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15.巻き戻り2日目-1
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◇◇◇
「お腹に……え……?」
混乱するわたしをよそに、明日香は白黒の薄い紙を取り出した。
「……これ、証拠。お腹の赤ちゃんのエコー写真」
そこには横向きの人影らしきものがはっきりと写っていた。腕を曲げていることすらわかる。6ヶ月でもう人の形をしているんだ、とわたしはどこか冷静に思った。
ぽたり、と水滴がテーブルに落ちた。
「……この間、分かったの。妊娠してるって。もう気づいた時には堕ろせない週数で……」
顔を上げると、明日香の瞳からみるみるうちに涙があふれ、智樹はその背中をさすり続ける。わたしはただ、ふたりを遠い風景のようにぼんやりと見つめるだけだった。
短い嗚咽が響き、刻々と時間だけが過ぎる。わたしを責めるように睨む智樹の沈黙が、重くのしかかってきていた。
わたしがうなずけば、ふたりは笑ってくれるだろうか。
そんな思いが胸をかすめる。
……うん、いいじゃないか。ふたりはお似合いだ。智樹も明日香も、わたしの大切な人に変わりない。ふたりならきっと支え合って、わたしなんかより智樹は幸せになるに違いない。
諦めにも似た、しかしあたたかな気持ちで身を引く言葉を口にしかけた。
「……だから、別れて。お願い。この子の父親を取らないで」
涙ながらに訴えてきた明日香の言葉に、わたしは頭が真っ白になった。
取らないで? どういうこと? あとからきて略奪しようとしているのはあなたでしょ?
理解できない。あれ? 明日香ってこんな子だった? わたしの知ってる明日香はどこ?
なんで智樹は何も言わないの? わたしたち、まだ付き合ってるよね?
大量の疑問符が浮かび、徐々に目の前が真っ赤になっていく。
その中で、白黒のエコー写真だけは鮮明にその色を保っている。
こんな紙ぺら一枚で何の証明になるの? そもそもこれが明日香のお腹の子だって証拠は? 他人の写真を盗っただけかもしれない。
……そうだ、きっとそう。明日香は智樹と一緒に、わたしを騙そうとしている。
赤く染まった世界が、またゆっくりと元に戻り始めた。
その安心感からか声を上げて笑う。こんな見えすいた嘘に引っかかりかけたわたしを、ふたりは笑ってくれるかもしれない。
しかし予想に反して、ふたりは戸惑うように椅子ごとあとずさった。
「カナ……?」
「もうお芝居はいいって、ドッキリでしょ?」
わたしの言葉にふたりはくちごもる。
「……カナ、その、」
「いいのいいの、分かってるから。明日香はそんなことする子じゃないし、智樹だって婚約してるのに浮気なんてする人じゃないって分かってるから」
はやくネタバラシをしてほしい、そんな思いから早口になる。
お願い、お願いだから。
「カナ、全部本当だよ。俺と明日香は愛し合ってる。だから別れてくれ。カナのことを最後の最後で嫌いになりたくないんだ」
わたしの願いを打ち砕くように、智樹は優しい声色で言う。
嫌いになりたくない、でも別れる。
それは果てしなく残酷な響きで、世界は再び完全に真っ赤に染まった。
◇◇◇
「お腹に……え……?」
混乱するわたしをよそに、明日香は白黒の薄い紙を取り出した。
「……これ、証拠。お腹の赤ちゃんのエコー写真」
そこには横向きの人影らしきものがはっきりと写っていた。腕を曲げていることすらわかる。6ヶ月でもう人の形をしているんだ、とわたしはどこか冷静に思った。
ぽたり、と水滴がテーブルに落ちた。
「……この間、分かったの。妊娠してるって。もう気づいた時には堕ろせない週数で……」
顔を上げると、明日香の瞳からみるみるうちに涙があふれ、智樹はその背中をさすり続ける。わたしはただ、ふたりを遠い風景のようにぼんやりと見つめるだけだった。
短い嗚咽が響き、刻々と時間だけが過ぎる。わたしを責めるように睨む智樹の沈黙が、重くのしかかってきていた。
わたしがうなずけば、ふたりは笑ってくれるだろうか。
そんな思いが胸をかすめる。
……うん、いいじゃないか。ふたりはお似合いだ。智樹も明日香も、わたしの大切な人に変わりない。ふたりならきっと支え合って、わたしなんかより智樹は幸せになるに違いない。
諦めにも似た、しかしあたたかな気持ちで身を引く言葉を口にしかけた。
「……だから、別れて。お願い。この子の父親を取らないで」
涙ながらに訴えてきた明日香の言葉に、わたしは頭が真っ白になった。
取らないで? どういうこと? あとからきて略奪しようとしているのはあなたでしょ?
理解できない。あれ? 明日香ってこんな子だった? わたしの知ってる明日香はどこ?
なんで智樹は何も言わないの? わたしたち、まだ付き合ってるよね?
大量の疑問符が浮かび、徐々に目の前が真っ赤になっていく。
その中で、白黒のエコー写真だけは鮮明にその色を保っている。
こんな紙ぺら一枚で何の証明になるの? そもそもこれが明日香のお腹の子だって証拠は? 他人の写真を盗っただけかもしれない。
……そうだ、きっとそう。明日香は智樹と一緒に、わたしを騙そうとしている。
赤く染まった世界が、またゆっくりと元に戻り始めた。
その安心感からか声を上げて笑う。こんな見えすいた嘘に引っかかりかけたわたしを、ふたりは笑ってくれるかもしれない。
しかし予想に反して、ふたりは戸惑うように椅子ごとあとずさった。
「カナ……?」
「もうお芝居はいいって、ドッキリでしょ?」
わたしの言葉にふたりはくちごもる。
「……カナ、その、」
「いいのいいの、分かってるから。明日香はそんなことする子じゃないし、智樹だって婚約してるのに浮気なんてする人じゃないって分かってるから」
はやくネタバラシをしてほしい、そんな思いから早口になる。
お願い、お願いだから。
「カナ、全部本当だよ。俺と明日香は愛し合ってる。だから別れてくれ。カナのことを最後の最後で嫌いになりたくないんだ」
わたしの願いを打ち砕くように、智樹は優しい声色で言う。
嫌いになりたくない、でも別れる。
それは果てしなく残酷な響きで、世界は再び完全に真っ赤に染まった。
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