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最高のもっふもふを目指して!

もふもふLv3& Win Win

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「お、いたいた。昨日はごめんな。ほら、ちょっと多目に持ってきたから許してくれな」
「むしろありがとうございます!えへへっ、じゅるじゅる!!」

 次の日、約束通りに男の子がやってきてジャーキーをくれた。
 私は久しぶりのお肉に涎が止まらず、噛んで噛んで、そんでもって噛んで味がしなくなるまで堪能した。
 やはりというか、なんというかなんだけど。

 私はどうやら、生肉よりも加工された肉の方が好きみたいだった。

「しっかし、お前頭いいよな。誰かに飼われてたのか?」
「私はまっさらな新品のままですぜ!おやびん!」

 私はペケもバツもない独身の純潔の狼。
 ただ、まっさらな新品のまま生涯を終えるのが怖い……。
 そんな絶賛『飼い主募集中』な事を、目でこの男の子に訴えてみた。

「なんで捨てられたのかは分からないが元気でな。うちにはもうアルベスがいるしな」

 当然だが、言葉も視線も男の子には届かなかった……。

 まぁ、知ってたけどね。
 当然、そうだと思ったけどねー。
 アルベスうらやまーー!

「覚えててくれるかは分からないけど、俺はアグって名前なんだ。そんじゃ、またアルベスが逃げたら手を貸してくれよー!」

 そう言って男の子は町の方へ帰って行った。

「やっぱり、あの男の子はダメだったか。今のところ一番仲良くやれそうだったのになー」

 次に仲良くなれそうなのは、何かの洗剤でわしゃわしゃしてきたあの女の子なんだけどね……。
 色々と不安にさせられる子だったな。
 たぶんだけど、動物を飼った事がないんだろう。

 一緒に生活するとなれば、事前に動物の世話のお勉強をしといて貰いたいくらいだ。

「……うーん。仲良くなれそうな人間は今のとここの2人だけか。しかも、アグはアルベスがいるから私の世話できないらしい……。3食昼寝付きの道のりは遠いなぁ」



 それから3日が過ぎた。
 私はそろそろ大丈夫だろうと思って、再び町の中へ入ろうとしていた。
 今までの事を考えると不安だという人もいるだろうが安心してほしい。

 ちゃーーーんと、作戦と準備をしてきている。

「ででででーん!古びたロープ!!」

 ででででーんの意味は知らないが、なんか箱から物を出す時の効果音らしい。
 じゃなくて、見てほしいのはロープの方。
 私の今回の作戦ではこのロープが鍵になっていたりする。

 その作戦とは『飼い犬に見えれば誰も怖がらないし、保険城も気付かないだろ!』作戦だ。

「危なくなったらロープの先を首に軽く巻くだけ。もちろんもう片方のロープの先は事前に地面に軽く埋めておくだけの単純作業……。完璧っ!」

 ロープの先を咥えてその場で一回転するだけ(わずか0,6秒)、それだけで私は大変身!
 誰の目から見ても飼い犬にしか見えないだろう。
 狼かもと思う人間はいるかもしれないが、人に飼われていて、その上ロープで繋がれているとなればだ、騒ぐ者はもはやおるまいて。

 となれば、保険城の手下も保健所警察の目を欺けるというものだ。

「私は天才かもしれないなっ!」

 いつか天才犬または天才狼として、取材とか来て毎日写真 パシャッ パシャッ!されるかもしれない。
 そうなれば、飼い主が速攻で出来て、取材が来るのだからと見た目も気にしてくれるはず。
 定期的なお風呂と、こまめなブラッシング……。

 そして、ふわもふで犬達の中でも最高級なセレブと化した私……。そして献上される豪華な食事……。

「いやぁ、困っちゃうなー。えへへー、もうそんなにお肉は食べられないよー。でも、明日食べるから捨てないで置いてー……。ぐへっ、ぐへへへっ……」



 (妄想が暴走中につき、しばらくお待ちください)



「さて、町に入るのは明日にして子蟹でも食いに行くか」

 私は空を見てそう思った。
 口からは空腹からか、妄想からか涎が垂れて地面にシミを作っていた。

 見上げた空は、青さを失い、日は沈みかけ、空は茜色に輝いていた。

「……私は結構バカなのかもしれない!!」

 空を見ながら、天才かもというのは保留にする事にした私だった。



「今日こそは町に入るよー!待っててー!私の3食昼寝付生活ー!!」

 私は木箱を被りロープを咥えて町へ潜入した。
 前回の失敗点を踏まえて、今度は人通りの多い場所を避けて少ない所を狙う。
 狙い目は、やはり大人じゃなく子供だと私は考えた。

 だって、保険城の手下も保健所警察もどっちも大人の中に紛れている。ならば、危険を避けるなら子供をターゲットにして好かれるのがやはり安全!

 そういう考えもあり、私は町中の端の方にあった子供の遊び場になってそうな広い空き地の前に陣取っていた。

 約1時間が経過……。

「……。うん、なかなか人が来ないな」

 約3時間が経過……。 

 一応、この状況は想定の範囲以内ではある。
 だって人通りの少ない所で、子供の遊び場になっていそうな場所を狙ってるんだから、場合によってはまったく誰も来ない事もありえるのだから。
 ただ唯一、私の想定外だった事は……。

 私が想定以上に我慢強くなかった事だぁーーー!!

