれるってのはちょっと嬉しいかもな・・・・・・」
「ず~っと一緒ですよ?」
「甘えん坊な使い魔だ・・・・・・」
「その~、ご主人様も私に甘えて良いんですよ?」
「いやぁ、それは恥ずかしいからな・・・・・・」
「え~・・・・・・」

 ミィナは不服そうに頬を膨らました。
 お昼を過ぎ夕刻が近付いてきた頃だった。

 ゴンゴンゴンっ!

 玄関からノックする音が響いた。

「ご主人様~、私が行きますからのんびりしていてください!」

 ミィナが玄関から戻ってくると見慣れた3人組がいた。
 しかも3人とも浴衣姿だ。
 アメリーは前に見たまんまだが、リーヤは黄色い浴衣でヤガタは赤い浴衣だった。

「トラジちゃんとミィナちゃんをお祭りに誘いに来たわよ!」
「なぁ、リーヤやっぱり止めとこうぜ。こんなに落ち込んでるんだし無理に連れてかない方が良くないか?」
「ダメよ。トラジちゃんもミィナちゃんも祭りに行くべきよ」
「私もリーヤちゃんの言うとおりだと思う。それにエリィさんにもお願いされたしね」

  エリィのやつが絡んでんのか・・・・・・。
  なんでそんなに祭りに行かせたがるんだろな?
  だが、やっぱりそんな気分にはなぁ。

「それにね。男が落ち込んでるならそれを励ましてやるのも女の役目ってやつだもの」
「男ならこんなに落ち込みはしないんじゃないか?」
「そんな事ないわ。人が死んでるのよ?人前で泣くか泣かないかの差はあっても、悲しんでもやれないのは男どころか人ですらないわよ」
「猫だけどな」
「ヤガタうっさい!」
「私も~、どうにかしてあげたいけど、どうすればいいか分からなくて・・・・・・」
「ミィナちゃん、私に任せなさい!」
「不安だなぁ」
「ヤガタは黙ってリーヤに任せようね」

 リーヤは部屋の隅で丸くなってたトラジに近付いた。

「トラジちゃんは、私達に何も悪くないと言ってくれたよね。でも、それはトラジちゃんもだよ?聞いたよ、ウリリちゃんには冒険者ギルドも組合も手を貸そうとしなかったって。トラジちゃんが一番ウリリちゃんを助けようとしたし、ウリリちゃんの心の支えになったし助けにだってなったはずなの」

  どうだろうなぁ。
  俺が何もしなければ、他のやつが何とかした可能性だって・・・・・・。
  俺はほんとにウリリの為になったんだろうか・・・・・・。

「だからウリリちゃんに代わって、私がトラジちゃんを元気にしてあげる」

  何をするかは知らんが、この重ッ苦しい気分がそう簡単に晴れるとは思えんがな。

 リーヤは両手でトラジを持ち上げ、くるっとトラジを180度回転させて自分の方を向かせると自分の胸にトラジを頭から押し付けた。

「お母さん直伝!必殺おっぱいダイブ!」
「うおおおおぃい!!」
「こら暴れないの!!」

 いきなりの事でとっさに暴れるトラジを押さえつけるように腕に力を入れた。

  くっ!なんつー恐ろしい技を教えてんだ!リーヤの母親は!
  クソッ!ミィナ程じゃないがやっぱりいいもの持ってやがる!
  あーやべ・・・・・・。石鹸?ボディソープ?なんかいい香りもするし、気持ちよくなってきたわ。
  つーか顔から胸にダイブしたの何気に初めてだな。ミィナに抱っこされる時は大抵背中やお腹に胸が当る感じだったし・・・・・・。

「いやいや、男つっても相手は猫だし・・・・・・。その励まし方でいいのか・・・・・・?」
「ヤガタそう言いつつ横目でチラチラ見てるあたり。やっぱりムッツリよねー」
「言っとくけど、ヤガタにはしてあげないからね。こういうのは誰にでもするもんじゃないから」
「べ、別にしてほしいわけじゃねーし!!」

 そうこうしてる間にトラジは暴れるのをやめて大人しくなった。

「じ~・・・・・・」
「ど、どうかなミィナちゃん?トラジちゃん少しは元気になってくれた?」
「じぃ~・・・・・・」

  おっふ!ミィナの視線が痛い!
  思い出せ!あの悲痛な思いを!あの悲しみを!
  悲しみよカムバッーーーーク!!
  あかん、なんかいきなりの事で驚いたというか恥ずかしさがあったというか、せ、性欲がうずいたというか。
  そういう感情が色々上回って気が楽になってやがる。
  完全ではないが、恐るべしリーヤの母直伝おっぱいダイブ・・・・・・。

「え~と、前より元気になったみたい・・・・・・」

  なんかちょっと呆れられてる?!
  いやだって仕方ないだろ!俺元は人間だもの!!人間の男だもの!!!!

「よかったー。トラジちゃん猫だしうまくいくかわかんなかったからね。でも、いつもミィナちゃんに抱っこされてるから、好きなんじゃないかなって予想してはいたけど」

  え?
  やっぱりあれってそういう誤解生んでたの?

「へ~・・・・・・、そうだったんですねぇ」

  あー、ミィナの方見るのが怖い。
  呆れられてるのか、はたまたこれから毎日だっこをする事を企んでいるのか・・・・・・。

「トラジちゃんが元気になった所で、祭りに行きますか!」
「だな!行こうぜ祭りに!」
「祭り・・・・・・。見るものすべてを男に変換すれば新たなる未知な道が開け・・・・・・じゅるり」
「それじゃ~、トラジさんを私に・・・・・・」
「今日ばかりは、私にトラジちゃんを任せてもらうわね。えいっ!」
「おっふ!」

 リーヤは浴衣の胸元を少し開き、そこにトラジを押し込んだ。
 リーヤの胸元から丁度トラジの顔だけが出ている状態だ。

「トラジちゃんのふかふかな毛が肌に当って気持ち良いわねー。ミィナちゃんがいつも抱っこしている気持ちが分かるわね」

  いや、さすがにここまでされた事ないんだが・・・・・・。
  それにダイレクトに生で胸が当ってるしな。

「む~・・・・・・。なんかちょっと嬉しそうにしてる」

  めちゃめちゃばれてるやん!!
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