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1章

26.彼の怒り

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【ジークフリート視点】





 ジークフリートが訓練所の門をくぐった時、奥の方から地鳴りが聞こえた。

(何事だ……?!)

 今日はこれから王立学校の小等部から見学が来る予定だ。そんな日に何か事故でも起こったら困る。生徒が巻き込まれでもしたら──。

 ジークフリートは駆け出した。走っているうちに状況が見えてくる。

 様子を伺うように道の端に固まっている引率者と子供たち。

 無造作に放り出された練習用の武器の数々。

 戸惑い、息すらできず一点を見つめる隊員たち。

 でこぼこになった演習場の地面。倒木。

 舞い上がる砂ぼこり。

 その中心に彼らはいた。

(……! あいつら……?!)

 ジークフリートは赤髪が逆立つ思いがした。

 防御の姿勢も取れずさらされたヴィクターの脇腹に、低い姿勢で飛び込んだアルティーティ。しかし脇腹を薙ぐ直前に、彼女は石像のようにぴたりと止まってしまった。

 冷や汗で髪までびっしょりのヴィクターはいい。問題はアルティーティだ。角度的に小さな背中しか見えないが、問題は──。

(あいつ……剣を……!)

「勝負あり、かな」

 いつの間に隣にいたのか、それとも自分が彼の隣で立ち止まったのか。

 カミルの声に意識を引き戻された。その両隣には、残念そうなミニョルと静かに驚いているアレスがいる。

 いや、そんなことはどうでもいい。

 ジークフリートはカミルの胸ぐらを掴んだ。

「なぜ……! なぜ止めなかった……!?」

 自分でも八つ当たりだとは分かっている。この場を離れた自分への苛立ち。カミルに当たったところでそれが解消されるわけでもない。

 声を荒げたジークフリートに、彼はいつもの微笑を浮かべた。

「止めたところで止まらないよ、あんなの。君もわかるだろ?」

 当然だ、と言わんばかりだ。ジークフリートの拳に力がこもる。

 新人たちが仲が悪いことは、薄々気づいていた。

 ジークフリートとて、カミルと最初から仲が良かったわけではない。
 衝突を繰り返し、今の関係がある。

 理解し合えるまで大いに衝突すればいい。その点では、カミルと同意見だった。

 しかし限度がある。特にアルティーティは別の問題も抱えている。そのことに気づいた今、彼女を止める他ない。

 ジークフリートはカミルを突き放した。

「あいつは……あいつは使んだぞ!」

 身を翻し、駆け出したジークフリートをミニョルとアレスは半ば茫然と目で追った。

「隊長ったら何言ってんのかしら……」
「アルト、剣使用中」

 口々に言う彼らの横で、服の乱れを払ったカミルはひと知れずつぶやいた。

「……君がそこまで必死になるとはね」
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