「寝るならまだしも、ただぼーっとして待つとかつらいわっ!」

 なら寝ればいいじゃんって思うでしょ?
 でもそれは無理。

 だって、もう約3時間くらい寝ちゃったから!

「ちょっと危ないかもだが、もう人通りのある所へ行こう。そうしよう!」

 その時だった、こっちの方へやってくる足音を私の耳がキャッチした。
 恐らく、これは子供ではなく大人だ。
 そう感じた私は素早くロープを口に咥え一回転。

 見事に首にロープを巻きつけて、飼い犬に成りすました。

「ん?なんだぁこの犬は……」

 私は目の前まで来た男の顔を見て、かるく頭を傾げてみせた。

 ふふふっ。
 見た?このロープと見事な私の演技力を、もはや怪盗3世に引けをとるまい!
 そういうわけで、今の私は立派な飼い犬なんで何も恐れるものはない。

 だが、男は私とその首に繋がれたロープを見て、こう言った。

「誰だか知らないが、ダメじゃないか。こんなとこに犬を捨てちゃ」
「なぬっ!?」

 そう、私は失念してた。
 ここは人通りの極端に少ない広い空き地の前。
 当然そこに住む人など皆無……。

 つまりだ、こんなとこに犬を繋げておく飼い主なんているわけがないのだ。

「しまったぁぁ!」
「ああ!おい!なぜ逃げる!!」

 私はすぐさま木箱を被り逃走した。

 反省。
 飼い犬の振りは何もない所では無意味……。



 そして私が行き着いたのは、食べ物を売っているお店の横だった。
 そのお店は、歩きながら食べる感じの円盤状のコロッケだかメンチカツのような物を売っている店でした。
 揚げ物特有の香りと肉汁の香りの2重層の香り、それが狼である私の鼻を刺激して辛抱たまらん状態になってしまったわけなんですよ。

 私はそんなお店の横で飼い犬偽装をしていた。

「でも、こんなに美味しそうな匂いなのに、あんまり客がいないなぁ」

 おそらく、立地のせいだろう。
 ここはさっきの空き地よりは人はいるが、不要不急の外出を避けているのか?というくらいにまばらだった。
 可能性は低いかもだが、それだけに私にはちょっと期待している事がある。

 それは、売れ残りを私に分けてくれたりしないかなってね!

 しかし、ただでそこまでしてくれるかは微妙かもしれない。
 親切な人か動物好きならいざ知らず、処分に困ったからってくれるかどうかは怪しい。
 だって、そんな事をして懐かれて、野良犬や野良猫が集まってきたら返って商売の邪魔になるだろう?仮にも大人であればそれくらい想像がつくはずだ。

 チラリと見た所、店主は無口そうな30代くらいの男性で私にも無関心そうだった。でも、このもの静かそうな感じだけは、どこかで見た事がありそうな既視感を感じさせた。

 私に売れ残りを分けてくれる可能性は低そうな気がした。
 ただしだ。それは何もせずに待った場合の話、『くれる可能性が低そうなら上げればいい』私にはその秘策があった。

「くーーーん!くーーーん!」

 近くを通る人をなるべく狙い、なるべく高めの音で切なく我慢するような物欲しそうな感じを意識し、私はくーーーん!と鳴いた。
 うまく行くとは限らなかったが、私のこのくーーーん!作戦は通行人の興味を引いたようで通行人を引き寄せた。

「あら、どうしたの?お腹すいてるの?」

 私の目の前まで寄って来た女性の通行人に一度目を合わせた上で、わざとらしくお店の方に顔を向いてさらにくーーーんと鳴いてみせた。

 するとだ……。

「……いらっしゃい」
「ちょっと、あなた飼い主さんでしょ!ちゃんとごはんあげてるの!?」
「あ、え……?か、飼い主……?ごはん?」

 やべっ!?クレーマー生み出しちゃったよ!!
 鳴き方がわざとらし過ぎたのかもっ!!

 店主の男が店から体を乗り出してこっちに目を向けた。
 私は咄嗟に サッ と反対側を向いて、知らない振りをした。

「はぁ……、もういいわ!そのコロッケを2個頂戴!」
「えっ、あ、はい!30クセルになります!」

 そしてその通行人は私の前まで戻り、コロッケを1個を私にくれた。
 私はちょっとやりすぎたかと焦ったが、見事にお店の売り上げに貢献し、さらに私のお腹まで喜ばすという Win Win な結果を生み出した。

 私はコロッケをくれた人に向かって犬マネで尻尾を振りまくり、頬をひと舐めした。

「な、なんだったんだ……?」

 私は内心ニヤリとしコロッケを食べた。
 サクっとした衣にホクホクなじゃがいもの香りに挽肉の香りが衣の中から顔を出す。
 味ももうしぶなく美味しかった。

 ただ、店主の人!
 不思議がっている場合じゃないよっ!
 だって、私の胃袋はまだまだ余裕があるんだからねっ!

 そう、私のこの作戦はまだ始まったばかりで、無口そうな男の店主はそれをまだ知らない。
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